
(左からアズサ、辰巳、中島、黒音。やけにキャラが濃いブロックとなったが、全員“実力者”もしくは“成長株”だ)
今年で5回目の開催となる東京女子プロレスの「東京プリンセスカップ」は、シングル王座挑戦も見据えた実力の競い合いとして重要なトーナメントだ。
団体の選手層は年々厚くなり、今年は史上最多、16名がエントリー。それだけ優勝への道も険しいものとなる。5月23日の組み合わせ抽選により、1回戦の対戦カードは以下のように決まった。
〈6.3新宿村大会対戦カード〉
才木玲佳vs優宇
ハイパーミサヲvs沙希様
のどかおねえさんvsまなせゆうな
ミウvsヒカリ(Take a chance枠決定戦)
〈6.9新木場大会対戦カード〉
アズサ・クリスティvs辰巳リカ
中島翔子vs黒音まほ
坂崎ユカvs瑞希
小橋マリカvsTake achance枠
注目カードが数多く並ぶことになったが、とりわけ厳しい勝負となりそうなのが3番目のブロック。アズサ・クリスティvs辰巳リカ、中島翔子vs黒音まほの2カードだ。
アズサはデビューから「滝川あずさ」のリングネームで活動。元地下アイドルという経歴の持ち主にして女子アナ志望のレスラーだったが、リングネームを変えて沙希様を信仰するシスターとしてNEO美威獅鬼軍のメンバーに。滝川時代は自力勝利が一つだけだったが、アズサとしてはここまでわずか1敗。沙希様とタッグ王者にもなった。
試合ぶりも自信に満ちたものになっており、キャラ先行というイメージでもなくなってきた。ここでシングルプレイヤーとしても結果を出したいところだ。「沙希様のお側にいるため」とトーナメント参戦の理由を明かしたアズサ。1、2回戦よりも「その先で沙希様と出会う(対戦する)そんなロマンス」を夢見ているという。
対する辰巳は、これまで3度シングル王座に挑戦した経験を持つ。いずれも敗れているものの、5月3日、山下実優への挑戦では後楽園ホール大会のメインで堂々たる試合を展開してみせた。
本名がリカのため「リカといえばたつみりか、たつみといえば藤波辰巳」ということでDDTグループの“大社長”高木三四郎(昭和世代)にリングネームをつけられた“ホワイトドラゴン”辰巳。しかしそのことでドラゴンスクリュー、ドラゴンスリーパーといったドラゴン殺法に開眼し、力をつけていった面もある。
戴冠歴こそないが、既に辰巳は東京女子プロレスのトップ集団に位置していると言っていい。今回も優勝候補であり「アズサはシスターになってから勝率を上げてるみたいですけど、辰巳は辰巳のまま強くなってきたので」と違いを強調する。
もう一つの対戦は、中島vs黒音。旗揚げメンバーで“全長1.47mの大怪獣”を名乗る中島は怪獣と言いつつグラウンドの攻撃も得意とする技巧派だ。一時期は「テレビも見ないでネットでひたすらプロレスの映像を見てました」という中島。昨年はダイビング・セントーン、最近では無人在来線固め(ゆりかもめ)と、新たなフィニッシュ技を増やしてもいる。
タイトル戦で敗れはしたが一昨年、昨年と1.4後楽園大会のメインを張り、坂崎ユカと初代タッグ王者にも。中島は東京女子プロレスにおける試合の(一般的な意味での)クオリティ面をリードしてきた選手の1人だ。東京プリンセスカップでも、第1回から3回連続で決勝進出。2015年には優勝している。
今年に入りタッグベルトを失って「目指すところが一瞬、分からなくなった」と言う中島だが、その分「広い視野で、自由に試合をしてきました」とも。そんな中であらためて感じたのは「やっぱり自分は一番になりたいんだっていうこと」。どんな相手とも噛み合う試合ができる器用さがあるだけに、主張しなければ“便利屋”にもなりかねない。このトーナメントでファンにも他の選手たちにも実力を知らしめておく必要があるはずだ。
“ゾンビガール”黒音は昨年に続いて中島との1回戦に。しかしこの1年、タッグ王座決定トーナメント決勝進出、シングル王座挑戦など成長を見せている。生ける屍も成長するのである。5.5板橋大会におけるシュー・ヤンとの日米怪奇派対決は団体史上に残るインパクト。中島も「まほは世界に通用するんじゃないかと思って凄い悔しかった。神秘的に見えて鳥肌が立ちました」と認める試合だった。

(昨年と同カードになった中島と黒音。「一緒に頑張りましょう!あ、敵か」とゾンビはご機嫌)
中島に勝てば、2回戦でタッグパートナーである辰巳と「どらごんぼんば~ず」対決の可能性も。「東京女子を見ている人はそれを望んでると思います」と辰巳。黒音は「信頼してる人をボコすのはどんな感情なのか分からないから楽しみですね」と、ゾンビながらイキイキとした表情で語った。
シスター、ドラゴン、大怪獣、ゾンビが潰し合うこのブロック。シングルでの実績では辰巳、中島だが、このところの評価の上がり具合ならアズサ、黒音にも分がある。エンタメ色が濃い東京女子プロレスだが“勝負論”のシビアさもかなりのものなのだ。
文・橋本宗洋
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