11日、総務省がNHK地上波番組のネット同時配信(サイマル放送)を認める方針を固めたと報じられた。NHKは来年度中のスタートを目指しており、公共放送までもが放送から通信へとシフトする時代に突入したことになる。
23日放送の『AbemaPrime』では、「ニコニコ生放送」を運営するドワンゴ取締役の夏野剛氏と共に、AbemaTVにとっても大いに関係のあるテレビとネットの関係について考えた。
■ワールドカップでも威力を発揮したNHKのサイマル放送
NHKがネットでの同時配信を推進する背景には、「若者のテレビ離れ」がある。総務省によると、テレビの視聴者数は年々減少傾向にあるのに対し、ネット利用者は増加を続けており、NHKでは先日閉幕したワールドカップでも全試合サイマル放送を実施した。関連情報とともに専用アプリでも配信、今月末までは見逃し視聴も可能になっている。
夏野氏は「NHKがFIFAに対し、テレビだけで流すのはもったいないし、放映権料を買っているんだから、ネットでも流させてくれということをきちんと主張したことが大きい。NHKのネット配信には、画面を4分割する機能があり、監督をずっと映している映像や、ゴールの後ろ側から撮っている映像を組み合わせて見ることができた。ここまで自由なことはテレビだとできない。また、ワールドカップ関連番組をネットでやることによってアプリのダウンロードが増えたし、民放も解説番組をネットで流した結果、Tverアプリのダウンロードが増えたという面もある」と話す。
「業界では"サイマル放送はハードルが高い"という言い方をするが、その努力をするつもりがあるかないかだ。テレビという受像機で見るのと、スマホで見るのと、そんなに重要な問題ですか?先進国以外の国ではサイマル放送は当たり前。ミャンマーやカンボジアではテレビ受像機の普及台数よりもスマホの普及台数の方が多いので、すべての放送局が放送と同時にネットにも流し、視聴者数を稼いでいる」。
マーケティングアナリストの原田曜平氏も「民放の一部の番組が見られるTverがあるが、実は受像機ではあまり見られていないBSジャパンの番組が見られたりしている。あるテレビ局の担当者に聞いたところ、"見逃したドラマをTVerで見て、やっぱりテレビ(地上波)で見てほしい"と言っていた。つまり、受像機に戻すための"きっかけツール"としか考えてないのからなかなかうまくいかない。上海ではテレビ受像機を買っている若い子ほとんどいない。欧米でも地上波やケーブルではなく、NetFlixを見るのが一般的になっている。グローバルトレンドからすれば、受像機に固執するのはいくらなんでも無理があるので、早く覚悟を決めてほしい」とした。
また、社会学者の古市憲寿氏が「確かに昔よりテレビの視聴率は落ちているし、全く見ない人も増えたが、それでもまだほとんどの人はテレビを見ていて、その影響力はまだまだ大きい。サイマルが始まったとしても引き続きテレビで見る人はいるだろうし、そこで問題になるのはAbemaTVのようなサービスだ。スマホでもテレ朝の地上波の番組が見られるとなったときに、AbemaTVとテレ朝の番組、どちらを見るだろうか。そう考えると、逆にネット番組の方が淘汰されていく可能性の方もある」との見方を示すと、原田氏も「しがらみがないのがネットの良さだったかもしれないが、各局が進出すればそれも変化する」と指摘した。
■CMもネットとテレビの組み合わせへ
視聴環境の変化は、テレビ局の収益構造も変化させていく可能性がある。英企業の調査によると、2017年、世界のインターネット広告費がついにテレビの広告費を上回ったとしており、内訳はインターネットが37.6%、テレビ34.1%、新聞が9.5%、屋外が6.7%、ラジオが6.2%、雑誌が5.2%となっている。一方、日本の広告市場の推移に目を向けると、テレビの広告費は横ばいに対して、ネットの広告費は年々増加している。また、受信料を徴収しているNHKのサイマル放送進出は、広告料で運営する民放を圧迫するのではという指摘もある。
夏野氏は「NHKはネットだけしか見ない人向けの有料料金プランを作ればいい。民放はネットを含めCMを流したらいいと思う。そもそも電波で流している広告とインターネットを通じて流している広告が同じものだったとしたら、どのルートを辿ったかというのはあまり問題ではないのではというのが僕の考え方。日本のテレビCMを見ていると、ネット企業のCMが結構流れているし、ネット対テレビという対立構造で考えること自体が古い。ミャンマーではネットの方が数字を正確に把握できるので、推定の視聴率に加えて、ネットのユーザ数で広告を販売している。そして、テレビ局はネットに進出できるが、免許事業なのでネット企業は簡単にはテレビに進出できない。その意味は、テレビ局にものすごいチャンスがあるんだから、どんどんネットに行ったらいいじゃないか。なんで行かないのか」と訴える。
「広告主はちゃんと計算していて、ある商品に関心を持っている人に対しては検索結果やサイトの広告を通して、ネットで簡単にリーチできる。一方、その商品のことを知らない人に対して印象づける意味では、テレビというメディアは非常に有効だ。テレビCMの15秒間や30秒間ではほとんど情報は伝わらないけれど、視聴者に刷り込むことができる。商品の認知レベルやマーケティングのアプローチによって、この組み合わせでどんどんやっていくべきだろう」。
原田氏も「他チャンネルが進んでいる他の国に比べ、独自の発展をしてきた日本ではテレビ局の力が非常に強いので、影響力が衰えるにはまだまだ時間がかかると思う。社名や商品名を連呼するCMが多いのはそのせいだ」と話した。
■ネットとテレビ、両方が発展するのが理想の姿
2017年の総務省のメディアの信頼度調査によるとネットを信頼すると答えた人は29.7%に対し、テレビを信頼すると答えた人は62.7%とテレビを信頼するという声の方が多かった。
夏野氏は「ネットテレビがマスメディアになるためには報道も含めたコンテンツ制作力が必要だ。地上波には放送法やBPOもあるので制約があるが、同じテレビ局のスタッフが作ったとしてもネット向けならもう一歩突っ込んだ話ができる。サイバーエージェントの藤田社長はAbemaTVのマスメディア化を目指していると言うが、おそらく最終的にAbemaは、Abemaがテレビ朝日の代わりになるのか、テレビ朝日がAbemaの代わりになるのか分からないが、両方とも同じ主体がやることになると思う。AbemaTVとテレビ朝日の関係がテレビ局の未来を占うと思う」と指摘する。
また、「枠が複数増えれば違う番組が作れるし、女優さんだって、みんながみんな出られるわけじゃない。このリソースをなんで地上波の7チャンネル×24時間しか使えないのか。もったいない。ある番組はネット用。ある番組は地上波用に作り、ネット用に作ったけど出来がいいものは地上波に流したり、地上波用に作ったものを途中からネットに流したり。ネットの中から出てきた女優さんがテレビに出るようになったり、テレビに出られなくなった人がネット番組に出たり。そういう行ったり来たりによって両再度が発展するのが理想の姿だと思う。こういうことが起こるようになれば、本来のテレビ局のコンテンツ制作能力が120%活かせるようになると思う」と語った。