史上初のグランプリファイナル4連覇、全日本選手権4連覇、オリンピックで2大会連続の金メダル。世界のフィギュアスケート界に君臨する羽生結弦を見るたびに、こんな言葉が思い起こされる。

 謙虚な王者こそが最強――。

 ただでさえ圧倒的な強さなのに、慢心することなくさらに鍛錬を重ね、追われる者として後ろを見るのではなく、自身の向上だけを愚直に考えていたら、もはやその座を脅かす敵などいないだろう。

 それは、日本最高峰のフットサルリーグで無類の強さを誇る名古屋オーシャンズにも当てはまる。

全勝優勝は、1試合1試合の積み重ねの結果として

 2015シーズンに前人未到のFリーグ9連覇を成し遂げて、10連覇を懸けた翌シーズンに王座を明け渡してしまった名古屋は2017シーズン、再び王者となった。迎えた今シーズンは、序盤から優勝を争うライバルたちを次々とねじ伏せていき、開幕から破竹の7連勝で首位を独走している。

 その強さは、“世界最高の選手”リカルジーニョや“キング・オブ・Fリーグ”森岡薫らを擁して無敗優勝を達成した2012シーズンに勝るとも劣らないほどのインパクトだ。今年は、初の全勝優勝となるか――。

 そんな周囲の期待をよそに、ペドロ・コスタ監督は勝利後に毎回のようにこう話す。

「私たちの頂点はここ(Fリーグの優勝)ではなく、もっと上を目指している。(連勝できている)この結果を継続しながら、一歩ずつ足元を固めていくことが目標」

 まさに謙虚な王者。そしてその姿勢を先頭に立って示しているのが、キャプテンの星龍太だ。

「もちろん、全勝優勝できたらこれ以上ないうれしさがこみ上げてくると思います。それに攻撃的な選手であれば『全勝を目指します』と言うかもしれないですし、僕が守備の選手だからなのか、負けたシーズンのことは忘れていません。調子がいい時でも、(前年度の1位チームとしてリーグを数週間中断してアジアナンバーワンを懸けて出場した2016年の)アジアクラブ選手権で優勝して(帰国してから)負け始めたこともある。全勝したいですが、1試合1試合やっていって結果的に全勝できたらいいなと」

 星龍太は、クラブとして初めて優勝を逃した2016シーズンからキャプテンマークを託されてきた。森岡が移籍して、9年間リーダーとしてチームを統率してきた北原亘は引退、チームの心臓ともいわれたコスタも引退してそのまま監督に就任。新チームとして再出発した年は「名古屋は絶対に負けてはいけない」と自らを奮い立たせるように戦っていたが、タイトルを逃したことで彼は、誰よりもその責任を感じていた。

 だからこそ、1年後に迎えた歓喜の瞬間は、ピッチ上で泣き崩れた。

「プレッシャーもあったし、肩の荷が下りたような感覚で、嬉しさや感情が爆発してしまった」

 大きな重圧から解放された星龍太はその時から、ピッチで一回り成長した姿を見せるようになった。今年3月の全日本フットサル選手権で優勝してMVPを獲得すると、今シーズン開幕前に行われたリーグカップ戦でも頂点に立って、再びMVPに選出。守備に特徴を持つ選手が立て続けに最優秀選手に選ばれることは異例中の異例だが、それほどまでに星龍太は、チームの勝利に貢献していたのだ。

 守備を統率するキーマンとして屈強な相手選手をシャットアウトするだけではなく、機を見た攻撃参加でチームに勢いをもたらす。安定感とインパクトのあるそのプレーには新たな“キング”の風格すら漂う。

 謙虚な王者こそが最強。星龍太はその最強チームの象徴として、愚直に上を目指して戦っている。

文・本田好伸(SAL編集部)

(C)AbemaTV

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