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(王者・山下の強烈な打撃を浴びながら、必死に立ち上がって反撃したアプガ(プロレス)のミウ)

(C)DDTプロレスリング

ドラマ「豆腐プロレス」のリアルイベント版という形でリングに上がったAKB48グループの面々も含め、芸能人の“プロレスデビュー”は本格的なものからゲスト枠のようなものまで数多い。もちろん、芸能活動を行ないながら練習生としてしっかり技術、体力を身につけた選手もいる。

とりわけ独自の存在なのが、アイドルグループ・アップアップガールズ(仮)の妹分であるアップアップガールズ(プロレス)だ。東京女子プロレスが属するDDTグループとアプガの合同企画で選ばれた4人組。オーディションの段階から“歌って踊って闘える”二刀流グループを目指すことが決まっていた。

メンバーのミウ、ラク、ヒナノはもともとアイドル志望、特にラクはスポーツの経験もなかった。逆にヒカリはデスマッチ好きのプロレスファンで、以前にも東京女子プロレスのオーディションに応募している。アプガ(プロレス)入りは「アイドルにも取り組む」というワンクッションをあえて入れての再挑戦だった。

「芸能人がプロレス参戦」とも「プロレスラーがCDデビュー」とも違う、どちらも新人からのスタートだから、歩みは決して早くない。ただ彼女たちがプロレスラーとして正攻法の“下積み”生活を送ってきたことも確かで、合同練習に参加するだけでなく会場でのチケットもぎり、紙テープの処理などセコンド業務も欠かさなかった。

今年1月4日のデビュー戦はメンバー4人によるタッグマッチ。先輩と闘えるレベルではなかったということか。ここで勝ったのは、ソフトボール経験者でフィジカルの強さが持ち味のミウだった。フィニッシュはカナディアン・バックブリーカーである。敗者となったのがメンバー中唯一、プロレスファンだったヒカリだ。

プロレスが好きで詳しくても、試合で勝てるわけではない。ヒカリはそんな現実を味わったことになる。ただ、そこからヒカリも成長、初のシングル対決ではミウを下している。ミウはミウで「最初は私が勝てたけど、どんどん追いつかれてしまう」という怖さを感じるようにもなった。

プロレスにも運動にも無縁だったラクは、しかし5月の山下実優戦で大きく変化する。山下は東京女子の現シングル王者。「チャンピオンと(メンバーの中で)最初に闘うのが私っていうのが光栄で」嬉しかったし緊張もした。リングに上がると、試合前から涙が出てきた。それでも必死で向かっていったら、今までにないくらいの声援を感じた。

スポーツで勝ち負けを競うということにピンときていなかったし、体をぶつけ合って相手を倒すという行為はなおのこと。しかもプロレスは闘って勝つだけでなく「見せる」ことも重要だ。分からないことだらけだったが、山下との闘いで生まれ変わった気がした。

「今まで受からなかったオーディションもあるし、運動したこともない私がなんで合格したのかなって。でも今は運命だったと思ってます。プロレスもやるグループでよかったです」(ラク)

6月27日に新宿FACEで開催された「アップアップ東京女子(プロレス)(仮)~全員一緒にアッパーキック!~」は、東京女子とアプガのコラボイベント。大会名にアプガ(プロレス)唯一の持ち歌「アッパーキック!」が入っていることからも、デビュー半年を過ぎた彼女たちが中心になることが期待された。

試合は全員がシングルマッチでトップ選手に挑むというもの。抽選により山下実優vsミウ、中島翔子vsヒカリ、辰巳リカvsラク、坂崎ユカvsヒナノの組み合わせとなった。

トーナメント(東京プリンセスカップ)にも出場したヒカリには「新人」の枠から脱したいという思いが芽生えている。「後輩の練習生もできたので、もっとレベルアップしなきゃいけないって」。デスマッチ好きとあって、場外戦などラフファイトを身に付けたいという思いもあるようだ。

ヒナノはこれがキャリア初のシングルマッチだ。側転など身軽な動きに加え試合中の「嘘泣き」で先輩を翻弄する場面もあるヒナノ。道重さゆみの系譜とでも言えばいいのか「私が一番可愛い」キャラでもある。が、その一方で「どうして私だけシングルが組まれないんだろう」という思いもあったようだ。自分には何が足りないのか、本当にグループの、団体の戦力になれているのか。そんな不安を抱きながら闘っていた。

大会前の会見では「甘えてる」(辰巳)、「(相手として)まだ怖くない」(中島)と厳しい言葉を浴びたアプガ(プロレス)。そのことで6.27新宿大会は「アプガ(仮)のライブもあるお祭り的イベント」と「アプガ(プロレス)の成長が問われる試練の闘い」という両極の意味を持つことになった。

試合では、4人は完敗を喫した。ミウは山下のアティテュード・アジャストメント、ヒカリは中島のノーザンライト・スープレックス、ラクは辰巳の足4の字固め、ヒナノは坂崎のマジカル魔法少女スプラッシュと、それぞれの得意技を決められ敗れている。先輩たちを慌てさせるところまでもいかなかったのが実際のところだ。

ただそれはキャリア、実力を考えれば当然のことだ。現状やれることはやったし、気持ちを前面に出して立ち向かっていく姿は印象に残った。ヒナノの軽快な動きが、坂崎と対戦することで今まで以上に光ったことにも触れておきたい。

試合後「やってて楽しかった」と山下はコメント。中島は「自分も初心を思い出しました。上手くなっていく中で冷静にもなってたなって。でもまだ抜かれる気はないです」。アプガ(プロレス)が「リングに上がってきた(“おもてなし”すべき)芸能人」ではなく「対戦相手」だからこそ、戦前には厳しい言葉も出たということだろう。

辰巳の「甘えている」という発言も“外野の声”の代弁だったのではないか。「アイドルにプロレスなんかできんのかよ」、「どうせヌルいことやってんだろ」という偏見との闘いは、どうしたって避けて通れないのだ。

試合以上のハイライトとなったのは、試合後の「アッパーキック!」ライブだ。ダメージを負い、汗まみれで髪の毛も乱れていたけれど、それは彼女たちにしかできないパフォーマンスだった。体裁を気にしていないからか試合のテンションそのままだったからか、いつも以上にダンスが激しいようにも見えた。

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(最後は全員がステージに。先輩選手はそれぞれ対戦した(プロレス)メンバーの横に立った)

(C)DDTプロレスリング

曲の後半には出場選手たち、リングアナの難波小百合、アプガ(仮)も加わって大団円に。マイクを握ったミウは「二兎を追う者は一兎をも得ずと思われるかもしれません。でも私たちはプロレスもアイドルも本気です! 全力という言葉に嘘はありません!」と訴えた。会場の観客だけでなく中継の視聴者、さらには「アプガ(プロレス)って何?」という人々にも向けられた言葉だったはずだ。

インタビュースペースでは「やられたら絶対にやり返してやろうと思って、中島さんのことが怖いと感じなかった。デビューから半年たって、もう半年で1年。その1年後にはトップに立ちたいし中島さんを超えたい」とヒカリ。ミウは「次に(山下と)闘う時はベルトをかけてやりたい」と語った。

そんなアプガ(プロレス)の闘いに、先輩であるアプガ(仮)の関根梓は「負けそうになって、苦しみながら何度も立ち上がる姿を見て、何度も泣きそうになりました。お母さんみたいな気持ちになって」という。「アプガ(仮)も、高い壁があっても逆境があっても、何が何でも上ってやるという気持ちでやってきたので」。「あらためて、一緒に闘っていく仲間だなと思いました」とは森咲樹の言葉だ。

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(妹分の懸命な闘いぶりに胸を打たれたというアプガ(仮)の5人。アプガイズムはしっかり受け継がれている)

(C)DDTプロレスリング

ハロプロエッグ(研修生)を「クビ」になったメンバーで結成されたアプガ(仮)には、活動のすべてが「闘い」なのだ。どのグループよりも「アイドル戦国時代」を意識してきたし、たとえ勝てなくとも闘いをやめない限りは「負け」ではないという思いであらゆる状況に立ち向かってきた。そんな姿勢が「(プロレス)にも受け継がれている」と関根は言った。昨年、卒業した仙石みなみは、かつて「アプガと名のつくグループは、夢を諦めきれない女の子たちが集まる場所であってほしい」と語っていた。

一度は入門の道を断たれたヒカリ、過去のオーディションではうまくいかなかったミウとラク、アプガ(2)=2期の候補だったこともあるヒナノ。今、それぞれが“諦めきれなかった夢”の中を生きているのだ。6.27新宿大会は大きな節目になったが、ここからはまた新たな夢と闘いが待っている。

(仮)、(2)、(プロレス)とアプガ3グループが揃う「アップアップガールズ(フェス)」が7月7日に開催。ここでアプガ(2)とヒナノのコラボを見たいというファンもいるのではないか。また「@JAM EXPO」に「アイドル横丁夏祭り!!」、「TOKYO IDOL FESTIVAL」と“夏の3大アイドルフェス”出演も決まっている。

アイドル志望だったメンバーには念願の大舞台。ヒカリにとってもアイドルとしての“覚醒”につながる夏になる可能性は大きい。もちろん彼女たちがアプガである以上、そこは「戦場」だ。アウェーでこそ燃え、真価を発揮するのもアプガらしさである。

文・橋本宗洋

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