この記事の写真をみる(6枚)

 歴史的な米朝首脳会談から1週間後が経った19日、中国を電撃訪問した金正恩委員長が習近平国家主席と3度目の首脳会談を行った。金委員長は米朝首脳会談の成果を報告したとみられ、晩餐会では「本日、中朝が一つの家族のように苦楽を共にしながら心から助け合い、協力する姿は伝統的な関係を超え、古今東西に例のない特別な関係に発展することを内外に表明した」と中国との蜜月ぶりをアピールした。

 米朝首脳会談を現地取材した『週刊現代』編集次長の近藤大介氏は22日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演、「トランプ大統領と金委員長は初めての出会いとは思えないほどで、似た者同士というか、親子のような感じを受けた。ただ、最初にトランプ大統領と椅子に座った時、金委員長の手は震えていた。それくらい緊張していた。通訳も緊張して、うまく言えていなかった。金委員長本人も1953年の朝鮮戦争休戦以来、最も重要な会談として国家の命運をかけて来ていたし、一言間違えると粛清される可能性がある外交官も真剣勝負で、戦争に来ているような気分だったと思う。逆にアメリカ側はリラックスしている様子で、そこにはギャップがあった」と振り返る。

 「金委員長はそれから1週間も経たずに北京に行って習主席と会った。こちらは兄弟のように見えた。中国に行ったのは経済問題。20日に朝鮮労働党が第3回の全体会議を開いて、改革開放政策を始めると宣言した。40年前に鄧小平がやったような中国式の経済改革をやっていくと。その準備のためというのが大きな理由だったと思う今、北朝鮮はアメリカ・中国・ロシアの3つの大国、プラス同胞である韓国を相手に全方位外交に近い形で、去年までとは全く違う、スピーディーで激しい外交戦をやっている」。

 中朝会談翌日の労働新聞は4面にわたって訪問の様を掲載するなど、北朝鮮メディアも早々に首脳会談について報じた。北のメディアが金委員長の帰国前に首脳会談について報じるのは極めて異例のことだという。

 中国外務省の耿爽報道官は21日、「習近平主席と金委員長の会談では、北朝鮮が政策の重点を経済建設に変えるという大きな決断を下したと指摘した。北朝鮮の社会主義勢力の発展は新しい歴史的段階に入った。北朝鮮が同国の状況に合った道を進むことを支援している。中国は北朝鮮の経済発展と国民生活の向上を支援し、北朝鮮が同国の状況に合った道を歩むことを支援している」とコメントした。

 そんな中朝"蜜月"の裏にあるのは、米中の熾烈な闘いだ。15日、アメリカが中国に対し制裁名目で約5兆5000億円の大型関税導入に踏み込むと、中国もほぼ同額の報復措置を発表。翌16日にはアメリカが約22兆円の追加関税の検討を発表するなど、アメリカと中国による貿易戦争も激しい駆け引きが続いている。

拡大する

 それだけではない。台湾問題も新たな火種となってきている。3月16日にはアメリカで政府高官の相互訪問を促進する「台湾旅行法」が成立。これに対し中国は「強烈な不満と断固たる反対」を表明。米朝首脳会談が開かれた今月12日には台湾にアメリカの窓口機関が開設されており、中国は「"1つの中国"の原則に大きく反する」と反発を強めている。

拡大する

 岡崎研究所研究員の村野将氏によると、トランプ政権にはボルトン大統領補佐官、シュライバー国防次官補ら"親台湾"の実務家がおり、トランプ大統領が台湾を中国に対する"テコ"として利用することも考えられるという。具体的には台湾海峡にアメリカの艦船を派遣することや、在台湾代表部警備の名目で海兵隊派遣の可能性もあるようだ。

拡大する

 近藤氏によると、米朝首脳会談にあたって習主席は3つのことを取り上げるよう金委員長に頼んでいたのだという。それが「米韓合同軍事演習の中止」「在韓米軍基地の撤退」「ミサイル防衛システム『THAAD(サード)』の撤去」だ。結果として米韓合同軍事演習の中止は実現、THAADについての言及はなかったものの、会見でトランプ大統領は在韓米軍を縮小する意向を示している。

拡大する

 「中国は、アメリカが台湾の窓口の設置を会談にぶつけて目立たないようにしたことも頭にきている。トランプ大統領が台湾の蔡英文総統と会ってしまうのではないかという懸念も出てきている。シンガポールに来ていた台湾メディアの人たちに話を聞くと"いつ台湾がどうなるか分からない"と言っていた。習近平主席は台湾統一が目標だ。海兵隊が派遣されれば、相当な摩擦を生むだろう。すでに中国とアメリカは色々なところでドンパチが始まっている。アメリカは11月に中間選挙があるので、それに向けて中国を敵国として戦おうという態度が鮮明になってきている。中国としては、それに対する防衛戦争だと考えている。この影響が北朝鮮に出たり、貿易摩擦に出たり、台湾、南シナ海と色々なところに出ているのが今の状況だ。11月にかけてますますアジア全体を揺さぶると思う」。

拡大する

 近藤氏の話を受けて、コンサルタントの宇佐美典也氏は「恐ろしくて鳥肌がたった。中国は国産空母やステルス戦闘機も完成間近だ。米韓合同軍事演習が中止になって在韓米軍基地が縮小していくと、中国の空母が日本海を航行することが日常になるという恐ろしい事態になる。日本としては原則としている"国連で集団安全保障を実現しよう"という方に戻していかないといけない。日本にとっても正念場だ」とコメントした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶放送済み『AbemaPrime』の映像は期間限定で無料視聴が可能。

AbemaTV(アベマTV) | 無料で楽しめるインターネットテレビ局
AbemaTV(アベマTV) | 無料で楽しめるインターネットテレビ局
AbemaTV(アベマTV)は最新ニュースやオリジナル番組をはじめ、アニメやドラマ、音楽、スポーツなど多彩な番組が楽しめる約20チャンネルをすべて無料で提供しています。PC、スマホ、タブレット、テレビでお楽しみいただけます。
この記事の画像一覧
この記事の写真をみる(6枚)