5月5日。こどもの日。将棋棋士・佐々木大地四段(23)は福岡市内で行われた普及イベントに参加していた。目玉は佐々木四段と史上最年少棋士・藤井聡太七段(当時六段=15)との公開対局。名称はなんと「次世代名人戦」だった。
さりげなく挑戦的なネーミングだったが、観客席を埋めた約500人のファンの中で違和感を覚えた人はいなかっただろう。藤井はもちろんのことだが、佐々木四段もいつか名人戦に登場しても全く不思議はない力を持った逸材だからだ。並の若手ならば会場内に無言のブーイングが渦巻いていたはずだが、そうはならなかった。
持ち時間各5分、一手指すごとに5秒が加算される「フィッシャールール」を採用した超早指し棋戦「AbemaTVトーナメント Inspired by羽生善治」は、将棋対局のスローなイメージを根底から覆すジェットコースターのようなエンターテイメントである。7月1日から放送が始まる予選Bブロックで、佐々木は山崎隆之八段(37)、増田康宏六段(20)、大橋貴洸四段(25)と争う。
1回戦では、29日の第31期竜王戦決勝トーナメント2回戦で、藤井七段を相手に1年越しのリベンジを果たした増田六段と対戦する。佐々木四段にとって増田六段は昨年度の新人王戦決勝で敗れた相手でもある。「リベンジ男」にリベンジなるか、という一局になる。勝てば1位決定戦で山崎八段、大橋四段の勝者と対戦。予選通過を懸けて勝負する。
長崎県対馬市生まれ。九州本土に渡るまで高速船で2時間以上かかる場所で将棋と出会う。父と祖父の手ほどきを受け、3歳頃には始めていたが、近所に道場などの修業拠点はなし。一昔前までなら都市部と比べて棋力向上の面で大きなハンデを抱えていた環境だったが、佐々木には関係なかった。荒れ狂う玄界灘も越えていくインターネットいう武器があったからだ。
ネット対局を指し続けて腕を磨いた。小学6年時に出場した小学生名人戦では全国の強豪をなぎ倒し、3位入賞を果たす。小学生卒業が姉の大学進学のタイミングとも重なり、神奈川県に転居した。中学1年の秋に棋士養成機関「奨励会」に入会。父は息子のために仕事を変えて夢を託した。
2016年4月、奨励会三段リーグで12勝6敗で次点(3位)に滑り込み、2度目の次点獲得によるフリークラス昇段規定を満たし、棋士になった。
順位戦参加資格のない「フリークラス」での四段昇段者は10年以内に規定の成績を満たさないと引退しなくてはならないルールがあるが、佐々木はデビューから20勝8敗と勝ちまくり、わずか1年足らずで順位戦C級2組への昇級を果たす。フリークラス棋士として史上最速の昇級だった。先述の新人王戦では準々決勝で藤井七段と激突。終盤での相手の緩手を咎め、中学生新人王誕生の夢を打ち砕いた。今期の王位戦では全棋士中のトップ12人しか参戦できない王位リーグに進出した。
佐世保市出身の深浦康市九段門下。常に熱い闘志を燃やし続けるスタイルで王位3連覇も果たした師匠の魂を継承する九州男児だ。離島から羽ばたいた若武者の力を体感するには、何より代え難い機会となる。
◆AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治 将棋界で初めて7つのタイトルで永世称号の資格を得る「永世七冠」を達成した羽生善治竜王が着想した、独自のルールで行われる超早指し戦によるトーナメント。持ち時間は各5分で、1手指すごとに5秒が加算される。羽生竜王が趣味とするチェスの「フィッシャールール」がベースになっている。1回の顔合わせで先に2勝した方が勝ち上がる三番勝負。予選は藤井聡太七段が登場するAブロックからCブロックまで各4人が参加し、各ブロック2人が決勝トーナメントへ。シードの羽生竜王、久保利明王将を加えた8人で、最速・最強の座を争う。
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