◆『ラストアイドル』総合企画・ 秋元康氏インタビュー
AKB48グループ、坂道シリーズをはじめ、トップアイドルたちの総合プロデュースを数多く手掛けてきた、ヒットメーカー・秋元康氏。『ラストアイドル』(テレビ朝日系・毎週土曜深夜0時10分放送 ※一部地域を除く)は秋元が、新たなアイドルグループをプロデュースするべく立ち上げた、唯一無二のサバイバルオーディション番組だ。
番組では、メンバーの座をかけて壮絶な“入れ替えバトル”が繰り広げられる。戦いに負け、泣きながら去っていくメンバーの姿に視聴者からは「リアルすぎる」の声が相次ぎ、地上波で3rdシーズン放送中の今も反響を巻き起こし続けている。
地上波2ndシーズンでは『ラストアイドル』から生まれた5つのユニットたちが表題曲をかけて争奪バトルを展開。結果、勝者の「シュークリームロケッツ」が新たに“ラストアイドル”として表題曲を歌うことが決まった。1stシーズン以来“ラストアイドル”という名称だったユニットは「シュークリームロケッツ」に敗れ、「LaLuce(ラ・ルーチェ)」に改名された。
そんな『ラストアイドル』のプロデューサーバトル第2弾が『ラストアイドル in AbemaTV』(毎週日曜・よる7時)として、放送中だ。秋元康氏をはじめ、つんく♂、指原莉乃、近田春夫、後藤次利の5名の有名プロデューサーたちがアイドルユニットとタッグを組み、地上波2ndシーズン同様、シングルの表題曲をかけて対決する。
自身もプロデューサーとして加わりながら、企画の中心にいる秋元康氏。プロデューサーバトル第2弾の決勝が今月26日に迫った今、『ラストアイドル』の生みの親である秋元康氏に話を聞いた。
「作り方を変えてみよう」企画のきっかけは名曲『バンドワゴン』の誕生から
――AKB48グループや坂道シリーズのプロデューサーとしても有名な秋元さんですが、『ラストアイドル』構想のきっかけは何があったのでしょうか?
秋元:AKB48グループ、坂道シリーズというのは、先に楽曲を決めているわけではなく、そこに集まったメンバーの個性で曲を選んでいくというスタイルです。それとは逆に「最初に曲を決めて、その曲に合った人たちを集めたい」という構想が以前からぼんやりとあったんです。
スーパーマーケットで食材を見てから「何を作ろうかな?」と考える場合もありますが、そうではなくて、作る料理が決まっていて、最も合う食材を探すやり方。「作り方を変えてみよう」と思ったことが『ラストアイドル』の始まりかもしれません。
――その構想は今の『ラストアイドル』の形に反映されていますか?
秋元:何人組で、こういうフォーメーションで、というのは最初からありました。『バンドワゴン』という楽曲は、良い曲だと思ってかなり前からキープしていた曲でした。僕の場合は、AKB48グループ、坂道シリーズ以外にもいろいろなアーティストのために、たくさんの曲を集めていて、月に約2000曲は聴いているんです。その中で「この曲はストックしておこう」って思ったり、「これは良い曲だけど今回のテーマではないな」などと、選択しています。『バンドワゴン』はだいぶ前から自分の中で温めていた曲なんです。
――『ラストアイドル』は今地上波でも3rdシーズンが放送中の人気番組です。当初からシーズンを重ねてアイドルたちを育成することを想定していたのでしょうか?
秋元:なんとなくありましたね。番組も、アーティストのプロデュースも、当初の企画通り、設計図通りにはいかないものです。今の時代は、予定通りにいかなかったものを、どういう風に直しながら作っていくのか、最初から“決めない”というやり方が面白いような気がしているんです。
昔はその逆で、最初の設計図通りに作ることが、いい結果をもたらすための“予定調和”を生んでいたのかもしれませんね。今は、スタッフすらこの先どうなるのか分からない、そういう番組作りの方が楽しいのではないかと思っています。
秋元氏が考える"最強のアイドル"とは?
――秋元さんは『ラストアイドル in AbemaTV』で「Someday Somewhere(サムデイサムウェア/以下、サムサム)」のプロデュースを担当しました。地上波2ndシーズンでは指原莉乃さんがプロデュースしていた“サムサム”ですが、今回彼女たちをどのようにプロデュースしようと考えたのでしょうか。
秋元:指原には指原のやり方と正解があって。僕らの仕事は、100人に100通りの正解があるんですよ。視聴者の皆さんがプロデューサーになったら、また別のやり方があるだろうと思う。なので「指原がこうやっていたから、自分はこうやろう」と思うことはないですね。
僕は各プロデューサーにお任せしていて。例えば、つんく♂は髪型なども細かく指示して、指原も「もっと痩せた方が良い」とメンバーにアドバイスしていましたが、僕は(細かいプロデュースは)ないんですね。むしろ、彼女たちが自分で気づいたり、楽曲に影響されて変わっていったりすることが、僕なりのプロデュースだと思っています。
▲「Someday Somewhere」
――『ラストアイドル』は「最強のアイドル」を目指している女の子たちの集まりだと思います。秋元さん自身が考える"最強のアイドル"とは、どのようなアイドルでしょうか?
秋元:「語りたくなるアイドル」が、最強のアイドルだと思います。例えば、ワインって、なぜこんなに世界中の人から愛されているのか、疑問に思ったことがありました。ワインって“語りたくなるお酒”なんですよ。「これは何年物で、産地がここで、作り手がどうだ」と語るポイントがたくさんある。そのようなことが、廃れずにずっと人気であり続けている理由だと思います。
1つのアイドルグループを目撃した人が「このアイドルのデビューはこうで、メンバーはそれぞれこういうルーツを持っていて、メンバーがチェンジして……」といった経緯を覚えていて、新しくそのアイドルを知った人に語れることが、最強のアイドルだと僕は考えています。
――まさに『ラストアイドル』は語りたくなるポイントがたくさんありますね。
秋元:そうですね。AKB48が2005年に誕生してから、ファンの皆さんが、劇場に行った後に“感想戦”と言って、ファミレスや居酒屋でその日のライブを見た感想を語り合っていることを知りました。ブログやTwitterに感想を書いてくれる。そうやって、語りたくなるのがファンの皆さんの心理だと思います。
――以前、同番組で「Good Tears」のプロデューサーを務めた近田春夫さんのインタビューで、近田さんは「作曲よりも作詞が難しい。今の日本で“作詞家”と呼べる人は秋元康しかいない」とおっしゃっていました。秋元さんが作詞をする上で心がけていることや守っているルールはありますか?
秋元:「正解がない」ということをどこまで自分に言い聞かせられるか。プロというのはどうしても、自分なりの正解、経験則から生まれた正解を作ってしまう。でもそれは、その時だけの正解かもしれないし、幻想かもしれない。1年後、いや、1分後には変わっているかもしれない。「前回はこうだったけど、本当は違うのかもしれない」と、どこまで思うことができるか。歌詞は慣れれば慣れるほど、簡単に書けてしまうかもしれないけれど、慣れはよくないです。
あとは、時代が反映されているかも大切です。昔『ポケベルが鳴らなくて』(※)という曲の歌詞を書いたのですが、今ポケベルを使っている人はいませんよね。だから“流行歌”だと言えると思う。その時代を表すような言葉を大切にしながらも、その1分後には自分で否定する。そういうことが必要だと僕は思っています。
――貴重なお話をありがとうございました。『ラストアイドル』の今後の展開が楽しみです。
※『ポケベルが鳴らなくて』(歌:国武万里/1993年)
同名のTVドラマ「ポケベルが鳴らなくて」の主題歌。1993年7月から同年9月まで日本テレビ系列で土曜21時に放送されていた。
作曲は今回『ラストアイドル』のプロデューサーバトル第2弾にも参加した音楽プロデューサー・後藤次利。
(テキスト:中村梢)
(写真:You Ishii)