今月1日、東京タワーの下で催された「TOKYO TOWER HIGHBALL GARDEN ROOFTOP ジンギスカン」。男性4500円、女性4000円でジンギスカンが食べ飲み放題とあって、サラリーマンを中心に予約でいっぱいの大反響を呼んでいる。
北海道のソウルフード、ジンギスカンが今、都内で牛や豚に迫る人気を誇っているというのだ。
豚などと比べて、カロリーが低く、低脂肪で高たんぱくとも言われている羊肉。羊肉の普及活動を行っている羊齧協会の菊池一弘さんによると「脂肪が融ける温度が44度と、人間の体温より高い。つまり食べても吸収されずに排出される。また、L-カルニチンという脂肪を燃焼させる成分が豚の10倍含まれていると言われている」という。
また、羊肉の種類は永久歯の数によって分類される。生後1年未満・永久歯0本がラム、生後1、2年・永久歯1本がホゲット、そして生後2年以上・永久歯2本をマトンとしている。菊池さんは「ラムは癖がなくて食べやすく、柔らかい。マトンはどちらかというと羊独特の香りが強くて歯応えがある。ホゲットはちょうどその真ん中なので、そこにこだわって出しているお店もある。ホゲットがあまり一般的でない理由は日本の羊肉は99%が輸入。和羊が1万7000頭しかおらず、うち北海道がちょうど1万頭。輸入する時やお肉を作る時に口を開けて1本ずつ確認するわけにはいかないし、アメリカではホゲットには価値がないとされているので、日本産の羊の中でしか作られていない」と説明する。
■輸入自由化+サッポロビール園での食べ放題が契機に
そもそもなぜ、北海道といえばジンギスカン、というイメージが定着したのだろうか。菊池さんによると、「羊は温帯湿潤が苦手な動物で、涼しい北海道ではよく飼われ、食べる文化も根付いていた。昭和30年代に入って羊肉の輸入が自由化され、小樽に動物検疫所ができると、北海道にも羊肉が入るようになった。もともと食べる素養があったので一気に広まり、昭和40年代にオープンし、観光客がよく訪れたサッポロビール園で食べ放題をやったことで、イメージが普及していったと考えられる。羊肉は宗教的禁忌があまりないお肉なので、宮中晩餐会でも羊肉のローストなどが提供されている」。
2004年、BSEが日本全国に拡大した際に、牛肉の代わりとしてブームとなったジンギスカン。しかし調理方法を誤ると、その独特の臭いや歯応えが苦手意識を生んでしまう側面もある。菊池さんは「確か都内に5、60店舗しかなかったのが、1、2年で一気に200まで増え、数年のうちに100まで下がった」と振り返る。
瞬く間に去ってしまったジンギスカン・ブームだったが、菊池さんは「3年くらい前から再び増えてきた」と指摘する。菊池さんたちが羊肉の輸入量やウェブ上での関心度などを元に独自に数値化している「羊指数」も上昇傾向にあるという。「2年間の推移は緩やかな右肩上がり。輸入量がずっと増えている。羊はどちらかというとマイノリティ感があふれる食材なので、盛んに詳細なレポートをSNSに発信する。それを見ると周りの人が、"なにそれ行きたい"ということになり、消費者が自然に食べ、羊肉に慣れてきた」。
今年5月、日中の地方間交流を話し合うため札幌市を訪れた安倍総理が足を運んだのもジンギスカンの店。安倍総理は2017年も北海道でジンギスカンを食べたという。
■北海道民の"ジンギスカンあるある"
北海道出身のお笑いコンビ・ジンギスキャンの上村亮は、コンビ名の由来を「松尾ジンギスカンという北海道で有名なチェーン店があるが、その本社が僕らの出身地・滝川市にあるということで名付けた。でもインターネットで検索すると焼肉の画像ばかりが出てきたので、"キャン"に変えてジンギスキャン(笑)」と説明する。相方の竹原和宏は「お肉屋さんでジンギスカンを買うと、コンロがレンタルできる。専用鍋とコンロをレンタルしてそれで焼く」といい、お花見でも定番の料理だという。
さらに、北海道民の"ジンギスカンあるある"としては、「冷凍庫には羊肉を常備」「一家に一台専用鍋」、そしてジンギスカンのタレをめぐって「ベル派」「ソラチ派」という派閥があるのだという。ジンギスキャンの2人がソラチ派の一方、北海道出身のテレビ朝日の小松靖アナウンサーとスマートニュース社の松浦茂樹氏はベル派だという。味に大きな違いはないということだが、小松アナは「うちは代々ベル派だった。基本的には醤油ベース。あと、ニンニクとかリンゴをすったものが入っている。けっこう濃口」と話す。
■食べ方をめぐる違いも!?
北海道の印象が強いジンギスカンだが、頭数でみてみると、他の地域でも羊が飼われていることがわかる。
北海道ではない地域でジンギスカンが食文化として根付いているのが、長野県長野市の信州新町だ。昭和20年代後半には4000頭も羊が飼育されていたといい、国道を走ると目に飛び込んでくるのは「ジンギスカン街道」という旗。川のせせらぎを聴きながらジンギスカンを堪能できる人気店、昭和41年創業の老舗ジンギスカン店「ろうかく壮」では、生肉をじっくりとタレに浸して味付けをしたあと、鉄板で焼き、最後にオリジナルのタレに付けるのが特徴だ。
また、「わが町こそジンギスカンの街!」と豪語するのは千葉県成田市だ。成田空港建設前には宮内庁御料牧場があり、日本で最も古くから羊を飼っていたと言われている。昭和27年に創業したジンギスカン店「緬羊会館」店主の木村邦昭さんは「各国大使が御料牧場にお招きに預かった時にジンギスカンをやったらしい。この辺は焼いてタレに付けて食べる」と、肉をそのまま焼いてからオリジナルのタレで味わう食べ方を貫いている。
北海道の名店「松尾ジンギスカン」も、「味付け派」の代表格だ。果汁を多く含んだタレには肉質をやわらかくする効果があるといい、「醤油ベースで、玉ねぎ、りんご、生姜が入っている秘伝のタレに一晩漬け込むことで、独特の風味を和らげる」(新宿三丁目店・店長の田口広樹さん)
一方、「後付け派」の代表は、麻布十番の「羊SUNRISE」だ。「お客さんの好みにもよるが、最終的に塩かタレで召し上がっていただいている。特に鮮度のいいお肉を使っているので、固くて臭いイメージが強いが、逆にそのまま召し上がっていただくことで本来の味わいを楽しんでいただける」(関澤波留人さん)。
このタレに漬けて焼く「味付け派」と、肉をそのまま焼く「後付け派」は、北海道内でも「味付け派」の小松アナは「家庭によると思うが、うちはずっと味が付いて売っているものを買っていた」と話す。松浦氏は「後付け派」で、「冷凍している肉を買ってきて、焼いた後で味のバリエーションを楽しみながら食べる。そっちで育ったので、味付けは大人になってから初めて食べた」と振り返った。
それぞれの食べ方によって違った美味しさがあるジンギスカン。自身の舌で食べ比べてみてはいかがだろうか。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)