Fリーグ開幕から7節で合計45ゴールを奪い、圧倒的な実力をもって7連勝中だった名古屋オーシャンズから、今シーズン初めて勝ち点を奪ったのはなんと、平均年齢21歳の選手で構成されたFリーグ選抜だった。
ともに愛知県の武田テバ・オーシャンアリーナを本拠地とする両チームの対決は、前半のうちに名古屋が2点を挙げたが、後半はFリーグ選抜が快進撃を見せて2-2のドロー。いわゆる、勢いに乗って序盤のリードを守り抜く“先行逃げ切り”ではなく、最強の名古屋を相手に“追い込んだ”ところにも強さを感じる。
失うものがないので何点取られても食らいついた
「本当に大きい1点だったと思います。2-0は(勝っているチームからすると)危険なスコアといわれている中で、運がこっちに流れてきたようなゴールでした」(Fリーグ選抜・瀧澤太将)
後半の開始早々、瀧澤が放ったシュートは笠井大輝に当たって軌道が変わってゴールへ。瀧澤は名古屋サテライト、笠井は名古屋のトップチームが所属元だけに、先輩への“恩返しゴール”は、若手チームにとっても大きな価値を持つ1点だったことは間違いない。瀧澤はさらにこう振り返る。
「失うものがないので、何点取られても食らいついていく『挑戦者のメンタリティ』をみんなが持っています。1点取られても想定の範囲内というか、そこまで(精神的な)ダメージはなかったですね」
Fリーグ選抜は、今後のフットサル界を背負っていく若手のための“育成&強化型”のチーム。Fリーグやその育成組織に所属しながら出番の少なかった選手が中心のチームだ。毎日のトレーニングやフットサルに専念できる恵まれた環境を与えられているが、開幕前には彼らに“結果”を期待する声はほとんどなかった。
だからこそ、選手たちは「やってやろう」とハングリー精神を強めていった。そして今、「Fリーグ選抜が名古屋と引き分け!」というニュースは衝撃を持って業界内に伝わるとともに、開幕戦でシュライカー大阪に2-6で大敗したことを考えても、恐るべきスピードで成長を遂げていることを、世間に知らしめたのだ。
昨シーズン、開幕前に負傷離脱してリハビリを兼ねて名古屋サテライトでプレーしていた名古屋のペピータは「1試合ごとにどんどん彼らの成長を感じています」と賞賛する。それでも、瀧澤をはじめとする選手たちは、現状に満足することはない。それどころか、貪欲に上を目指すことだけを考えている。
「いつでも自主練をできる状態ですから、“得るものがある”というより自分たちで“得られる状態がある”だけ。あとは自分次第という感じです。恵まれた環境があるから成長するというよりも、それをプラスにするのは自分たち次第なので、そこで自主練だったり、毎日の練習だったりをものにできるかという感じです」
「自分次第」という言葉に、名古屋サテライトでプレーし続けて特別指定選手としてトップチームに登録される道ではなく、自分が主体となってプレーができる環境へ飛び込んだ瀧澤の覚悟が詰まっている。
「もちろんトップチームに上がって、そこで出場し続けることの先にある日本代表を目指しています。でもまだ若いからこそ、挑戦しようと思ってFリーグ選抜に入りました」
今はまだ、持ち味のドリブルが通用している。しかし、そこからシュートに持ち込む形は、名古屋サテライトで地域リーグを戦っていた時のようには作れていない。この先、相手にさらに警戒されるようになれば、ドリブルさえ満足にやらせてもらえないかもしれない。ただそれさえも、覚悟の上だ。
「まずはトップでプレーしたい」という瀧澤のチャレンジは、ここからが本当の戦いを迎える――。
文・舞野隼大(SAL編集部)
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