将棋界における史上5人目の中学生棋士は、この男だったかもしれない。最年少記録を次々と塗り替える“西の天才”藤井聡太七段(16)とともに“東の天才”と称される、増田康宏六段(20)だ。プロデビューとなる四段昇段を目前に足踏みが続き、中学生デビューはならなかったが、17歳となる直前の2014年10月1日の四段に昇段すると、2年後の2016年10月には若手棋士の登竜門、新人王戦で優勝。昨年も優勝し連覇を果たしている。「永世七冠」を達成した第一人者、羽生善治竜王(47)と同じ八王子将棋クラブで腕を磨いた増田六段は、将棋ソフトでの研究を駆使し「常識を疑うことは大事」と、独自の感性を持ちながら、羽生竜王の背中を追っている。
増田六段の出身は、東京都昭島市。通っていた八王子将棋クラブは、A級棋士の阿久津主税八段(36)、中村太地王座(30)らが育った場所だ。「5歳ごろから将棋を始めました。しばらくして羽生先生も通われた道場に通うようになって。時々、指導対局もしていただきました」と懐かしんだ。増田六段が生まれたころといえば、羽生竜王が「七冠独占」を達成して、まだ間もないころ。タイトルを3つ、4つと当たり前のように保持していた最強棋士の姿は、増田少年にはさぞ輝いて見えたに違いない。
奨励会同期の佐々木大地四段(23)とも、この八王子将棋クラブで出会い、しのぎを削った。「毎週のように僕と佐々木君で指していたんですけど、なかなか勝てなかったです」と、当時は歯が立たなかったが、2人は昨年の新人王戦の決勝三番勝負で対決。2勝0敗のストレートで、増田六段が連覇を飾った。「佐々木君はあまり定跡型にとらわれない、独自の指し方で来る。果たして定跡というのは意味があるのかって考えるようになりました」と、ライバルに負け続けたことを糧にし、プロの決勝の舞台では「定跡にとらわれない指し方は非常に有効だなと、自ら力戦型に持ち込みました」と、いい部分を吸収して強くなった。
将棋ソフトを用いての研究に熱心なことで、棋士の間ではあまり指されなくなっていた「雁木」に光を当てた存在としても知られている。「常識を疑うってことは大事かなという気がしますね」と、自分が持つ、周囲が持つ固定観念を、ソフトを使って破壊することに活路を見出している。自分を駒に例えると、という質問にも「金ですかね。金というのは、コンピューター将棋によって、今までよりも幅広く対応できる駒になったので。そこはちょっと自分に似ているかなという気がしますね」と語った。
AbemaTVトーナメントの決勝トーナメント1回戦では、あの藤井七段と対局する。前人未踏の29連勝達成時の相手だったこともあり、終わった後も何度となくその様子を見ることになった。「年下であれだけ勝つ人なんで、意識しないわけがないです。勝率?難しいですね。25%ぐらいですかね」と笑ったが、当然負ける気など毛頭ない。今期の竜王戦決勝トーナメントでは雪辱を果たし、公式戦では1勝1敗。東西の天才対決は、持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算の超速将棋という舞台で、また新たな輝きを見せる。
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