19日、アメリカの「ウォルト・ディズニー」がメディア大手「21世紀フォックス」傘下の映画部門「20世紀フォックス」などを約８兆円で買収することが事実上決まった。話が持ち上がったのは去年12月。アメリカ最大のケーブルテレビ局「コムキャスト」が約7兆4000億円で買収に名乗りを上げたが、ディズニーが買収額を８兆円に引き上げたためコムキャストが買収を断念したのだ。
19日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、日本の視聴者にとっても無縁ではない、米メディア業界の最新事情を探った。
近年のディズニーは、『カーズ』『トイ・ストーリー』などで知られる「ピクサー」を2006年に、『スパイダーマン』『アベンジャーズ』などを展開する「マーベル」を2009年に、そして『スター・ウォーズ』シリーズの「ルーカス・フィルム」を2012年に買収するなどしてコンテンツの充実を図ってきた。今回の「20世紀フォクス」も『エイリアン』『タイタニック』『X-MEN』『アバター』などの大ヒット映画を生み出しており、ディズニーが持つ従来の人気コンテンツに加われば、まさに"鬼に金棒"だ。
しかし、買収劇の背景には、ディズニーの"危機感"があったとの見方もある。それが動画配信サービスの急成長だ。
ニューヨーク在住のジャーナリスト・津山恵子氏は「アメリカの若者は劇場だけではなく、テレビ放送でコンテンツを見ることが少なくなっている。今回のワールドカップはFOXスポーツというチャンネルが独占放送していたが、若者たちは家族にこのストリーミングサービスのパスワードを教えてもらったり、友達同士で１週間の無料お試し期間の契約と解約を繰り返したりして試合を見ていたようだ。もはやワールドカップでさえ、テレビ放送で見る発想がない時代に入っている」と指摘する。
ITジャーナリストの三上洋氏も「コンテンツを作っていた企業としては、視聴者が映画館からネット配信に移りつつある今、その"視聴者に届ける部分"を押さえる必要が出てきている。ウォルト・ディズニーも21世紀フォックスも、映画館やDVD、テレビ放送で視聴者に届けるビジネスは止まってしまうだろうと考えている」と話す。
1923年に創業されたディズニーは、誰もが知るアニメーション映画を制作するだけでなく、世界各所にディズニーランドを作ることによってその世界観を伝えてきた。2013年の事業別の収益をみてみると、ディズニーランドなどのパーク＆リゾート事業21％、映画制作などのスタジオ・エンタメ事業が6%となっている一方、有料チャンネルの収入であるメディアネットワーク事業がすでに64%にも上っているのだ。
実は今回、ディズニーが買収する事業には20世紀フォックスの他、『ナショナルジオグラフィック』などのテレビ番組事業のほか、あの「Hulu」も含まれているのだ。これまでHuluには21世紀フォックスとディズニーがそれぞれ30%ずつ出資していたため、今回の買収によってディズニーが実質的な支配権を握ることになるのだ。これまで自社の作品を動画配信大手「Netflix」で配信してきたディズニーだが、自らの動画配信サービスを来年にも拡充させると発表しており、Huluというプラットフォームを得ることは大きな武器になる可能性がある。
■Huluを手にしたディズニーはNetflixに勝てるのか？
そんなHuluの最大のライバルが、他でもないNetflixだ。Huluの会員数は全世界で約5400万人以上だが、Netflixの会員数は全世界で1億2500万人に達している。
前出の津山氏は、アメリカ国内でのNetflixの強さについて次のように話す。
「テレビの視聴世帯数が約1億2000万軒なのに対し、Netflixの加入者数は約5700万人。しかし一つのアカウントで複数の人が見ているので、実際はそれ以上に多くの人が見ていると思う。日本ではアンテナケーブルを繋げばすぐに地上波が見られるが、アメリカの場合、地上波だけを見ている世帯はおそらく10%程度で、それ以外の人たちは衛星放送、ケーブルテレビ、ブロードバンドのテレビサービスなどと契約し、１か月あたり100ドル以上を支払っている。それに比べ、Netflixは最も安いパッケージで7ドル99セント。テレビ放送は高いという感覚が出てきて、お金がなくなるとケーブルテレビを止めてしまう。デートの時も仕事の帰りもNetflixにつないで見ている視聴スタイルが増えてきている」。
それだけではない。Hulu、AmazonPrimeも自社でのコンテンツ制作をスタートさせているが、Netflixは2018年エミー賞のノミネート作品数でも頭角を現している。今年は実に112作品をノミネートさせ、去年まで17年間連続でトップの座あったケーブルテレビ放送局「HBO」の108作品を上回っている。
三上氏は「Netflixの年間売上は約1兆2000億円で、北米の映画の年間興行収入に匹敵する規模にまで成長している。そうした収益力を背景に、今年はオリジナルドラマに80億ドルという巨額な制作費を突っ込んでいる。日本映画全体の制作費が年間1000億円に届かないくらいなので、Netflix一社で邦画の８倍くらいのことをやっている計算になる。それに比べ、Huluはまだオリジナルが弱い。もしかすると、今後はディズニー、20世紀フォックスのコンテンツをNetflixやAmazonには出さず、Huluだけでしか見られないようにするかもしれない。いずれにせよ、HuluがNetflixと戦うにはオリジナルをどう作るのかが課題だ」との見方を示した。
津山氏は「ディズニーの独自プラットフォームがHuluと合体するのかどうかは不透明だ。HuluはNetflixに比べるとテレビ番組が集まっているイメージが強いので、ディズニーが独自のプラットフォームを立ち上げると思う」とした上で、「今回の買収で、欲しくてたまらなかった動画配信プラットフォームが、映画・テレビ・テーマパークに加わる。Netflixのようなビジネスモデルで毎月キャッシュが契約料として入ってくる。それをビジネスの第４の柱にする。テレビの視聴者数が減って行く中、次の収益の柱になるかもしれないと見込んでいる。さすがディズニーという買収だ。ゆくゆくはNetflixを潰す、駆逐するつもりだと思う」と話した。
近い将来、このようなメディア環境、メディア業界の激変が日本でも起こる可能性は高い。（AbemaTV／『AbemaPrime』より）
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