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■容疑者の標的は"岡本顕一郎さん"ではなかった

 「今回、岡本顕一郎という本名で、ネットセキュリティの専門家だったことが報じられていたが、それらは事件とは全く関係がなく、容疑者の恨みを買ったのはHagexというハンドルネームの方だった」。

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 人気ブロガーのHagexこと、インターネットセキュリティー会社社員・岡本顕一郎さん(41)が福岡市東区の無職・松本英光容疑者(42)にナイフで刺されるなどして殺害された事件の報道について、26日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した"炎上"対策会社「MiTERU」のおおつねまさふみ代表はそう指摘する。

 炎上商法に苦言を呈すなどネットウォッチャー・炎上評論家として活動していたHagexさんと10年以上の付き合いがあったというおおつね氏は、「Facebookグループでネット上の炎上事件などについての情報交換をしてきた。4月くらいに、"俺はネット上でずっとHagexとしてやってきたが、独立して表に出ようかと思う"と言ってきたので、僕たちも"ネットウォッチが仕事になるのは面白いからやろうよ"と話をした。それで4月下旬に東京の豊洲でセミナーを開き、2回目が今回の、故郷にも近い福岡でのセミナーだった。本業ではセキュリティの仕事をしていたので当然プロ。どこの駅にいるなど、Hagexとして"身バレ"するよう投稿は一切しないよう徹底していた。それが今回は、いつどこで講演会をするということが知られてしまった」と話す。

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 「"趣味の悪いブログを書いていたのだから、恨みを持たれても仕方ない"という意見もある。確かに面白おかしく、趣味の悪い書き方をしていた面もあるが、彼としてはダメなことをした人に対して誹謗中傷や名誉毀損にはならないよう気をつけながら書こうとしていた」。

■本当の引き金は6月10日の"増田"か

 一方の松本容疑者は「保育園落ちた日本死ね!!!」で有名になった、はてな社の『はてな匿名ダイアリー(はてなアノニマスダイアリー、通称"増田")』と『はてなブックマーク』というウェブサービス上で誰彼構わず「低能」などと誹謗中傷を繰り返していたことから、いつしか他のユーザーから「低能先生」と呼ばれるようになっていたという。

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 「はてな社の運営が誹謗中傷アカウントだと判断して凍結すると、また違うIDを取り直して同じような書き込みを繰り返していた。少なくともここ3、4年くらい同じノリで活動していて、議論もできないので、みんな扱いに困っていた」。

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 そんな「低能先生」についてHagexさんは5月2日、「低能先生という荒しがいる」「複数のユーザーに対して誹謗中傷を繰り返している」「当然すぐにアカウントが凍結されるのだが新規のアカウントを作り罵詈雑言を行っている」「低能先生からコール(誹謗中傷)が来る度に私は『はてな』に通報を行っている」という内容のブログを書いていた。これまでの報道ではこの"名指し批判”が殺意に繋がったのでは?と指摘しているが、おおつね氏は引き金は別にあった可能性を指摘する。

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 「5月2日のブログは、Hagexさん独特のシニカルな書き方をしていた。表面的に見ればひどいユーザーを糾弾しているように読めるが、はてな匿名ダイアリーやはてなブックマークをよく使っているユーザーであれば伝わる内容。Hagexさんに本当に訴えるという考えはなく、はてな社もそろそろ諦めて訴えてもいいのでは、とちょっと皮肉を込めたものだったと思う。それ以上に、6月10日の"増田"に、"低能先生は引きこもりでネット弁慶だから何もできないだろう"という揶揄、いじりの投稿があった。今後の警察の取り調べでわかると思うが、それを読んで"見せつけてやる"と犯行を決意したのではないか。そして2週間後にたまたま容疑者の近くに来たHagexさんが襲撃されてしまったということだと思う。"俺を揶揄した、誰だかわからない書き手"への恨みが、目の前に来た"その一味の一人"のHagexさんに向けられた。ネット上のいざこざが殺人事件に結びついたというのは聞いたことがない。初めての事例ではないか。そして僕の意見では、現時点でHagexさんには責任はないと思う」。

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 「はてな匿名ダイアリー」には、犯行直後の松本容疑者によるものみられる書き込みが見つかっている。出頭までの3時間に一度帰宅し書いたとみられる投稿には「ネット弁慶卒業してきたぞ」「俺を低能先生ですの一言でゲラゲラ笑いながら通報&封殺してきたお前らへの返答だ。てことでこれから近所の交番に自首して俺自身の責任をとってくるわ」と綴られていた。

■事件の見方を巡って、マスメディア報道との乖離も

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 おおつね氏の指摘を受け、編集者・ライターの速水健朗氏は「ネット上にはHagexさんやはてなのサービスの独特の空気感を知っている人は割といるが、マスメディアで報道する人たちとの認識の乖離がこんなにあるケースも珍しいと感じた。例えば"ネットセキュリティの専門家がこんなことに巻き込まれるなんて"という受け止める向きもあるが、それはあまり関係ないし、"大勢対低能先生"という構図であった以上、他の人が襲われたとしても全然おかしくない事件だった。一番大きかったのは、Hagexさんが福岡に行ったこと。実際に松本容疑者は"増田"上で"事前の予定では東京までいってはてな本社にこんにちはするつもりだった"と書いていたし、場合によってはhagexさんと近い関係にいるおおつねさんが標的になっていた可能性もある」と指摘する。

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 その上で「今やネットの中にも文化の違うコミュニティがたくさんあり、分断されている。松本容疑者が見ていた世界も、はあちゅうさんやHagexさんがいて、はてながあるという、すごく狭い世界だったと思う。そんな状況下で、どうやって対処することができたのか。ネット上にはショックが拡がっていて、諦め感みたいなものがある。思い起こされるのは10年前に起きた秋葉原で起きた無差別殺傷事件。マイナーな掲示板で疎外感を感じていて、コミュニケーションできなかった人間が爆発した事件だったが、あれも"ネットとリアル"の話ではなく、ネットの中でもさらに細分化された場で輪の中に入れなかった疎外感が背景にあった。現時点では松本容疑者のプライベートな部分が全く見えていないが、そこに近いものがあるように思う」と話した。

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 マーケティングアナリストの原田曜平氏は「"リアルかネットか"という議論が続いてきたが、"ネットはリアルになった"と捉えた方がいい。容疑者にとって、はてながリアルな居場所だったのだろうし、被害者にとっても正義感を持ってやっていたブログはリアルな場だったのだと思う。運営会社や警察も含め、今までのような自由な空間のままでもよいのか、ということは議論されてもいいと思う」とコメントしていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

おおつね氏らによる議論の様子は期間限定で無料視聴が可能。

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