コナミデジタルエンタテインメントが提供している、国民的野球ゲーム「実況パワフルプロ野球」シリーズにおいて、ゲームの肝にもなっている「実況」を長年担当している人がいる。堂前英男アナウンサーだ。オートレース実況でも知られる堂前アナだが、楽天イーグルスの主催試合で実況していた際、パワプロ担当の“耳”に止まり、同タイトルでは「2010」から最新作の「2018」まで続けて、声を入れ続けている。「野球の実況とパワプロは別物ですね」と語る堂前アナは、どんな語り分けをしているのか。
野球実況歴はもう14年になるという堂前アナ。デビュー戦は東京ローカルの高校野球・東京都大会。その後はプロ野球の試合でも担当することが増えていった。そんな時、急にやってきたパワプロの実況というチャンス。1つ、別タイトルを担当した後、「2010」から3代目実況アナに就任した。「収録は、それはもうとんでもない言葉の数ですよ。想像を絶しました。(2010は)僕でパワプロを行くと決まって2カ月くらいで仕上げないといけなかったんですが、なんとかゲームが最低限成立するワード数を収録するのに、100時間必要でした。他の仕事でも、そんなのはないですね」と、自身の思い出話ながら、目を丸くした。
なぜそれだけの時間が必要なのか。野球で起こり得るプレーを、短い言葉と言葉をつなぎ合わせて伝える必要があるからだ。まずピッチャーが「投げました」、そのボールが「ストライク」なのか「ボール」なのか。さらにはバッターが「打ちました」。打球は「大きな当たり」が「ライト方向へ」。そのままフェンスを越えて「入りました!」「逆転2ランホームラン」。これは非常に単純な一例だが、ピッチャーがどんな球を投げ、バッターがどんな様子で打ち、その行方はどうなのか。無数の分岐をすべて言葉で説明しようというのだから、気が遠くなるような作業だ。
堂前アナも、実際の野球中継の経験をパワプロに持ち込もうとしたが「どうしても時間の制限があるので」と、短い言葉に苦労した。ただ、これがすべてつながった時には、やはり自分がさも続けて話しているように聞かせたい。微妙なニュアンスの違いも話し分けて収録することで、よりリアリティが増した。また「いろんな工夫をしました。ヘッドホンに球場音声を聞かせてもらって、声に臨場感を出そうとか」と、プロの技と意地をマイクにぶつけ続けた。
現在はAbemaTVの野球中継でも実況を担当。9月14、15日の横浜DeNA対巨人ではパワプロとのコラボ中継があり、堂前アナは15日を担当する。「最近またパワプロがとんでもなく盛り上がっていますからね。NPBが大会をするぐらいですので」。堂前アナの声を“パワプロ風”実況を聞きながら見ていれば、自然と「ミートA」「対ピンチB」なんていうおなじみのフレーズが頭に浮かんできそうだ。
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