猛暑の中で行われている大相撲の名古屋場所。場所前に横綱・稀勢の里が、場所に入ってから横綱・白鵬、鶴竜、さらには新大関として期待された栃ノ心まで休場する、異常な事態になっている。年々力士は大型化しており、幕内力士の平均体重が160キロを超える中で、全身にけがもなく万全で相撲が取れている力士など、皆無に等しい。AbemaTVの相撲中継で解説を務め、ひざの靭帯断裂の経験を持つ元前頭の若兎馬は「危ないのは、土俵際の状態が伸びきった時ですね」と指摘した。
アマチュア相撲と違い、体重において無差別級で行われる大相撲。幕内であっても100キロ前後の小兵から200キロを超す巨漢まで、千差万別だ。とはいえ、やはり体重がある方が優位ではあり、力士は大型化する一方だ。若兎馬は「自分の中で、五体満足の人はいないと思っています。(けがの箇所は)膝、腰がトップで並ぶくらいですね。相手が200キロでも今日はやりたくないというわけにもいかないから、体を酷使するし、けがをする可能性は高くなります」と説明した。
では、けがをするケースとはどんなものか。もちろんぶつかるだけでも、その衝撃は1トンと言われ、打撲や脳震盪をはじめ、いろいろと起こる。土俵から転げ落ちることも日常茶飯事だ。ただ、若兎馬が指摘するのは土俵際。しかも観客が大声援を送る、全身を伸ばして粘る瞬間だ。「すべての力を残す時に使っちゃっているので、その時に相手から横の力を受けた時に、伸びきった足がどこに倒れるか」。膝であれば内側、外側に大きく力がかかることで、片足に4本ある靭帯のいずれかもしくは複数が伸びたり、切れたりする。
けがをし、休場した力士に対して、ファンからは体を気遣い「しっかり治してきて」という声が多数寄せられる。それは力士にとってありがたいことではあるが、実際に現役中に「しっかり治る」ことを待てる状況の方が少ない。「治すのは大変ですね。いくら医療の技術が上がったとしても、膝なら約半年は棒に振らないといけない」。大量の筋肉で、大きな体を支えてきた膝だけに、治療としては終了したとしても、力士の膝として完全に戻るかといえば、そうでもない。現状のルールでは、休場は負けよりも番付が下がることもあり、途中休場となっても「万全でなくても出た方がマシ」という選択をする力士もいる。それだけ一度下がった番付をまた上げるのは大変で、力士としての寿命も長くはないからだ。
大きな力士が迫力ある立ち合いから渾身の力を込めてぶつかり、寄り、押し、投げる様子に、ファンは心を打たれる。ただ豪快になればなるほど、力士の体も傷ついていく。お目当ての力士が長らく休場では寂しいだけに、15日間続けて土俵に上がる力士たちの無事を祈りたいものだ。
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