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 豪雨、台風、地震と、相次ぐ災害に見舞われた日本列島。そんな被災地や被災者の様子を伝えるマスメディアの災害報道に対しては、「悲しい」「見たくない」という声も少なくない。10日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、とくにテレビ報道の問題点について議論した。

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 まず、北海道地震の発生翌日に被災地を取材したテレビ朝日・小松靖アナウンサーが、次のように問題提起した。「自分自身の葛藤もあり、皆さんの率直なご意見を聞かせていただいと思って企画した。"報道の使命"と言うと構えているようだが、現地の状況をいち早く伝える、そして人命救助に資することに全力で当たるのが基本だと思う。自己矛盾、自己否定にもつながってしまうが、北海道出身者として満席の復旧第一便に乗って感じたのは、"我々クルーの代わりに他の方々が乗ることもできたのに"、ということだった。災害報道が報道機関の使命だということも含み置いた上で、災害報道とは何なのか、被災地のためのものなのか、それとも被災地とは関係ないところにいる人のためのものなのか考えたい」。

■マスメディアの報道は「5つのバランス」が崩れている?

 これに対し、新潟青陵大学大学院の碓井真史教授は、災害心理学の見地から、マスメディアの役割として「災害発生直後の生活状況」「被害増大を防ぐ情報」「被害の大きさ、悲惨さの報道」「被災者へのインタビュー」「明るく前向きな情報」の5つのポイントを紹介する。

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 「自殺報道等と比べ、災害報道にはガイドラインがない。被災者へのインタビューがその人の心の癒しになる場合もあるが、苦痛になってしまうこともある。例えば、"困りました"というセリフをどうしても言わせたい取材者に、"万が一こうなったら困ります"、という発言の"困ります"だけを切り取られたという私の知人もいる。また、"報道ストレス"という問題もある。"共感疲労"と言って、友達や親戚がいるわけでもないのに辛くなってしまい、不眠や食欲減退が生じる人もいる。あるいは明るく元気にやっている人に対し、文句を言いたくなってしまう人もいる。災害発生直後に欲しいのは、安心・安全の情報だが、"被災地で赤ちゃんが産まれた""復興への歩みを始めた"といった、勇気を与えるような明るく前向きな報道も必要だ」。

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 これに対し、編集者・ライターの速水健朗氏は「今、5つのこのバランスが崩れていて、(3)被害の大きさ、悲惨さの報道の比重が大きくなっている。災害を伝えるためには、シンボリックな映像も必要だと思うが、そればかりが続いていると感じる人が増えていると思う。 自分の地域の方がひどい状況なのに報道されない、偏っていると感じることもストレスにつながるだろう。僕も取材時に"嫌われているな"と実感することがある。それでもハイヤーで乗り付けて、何をやっても許されると思っていた時代に比べれば、ずいぶん変わったとも思う。なんでもできるわけではなく、横暴なことをすれば怒られることもあるし、学んできている。マスメディアの取材が全てダメだという風潮になってしまえば、それこそコストがかかる取材はできなくなってしまう」とコメント。

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 マーケティングアナリストの原田曜平氏は「どのチャンネルも多様性がなく、酷い現場やかわいそうな人たちを映して、よそと違うものを取り上げることを考えていないのではないか。視聴率を気にせずにジャーナリズムを追求するのであれば、例えば壊れた一つのマンホールをみんなで映し続けるのではなく、"ほとんどのマンホールは大丈夫です"という言い方もあると思う。また、東日本大震災も経験した若年層には、何かの役に立ちたいという思いが強い。しかしテレビの報道を見ているだけでは自分たちが募金以外に何をすればいいかが伝わってこず、被災地との分断を生んでしまっている気がする。仮に大都市の人を対象としているのであれば、その人たちに何が求められているか、ということを報じてもよいのではないか」と指摘した。

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■山路徹氏「代表カメラの映像を各局に分配すればいいと思うこともあるが…」

 ジャーナリストの山路徹氏は「被災地から外に向けた報道が基本。スピーディに現場に入り、シンボリックな状況を通して、起きていることの重大性を伝えるのが第一の使命だと思う。そして、避難生活の改善の一助になるよう、被災者の方々の窮状を訴える。それによって支援の輪が広がるし、復旧の判断材料にもなる。僕も東日本大震災の時には緊急車両の指定をもらい、閉鎖していた高速道路を通ることができた。また、一般の方が20リットルまでしか入れられないガソリンも満タンにできた。そういう特権の代わりに、我々は真摯に現場に向き合い、使命をきちんと果たさなければいけない。また、マスメディアの役割と、コミュニティFMな地域密着型のメディアの役割は違う。今回も震災直後の停電によって、ラジオが被災者ニーズに答える情報源になったと思う。SNSも含めて、これからの災害報道は役割をきちっと分けて考えていった方がいいと思う」との見方を示す。

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 その一方、「土足で上がり込んで、取材したら帰っていく、というイメージを持たれてしまうのも否めない」とも指摘する。「実際、テレビ局の中継車がガソリンスタンドに並ぶ列に割り込んで非難を浴びたこともあった。また、一つのテレビ局から番組ごとに何班も現場に出るので、対策本部などには各局の記者が同じようなことを聞きにやってくる。それに取られる時間が増えて、仕事にならないという声も聞こえてくる。今回、厚真町の土砂災害の映像を見ていると、各局の三脚が並んでいた。こういうものは代表カメラを1台置いて、それを各局に分配すればいいと思う。ただ、いかに多様な側面を掴むかが後々に大事な資料にもなっていくので、ジレンマもある」。

 また、センセーショナルな映像や、それに支えられる視聴率の問題については「企業としての"数字を取った方が良い"という考え方だけではなく、視聴者のニーズに応えるという使命もある。短時間の中で伝えようとすると、見聞きしたものの中からチョイスして、一つのレポートにし、全体が見えるようにしなければならない。その中では、"困っている人がいないなんてことないだろう!"と、東京の上司に言われる場合もあるだろう。これもとても難しい。正解は常にケースバイケースで、それぞれが自分の中で自問自答しながらやっていくしかない、永遠のテーマだと思う」と話した。

■小松アナ「今のメディアは悪者のような見られ方をされている」

 番組には、北海道の視聴者から

 「全国メディアからは有益な情報は得られなかった。生きていくための情報は地元の放送局が与えてくれた」

 「毎日同じ内容で辛い思いをしている。唯一の情報源がラジオだったが、リクエストした曲を流してくれたので、少しストレスが解消された」

 「ぺしゃんこに潰れた家の映像はあまり見たくない。いつ、どこで電気や道が復旧するのかといった、もっと有益な情報発信してほしい」

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 といった意見が寄せられた。

 小松アナは「山路さんの話に出てきた、"もっと困っている人がいるだろう"という作り手の発言が、"大変な被災地"をドラマチックに伝え、見ている人の期待に答えられるよう、より酷い現場やより辛い思いをしている人たちを撮ってこい、という意味であれば、それは人としてありえない要求だと思う。一方、状況が改善していると言っても、実は困っている人がいて、それをすくい上げるべき、という思いで言っている場合もある。それでも今のメディアは前者、つまり悪者のような見られ方をされていると思う。だからこそ、あえて天に唾する企画をやりたいと思った」と指摘。

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 その上で「地震発生から3日目、電力が回復し、無料で電源を解放していた羊ケ丘展望台を取材した。そこで観光協会の方に"私は札幌出身だが、果たして取材に来ることには意味があるのか。気持ちの整理がついていない部分がある"と話すと、"地元の局も含め、知ってほしい欲しい情報を伝えてもらう上でマスメディアは役立っている。すごく助けてもらった」と言ってくれた。その言葉に救われた。ありのままを報じた結果、悲惨さを伝えるだけに終始するだけではいけない。そして、復旧しているということをファクトとして出していくことによって、いわば風評被害を抑えるという役割も果たすことができる。我々も東日本大震災を経験して、被災者を支援しようと頑張っている方々にも役立つ情報とは何かを問いはじめている。まだまだ足りてはいないが、やはりマスメディアの災害報道には一定の役割はあると思った」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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