■「前日から100g、200g体重が増えているだけでも嫌だった」
日本だけでも約2万6000人以上が抱えているという「摂食障害」。若い女性の病というイメージを持たれがちだが、近年では男性や子どもが罹るケースも増えているという。
「よくある思春期の、"ちょっとダイエットしようかな"っていうノリで始めたダイエットがきっかけでした」。
摂食障害を抱えると麻鈴さん(18)は、誰もが思うような軽い気持ちで始めたダイエットの結果、53kg(身長164cm)だった体重は約1年3ヶ月後には37kgにまで低下。拒食症を引き起こしてしまった。「例えば前日から100g、200g体重が増えているだけでも嫌だった」。誰が見ても痩せた身体になってもなお、鏡に映った自分のことを太っていると感じ、もっと痩せなければ、という強迫観念に囚われてしまった。と当時を振り返る。
両親が仕事で忙しく、1人で過ごす時間が多かったという麻鈴さん。「家に帰っても寂しかったし、痩せたら心配してくれるんじゃないかな、という気持ちはあった。人間関係は数字では表せないし、頑張ってもうまくいかないことが多いけれど、食べ物を減らせば体重はとんとん拍子で落ちていく。体重は裏切らなかった」。
摂食障害の克服を専門的に支援する心理カウンセラーである堀越えつこ氏によると、家庭や学校の悩みを誰にも相談できないストレスのはけ口がダイエットに向けられ、体重が減ることに喜びを感じてのめり込み、食事をコントロールできなくなってしまうケースが多いのだという。
摂食障害の人たちが集まるグループミーティングを訪ねると、自らの悩みや経験談を語り合っていた。参加者の中河昭子さんは、18歳の時、些細なダイエットがきっかけで拒食症を患い、55kgあった体重が3か月で32kgまで落ちてしまった。「1日にもずく3パックだけで、あとはお茶とガム以外は口にしなかった」。痩せすぎることや太りすぎることでの身体への負担だけでなく、うつ病などの精神疾患を併発してしまうケースもあるという。自身も拒食症だった経験を持つ堀越氏は「拒食期は"お腹が空く"という感覚もなくなる。最悪の場合、栄養失調、感染症、心不全などで亡くなってしまうこともある」と話した。
■拒食から過食に切り替わり1年で33kg増、彼氏にも別れを告げる」
こうした症状は、食べ物の拒絶から、逆に食べ過ぎる摂食障害につながることもある。麻鈴さんも、"スイッチが切り替わったかのように"過食に転じてしまった。という。
「食べたくない時でも食べ物があることが忘れられなくて、気になっちゃって食べてしまう」と話す。以前は朝昼晩の食事とは別に菓子パン3つにケーキ2つ、唐揚げやチキン、さらにアイスやチョコレートを繰り返し食べていたという。
最近では落ち着いてきているというが、今でも週に2度ほど症状が出てしまい、お弁当を2分ほどで平らげてしまう。「味わうという感覚はあまりないかもしれない。すぐ飲み込みたくなっちゃう」。過食症の中には、食事の途中で嘔吐し、その後再び食べ始めてしまう人もいるという。それでも満腹感も感じないという。
過食症になって1年で体重は33kgも増加し、一時は70kgを超えたこともある。現在は60kgだというが、やはり痩せたいという気持ちは変わらず、過食する自分が許せないという。「限界がない。食べようと思えば永遠に食べてしまうから、寝落ちするしか止める方法はない。過食した時の罪悪感は半端ない。落ち込むどころじゃなく、一種のうつ状態みたいになる。涙が止まらなくなる時もある」と話した。
そんな摂食障害は日常生活にも影響を及ぼすという。「今はいつ衝動に襲われるか分からない。普通に友達と遊んだり、仕事の用事の時も大丈夫かなと不安に思う」と麻鈴さん。月々10万円ほどの食費がかかるため、アルバイトも掛け持ちしているが、仕事前に過食の衝動に駆られてしまい休んでしまったこともあった。「(彼氏から)"太ったね"と言われたらすごく傷つくと思った」。自分に自信が持てず、傷つきたくないという思いから、自ら恋人に別れを告げた。
"痩せてないとかわいくないみたいな風潮"に振り回されていると感じているという麻鈴さんは「なかなか周りに言えない子も多いと思うけど、言うだけで楽になる部分もあるし、回復できるということもわかってほしい」と話す。堀越氏も、「SNSで回復された方の投稿をみて、元気になれるんだと知った。SNSで傷つくこともあるけど、あの投稿を見ていなかったら、まだ回復していないと思う」と自身の経験を振り返った。
■価値観ではなく「社会問題」として捉える必要性
最近では摂食障害を抱える小中学生も増えているという。国立青少年教育振興機構の「自分の体型をどう思うか」というアンケートによれば、「少し太っている・太っている」と答えた人が51.9%、「ふつう」と答えた人が37.8%、「少し痩せている・痩せている」と答えた人が10.1%だったという。全体を通すと自分は太っていると認識している人が半数を超える結果となった。ある小学6年生の女子児童(身長152cm)は体重45kgだったが、周囲がダイエットを意識し始め、自分の体型が気になり始めたことから食事の量が減ってしまい、拒食症を発症してしまったという。
認定NPO法人3keys代表の森山誉恵氏は「根本的に治すためには、家庭環境や学校環境を見直していかなければいけない」と指摘、「子ども自身も、なんでこんなに食べ過ぎてしまうのか分かっていないケースも非常に多い。また虐待ということへの自覚はないまま、どうしても自分が許せなくて拒食症になってしまうという親もいる」と話した。
司会のテレビ朝日の大木優紀アナウンサーは「思い返してみると、私が産後ダイエットの腹筋をしていたとき、娘に"なんで体操しているの?"と聞かれたことがあった。ちょっとした会話の中で、痩せている方が良いことなんだと刷り込んでしまっていたかもしれないと思った」とコメント。編集者・ライターの速水健朗氏は「摂食障害と犯罪を単純に結びつけてしまうのは危ないが、摂食障害による体重やお金の不安が高じて万引きに走ってしまったという女性受刑者もいるという。精神疾患として社会のサポートが必要な問題なので、価値観の問題で片付けてしまってはいけない」と指摘していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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