この記事の写真をみる(6枚)

 先月28、29の2日間にわたって幕張メッセで開催された『ニコニコ超会議2018』。その「超トークステージ」の企画で、『誰がテレビを殺すのか、あるいは誰も殺せないのか。』と題し、現在のテレビメディア、ネットメディアを牽引する5人が今のテレビとネットの今と未来について議論した。

■登壇者

  • 佐久間宣行(テレビ東京プロデューサー)
  • 夏野剛(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授)
  • 福原伸治(BuzzFeed Japan 動画統括部長・元フジテレビ)
  • 藤田晋(サイバーエージェント社長)
  • 前田裕二(SHOWROOM総合プロデューサー)

■福原氏「radikoモデルも一つの参考に」

夏野:(1の続きNHKがネットでサイマル配信することに民放は反対しているけれど、これはどう受け止めればいい?極端に言えばNHKは"月額課金"だから、Netflix的だとも言える。だったら別物なんじゃないかという考え方もあると思う。

拡大する

福原伸治氏


福原:ラジオの場合、radikoという同じプラットフォームにNHKも含め全局入った。それによって聴取率が下げ止まったということもあって、テレビでも同じモデルでやってみてはどうかという議論もあると思う。決して最終的な解ではないと思うが、テレビ業界もまだ余力があるうちにやっていくべきだと思う。

夏野:テレビの地域制限はビジネスモデルを成り立たせるためというよりは法律の問題で、radikoもインターネットだけどIPを使ってエリア制限をかけている。いわば放送の概念を持ち込んだことで生まれたビジネスモデル。でも、業界でまとまって、というと進まないのが日本だから(笑)。

福原:TVerからフジテレビに行こうとするとFODに遷移しないといけなくて、めんどくさいと思ってしまう。使いやすいUI/Uにすることも含めて変えていかないと、潜在的な視聴者が逃げていってしまう。

佐久間:確かに、そういう部分は各局で競争していてはダメだとも思う。

■藤田氏「DAZN進出、長期的に見れば大歓迎」

夏野:それから、DAZNが入ってきたのはテレビ業界にとってやっぱり衝撃だったんじゃないかと思う。日本が「テレビかネットか」という議論をしている間に、いきなりJリーグをかっさらっていた。これから他も競技もかっさらっていくと思う。ドコモと提携しているとはいえ、外資が日本のオリジナルコンテンツを押さえに来た。10年間の全試合の独占放映権が2300億円だけど、東南アジアで売れるから安いくらいだという話しだ。Amazonプライムでもアニメが人気になってきているし、これから先、こういうことがどんどん起きてくると思う。

佐久間:アニメで稼いでるテレビ局は揺らぐと思うし、Netflixが制作した『デビルマン』はすごいクオリティだった。テレ東にとっても他人事ではない。

拡大する

藤田晋氏


藤田:外資にやられるという懸念はあるとしても、長期的に見れば大歓迎。Jリーグ好きの人がスマホで試合を観ることができて、テレビデバイスを使えばより快適に観ることができる。YouTubeやニコ生が作った、ネットで動画を見るという文化、習慣をさらに後押しして、当たり前のことにしてくれる効果がある。だから頑張ってほしい。

夏野:将来的にはコンテンツ制作の市場で回るお金が増えるという意味では、テレビ局にとっても良いことなのでは?

佐久間:確かに制作費は下がっているし、地上波だけで回収するモデルは厳しくなるかもしれない。だけど『ゴッドタン』や『孤独のグルメ』はネットで延々と回収し続けるコンテンツになってくれたように、結果としてお金をかけられるようになる部分はあると思う。

■佐久間氏「著作権問題の解決を」

福原:だからこそ、テレ朝がAbemaTVをやるというソリューションは優れていると思う。具体的なマネタイズはこれからだと思うが、地上波とネットではお金の集め方も変わってくるし、両方で流すということで集められるお金もあるはず。内容面でも、AbemaTVの番組でアナウンサーがテレビ朝日の報道について「おかしい」と言った。あれは凄いことだと思うし、そういうことができるのも強みだと思う。

藤田:でもグループ会社なのにライバルだと思われるかもしれないので、AbemaTVはテレビ朝日が出資しているということを改めてわかってもらうために、"一枚岩"というポスターを両社の社内に張ろうとしている(笑)。地上波でグループ内のBSの番組のことをあまり言わないのは、自分たちの視聴率を下げたくないという意識があるから。ネット企業の人にはわからないかもしれないが、そのくらいテレビマンにとって視聴率は切実なものだから。

拡大する

佐久間宣行氏


佐久間:人によっては、TVerに出すのも嫌だという(笑)。

夏野:コンテンツをネットに出したがらないというのも、業界ですごく横並びだと感じる。

福原:使えないことはないが、お金がかかったり権利処理が大変だったりで、費用対効果を考えてネットには出さないと判断するケースもある。

佐久間:日本は音楽の版権などが複雑。ネットにドラマが出せるのは劇伴をオリジナルで作ってるから。僕はバラエティでもオリジナル劇伴を作って、ネットに出せるようにした。著作権の問題は政治のレベルでなんとかしないといけないと思う。

■前田氏「新聞を取る人が減った結果、テレビのタッチポイントも減った」

福原:著作権で言えば、テレビ版の「漫画村」が出る前に、どうにかしないといけない。

前田:「実は漫画村が出て以降、売上が上がった」と話していた出版社の人もいる。つまり、漫画が売れていた頃は本屋さんで立ち読みしていた。それが本屋さんが減ってタッチポイントが減った結果、漫画村が立ち読みの場所のようになったんだと思う。テレビにとってのタッチポイントは、新聞のテレビ欄だったと思う。みんなあれを見て、自分の一日の予定にテレビを見る時間を組み込んでいたはず。新聞を取る人が減って、若年層がテレビを見るきっかけを作れていない。

夏野:映画業界もそうで、映画館で観た人がソフト化されたもの買ってもう一度見るという流れがあると思う。テレビにとって最高のタッチポイントはネットなんだから、番宣や制作風景をどんどんバズらせればいい。

前田:でも、SNSやSHOWROOMも競合と見られているので(笑)。可処分時間を奪ってるじゃないかと言われれば確かにそのとおりだけど。

夏野:家にいたからってテレビ見るわけじゃないし、そもそも家にいないかも知れないのに(笑)

拡大する

前田裕二氏


前田:これまでは可処分時間を奪い合って、そこに広告を出してマネタイズしていたけど、これからは可処分"精神"の奪い合いになると思う。人間のマインドの100%のうち、何かに割ける量は決まっている。恋人ができたら可処分精神100%になるかもしれないし。それを踏まえたサービスづくりやコンテンツづくりをしないといけないと思う。だから視聴数や視聴率だけではなく、滞在時間やコメント数、SHOWROOMで言えばギフトの数など、深さが重要になってくる。

福原:視聴率に代わる、ネットとテレビを比較できる新しいスケールが必要になってくると思う。

■夏野氏「視聴率はもっとリアルな数値が出せるはず」

夏野:ニコニコはログインユーザー数なので、複数デバイスだったとしてもカウントは1人。それが800万人というのは結構多い方だと思う。それなのに「少ないですね」って言われて、損した気分になる(笑)。だからネットでどれくらい見られたというのと、テレビの視聴率というのも比べようがない。たとえば関東の世帯視聴率に掛け算する母数一つとってみても、東京は50%が単身世帯だし、テレビを持っていない若い人もいる。そのことをどう考えればいいのか。でも、ネットで言うアクティブユーザー数みたいなものは割り出せる気もするし、地域性なんかも勘案して、国勢調査のたびに係数を改定していけば、統計学的にリアルな推測値が出せると思う。

拡大する

夏野剛氏


前田:そうすると、既存の広告のビジネスモデルが変わってしまう可能性があるから(笑)。一方で、ネットのPVやUUというのも信用しにくい。ニコニコのようにプラットフォームを信頼して毎月お金を払ってくる人がそれだけ居るという、その"深さ"を指標にすることも大事だと思う。

夏野:AbemaTVの「視聴数」というのは議論もあったようだけど(笑)。

藤田:公共の電波を使わなくてもこれだけ多くの人に届けられるんだ、ということを『72時間ホンネテレビ』で示せた。一方で、ドラマをリアルタイムで見せて数字を取るのは難しくなっていると思う。ネットで、オンデマンドで、というモデルで考えていかなければいけない。

佐久間:ドラマのオンデマンドがリアルタイムと同じくらい見られているというデータに、みんな衝撃を受けている。

福原:リアルタイムで、広告を見せて、という民放のビジネスモデルから、オンデマンドで、課金でというモデルが回るようになれば、ずいぶん変わってくると思う。

(構成:編集部)

SHOWROOM前田氏、サイバー藤田氏らが語った"テレビ局の危機"~「誰がテレビを殺すのか、あるいは誰も殺せないのか。」(1)
SHOWROOM前田氏、サイバー藤田氏らが語った"テレビ局の危機"~「誰がテレビを殺すのか、あるいは誰も殺せないのか。」(1)
 先月28、29の2日間にわたって幕張メッセで開催された『ニコニコ超会議2018』。その「超トークステージ」の企画で、『誰がテレビを殺すのか、あるいは誰も殺せないのか。』と題し、現在のテレビメディア、
AbemaTIMES
【CA藤田晋,テレ東 佐久間P,BuzzFeed福原伸治,SHOWROOM前田裕二 出演】超トークステージ@ニコニコ超会議201...
【CA藤田晋,テレ東 佐久間P,BuzzFeed福原伸治,SHOWROOM前田裕二 出演】超トークステージ@ニコニコ超会議201...
各演目を冒頭から視聴■#00:21←クリックで再生深夜35時の"超セクシー男優"男塾■#01:30:
ニコニコ生放送
誰がテレビを殺すのか (角川新書)
誰がテレビを殺すのか (角川新書)
誰がテレビを殺すのか (角川新書)
Amazon.co.jp
AbemaNewsチャンネル | 無料のインターネットテレビはAbemaTV(アベマTV)
AbemaNewsチャンネル | 無料のインターネットテレビはAbemaTV(アベマTV)
AbemaTVのAbemaNewsチャンネルで現在放送中の番組が視聴できます。
この記事の画像一覧
この記事の写真をみる(6枚)