ゴールデン・ウィーク中の3日、国技館で横綱審議委員会による「稽古総見」が無料で一般公開され、5000人の相撲ファンが集まった。
稽古総見は本場所が始まる1週間ぐらい前に毎回行われ、力士たちの稽古の進み具合を見る。いつもは非公開だが、五月場所だけはファンに公開されている。
稽古は朝7時半、幕下の「申し合い稽古」からスタート。これはいわゆる勝ち抜き戦。勝った方が残って、次に取る力士を指名していき、次々勝負が続く。日頃は同じ部屋の限られた同士でしか稽古出来ないが、ここでは違う部屋の、本場所で当たる可能性大な相手と勝負出来る絶好のチャンス!
となれば、我こそが!とみ~んな積極的にオレ!オレ!と手を挙げてドッと土俵になだれ込む。その様は面白くありつつ、同時に見ていて身が引き締まるものだ。
日ごろの相撲見物は真剣に見つつもお酒を飲んだり、おしゃべりをしながらのんびり楽しむ。でも、稽古総見はもちろんアルコール類は禁止だし(朝ごはん用のオニギリやサンドイッチは販売されてます!)、私語も原則禁止。ジッとひたすら土俵を見つめていると、彼らの気合に見る方も次第に力が入り、技の一つ一つ、流れの複雑さに「ほ~」とため息さえ漏れる。相撲ってなんて面白い!
幕下で誰より稽古熱心だったのは伊勢ヶ濱部屋の富栄。幕下の「ぶつかり稽古(ぶつかる力士と受ける力士に分かれて、押しと受け身の型を身に付ける稽古)」が終わって十両力士たちが「申し合い稽古」を始めても土俵際に残り、誰より早く土俵に飛び出して行き、その姿には、涙さえ出た。頑張る姿は人を感動させる。身長168センチの小兵。バク転をキメる力士として相撲協会のツイッターを沸かせたこともあるけど、五月場所は幕下の土俵を沸かせてくれるはず!
さて、稽古は幕内に進み、なんと言っても栃ノ心が凄かった! 大関を狙う栃ノ心、巡業中の稽古でも強さを見せつけていただけに、誰もが栃ノ心と組みたい!と幕内力士たちも幕下力士たち以上にオレ!オレ!オレ!と栃ノ心に突進して行く! それをバッタバタと倒していく栃ノ心。さらに逸ノ城も激しい取組を見せて、やる気十分! この2人が五月場所も台風の目になること、間違いナシ。
そして、何より場内が沸いたのは白鵬と遠藤のぶつかり稽古。小結に昇進した遠藤への「お祝い」だったという猛稽古だが、横綱が下位の力士へ胸を貸すのは、下位の力士にとってありがたく名誉なこと。最初は「三番稽古」(2人だけで何番も対戦する)を6番取って、白鵬の全勝。そのまま「ぶつかり稽古」となり、白鵬が受け手で、遠藤がぶつかって行く。何度も激しくぶつかり、転がされ、遠藤は泥だらけ、息も絶え絶えに。いわゆる「かわいがり」という相撲界独特の稽古法で、こうして力士たちは限界を超えて強くなる。大相撲は趣味ではない、プロによる厳しいスポーツだ。
倒され、寝転がり、息が上がった遠藤の髷を掴んで起こし、白鵬は上手いこと“角界のスター遠藤”の表情をしっかりお客さんに向けて見せてくれるから、その度に場内はドッと沸いた。するとナニクソっ!と気合を入れ直す遠藤。体勢を立て直し、バンッとまわしを叩いて白鵬に全力でぶつかっていく。拍手喝采だ! 「頑張って上がってこいよ!」という横綱の愛情、遠藤の「絶対に強くなって横綱に勝つ」という気合を存分に見せてもらい、いいものを見せてもらった!と感激した。
最後には関取全員が土俵を囲み、力士会会長の横綱・鶴竜が「私たち力士は五月場所、みなさんのご期待に応えられるよう、精いっぱいがんばります。これからも大相撲の応援よろしくお願いします」とあいさつ。場内ヤンヤと沸き、五月場所への期待を高めたのだった。【和田静香】
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