昨夜開かれた、日大アメフト部の内田正人前監督と井上奨コーチの会見は、司会者が記者の質問を度々制止、激しい応酬も繰り広げられる中、2時間に及ぶ長丁場となった。
会見を受け、元アメフト選手の秦英之氏は「どう処理したらいいのか、というのが正直な気持ちだ。"もしかしたら、責任を感じて欲しいという方が間違っているのか?"と思わせる記者だった」と嘆息する。
「確かに昨年、日大が27年ぶりに日本一になったという実績はある。ただ、"勝利至上主義"になるあまり、勝つためにはなんでもやるという空想、いわば"内田ワールド"が頭の中にできあがっていて、現実世界と完全に違う方向にいっていると確信した。それは決して日大フェニックスや、アメフトの伝統を作ってきた方々を代表はしていないし、そういう独特の価値観が会見の端々に出ていたことが、会見のモヤモヤをもたらしていたのではないか」。
■「会話のためのアンテナを失ってしまったのでは」
今回の会見における焦点の一つが、反則行為に指示があったかどうかだ。反則行為をした宮川選手は前日に「タックルは監督の指示」と説明していた。これについて内田前監督は「フィールドで起きたことは私の責任」としつつ、「タックルをしろと言ったのは私の指示ではない」と述べ、「(宮川選手が)QBを潰すので出してくれと言ってきたというが、正直わからなかった」との認識を示した。また井上コーチも「監督からQBを潰してこいと指示は飛んでない」とした上で、「私がQBを潰してこいと選手に言ったのは真実」とし”潰せ”発言は自らのものだったと認めた。
このことについても秦氏は「前監督の捉え方がマヒしてギャップを感じてない中、議論をあてても解決しないのでは」と厳しい見方を示した。
一方、内田前監督は「恥ずかしい話だが」と前置きした上で、宮川選手とのコミュニケーションがしっかり取れていなかったことを認めている。井上コーチも「(宮川選手が)発表したこと、思っていることは合っている」としながらも「彼に思い切りやってほしかった。彼への僕からの課題だった」「壊しにいけ、潰しにいけというのは、その中にいろんな意味がある」といった説明を繰り返した。
秦氏は「日大フェニックスの篠竹幹夫元監督など、代々の名将の方々の特徴として、大枠の指示は出すが、最終的には個を育てるという教育指導にこだわって続けてきた。勝ち負けよりも、選手の個としての成長が大事だという考え方で、監督が現場に入っていって細かく言うことはせず、自分たちで考えさせる。もちろん、確かに勝負の世界なので、気持ちが高揚して"潰そうぜ!勝つぞ!やるぞ!"と声を上げるのも日常茶飯事だが、井上コーチの話を聞いて感じるのは、そこで誤解が生じたり、捉え方がずれていったりしたとすれば、コーチの経験不足があったとのではないかと感じた」と話す。
そして「監督の立ち位置として、統制や緊張感を保つため、選手が声をかけられないほど恐れられることも大事だが、実は上の人ほど敏感にならなくてはいけないと思う。篠竹監督はフィールド上ではものすごく厳しく、本当に近寄りがたい人だったが、4年生の幹部選手とはお風呂で背中を流し合った。私の恩師の野崎和夫・明治大学アメフト部監督も、ファッション誌を手に"今なにが流行っているのか"と選手に聞いてきた。内田前監督の場合、そうした会話のためのアンテナを何かのきっかけで失ってしまったのではないか。誰とも会話せず、誰からも注意されなくなった結果、"内田ワールド"が作られていってしまったのではないか」とした。
最後に秦氏は「起きてしまったことは事実だし、正面切って原因究明をして、学ぶべきことは学ぶ。未来に向けて、次の世代に対して、この経験が価値として残るようにしていかないと意味がないと思う。とにかくそこだけだ」と悲痛な表情で訴えた。
■堀潤氏「監督・コーチによるネグレクトだ」
ジャーナリストの堀潤氏は「腹立たしい気持ちになったのは、内田前監督が"彼が不安定なのを見抜けなかった""私たちにも指導の責任はあるが、彼にはそういうつもりで言ったのではなかった。彼がそう受け止めた"というような言い方をして、選手の側にも問題があるというスタンスをあくまでも崩さなかったこと。"教え子が嘘を言っている可能性だってあるではないか"という意識が滲み出ていると思った。イエス・ノーでスパッと答えられるような質問に対しても、"正直""そんな""ある意味"というような言い方で、圧倒的に語彙が足りないと感じた。指導者として、選手たちに自分の思いを正確に伝えられていたのか、やはりそのための力量がなかったんじゃないかと思う」と厳しく批判。
そして、大学で学生たちを指導する機会もある立場から「宮川選手の悪質タックルについて、内田前監督は"僕はボールを追っていたので見ていなかった"と言った。"日本代表に行ったらダメだと言った"という話についても、"そんなこと言ったかな"と答えた。選手が"一生懸命やるから自分の方を向いてほしい、監督たちの期待にも応えられるんだ"と頑張ったのに"見ていない。知らない。覚えていない。そんなつもりではない"。ここから監督・コーチと選手との関係が透けて見える。ネグレクト、虐待と一緒だ」と指摘した。
会見の最後に、内田前監督は日大常務理事の職を一時停止し謹慎することを表明、井上コーチも辞意を表明した。日大はきょう、関西学院大に改めて回答書を提出。関西学院大では内容を精査した上で、26日に奥野監督や負傷した選手の父・奥野康俊氏らが会見を開く予定だ。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)