「晋三の言っていることに賛成する。我々も平和条約を望んでいる。信じられないかもしれないが、たった今思いついたことを話す。今ではなくて、年内に前提条件なしで平和条約を結ぼう」。
ウラジオストクで開かれていた「東方経済フォーラム」で飛び出した、ロシア・プーチン大統領の"衝撃発言"。安倍総理が講演で「日本とロシアには、ほかの二国間にめったにない可能性があるというのに、その十二分な開花を阻む障害が、依然として残存しています。それこそは皆さん、繰り返します、両国が、いまだに平和条約締結に至っていないという事実にほかなりません」「プーチン大統領、もう一度、ここで、たくさんの聴衆を証人として、私たちの意思を確かめあおうではありませんか。"今やらないで、いつやるのか""われわれがやらないで、他の誰がやるのか"と問いながら、歩んでいきましょう。容易でないことは互いに知り尽くしています。しかし、われわれには未来の世代に対する責任がある」と訴え、「平和条約締結に向かう私たちの歩みを、どうかご支援をください。力強い拍手を」と聴衆に呼びかけた直後のことだった。
しかしプーチン大統領の提案には懸念も残る。「前提条件なし」という言葉には、日本が平和条約締結の前提としている北方領土問題の解決を棚上げにしようという思惑も見え隠れするからだ。ロシア情勢に詳しいアナリストの小泉悠氏も「ある程度準備をし、戦略を練った上での発言だった場合は若干面倒な話だ。四島の帰属抜きの平和条約を日本に飲ませ、当面の決着を図るという戦略を本格的にしかけてきた可能性があるからだ」と指摘する。
菅官房長官は会見で「プーチン大統領の発言については承知しているが、意図についてコメントすることは控える。いずれにしても、政府としては北方四島の帰属の問題を解決して、平和条約を締結するという基本方針のもと、引き続き粘り強く交渉していきたい」としている。
12日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した名越健郎・拓殖大学教授は「プーチン大統領は、相手の力を利用して逆襲に転じる柔道の達人だ。安倍総理の発言を受けての、まさに"柔道外交"だと思う。プーチン発言の後、ロシア外務省の幹部が直ちに交渉を始めよう"と日本側に持ちかけている。そういう動きは前からあったと思うし、安倍総理も"やはり来たか"と受け止めたと思う。しかし、この提案は変化球、クセ球で、相当警戒する必要がある。平和条約を結ぶということは、国際法的には戦後処理を終えるということだ。戦後一貫して日本は"四島は不法占拠"だと主張してきたのに、合法占拠になってしまう提案には安易には乗れないだろう」と話す。
その上で、「安倍総理とプーチン大統領は2人だけの会談を必ず行ってきた。そこでどういう話がされたかは一切表に出てこないので、北方領土での経済活動や帰属問題がどこまで協議されたかはわからない。ただ、日本とロシアの二国間でやってきたが、70年間解決できなかった。今回のプーチン大統領のクセ球を受けて、安倍総理は交渉せざるを得なくなると思う。最終的にはアメリカに仲介してもらい、日本からも色々な提案や条件を出したらいいと思う。すぐに交渉に応じる必要はない。ロシアも消費税や公共料金の引き上げ、年金受給年齢の後ろ倒しなど、国内事情が厳しい。欧米からも孤立しているので、G7でまともに相手にしてくれるのは日本だけだ」とした。
■「二島返還+共同開発」「三島返還」という戦略も?
戦後、歯舞群島・色丹島の二島返還を主張していた旧ソ連と、四島返還での継続協議を要求した日本との溝は埋まらず、「ソ連は歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする」との内容が明記された「日ソ共同宣言」が1956年に出され、今に至っている。背景には常にアメリカの思惑や影響があったことも指摘されている。
名越氏は、日本側の政治家からも出ていた「二島返還論」について「プーチン大統領が"国後、択捉について交渉に応じる"と言ったことは一度もない。最大限譲って歯舞・色丹の二島だと。それでもしかも二島引き渡すのは、柔道で例えれば"一本"、日本の100%勝利になってしまうとも言っている。だからいつも彼は"引き分け"と言う。つまり、今回の提案には落とし穴があると思う。プーチン大統領は、主権がどうなるかは日ソ共同宣言には書かれていないとも主張しているので、二島は"返還"ではなく"レンタル"になるかもしれない。プーチン大統領と話をした安倍総理は四島返還が難しいと感じ、本音は二島返還+共同開発になっているのかもしれない。ただ、それは日本の国是を変えることにもなるので、相当勇気がいる決断になる」との見方を示す。
筑波大学教授の中村逸郎氏は「この発言の裏にあるのは中国、ロシア、日本の新しい同盟を狙っている」「日中の関係悪化を修復するためにプーチンが間を取り持つということ」「もう1つの思惑はアメリカに対してアジアに反米のブロックを作りたい」との見方を示している。
名越氏も昨今の世界情勢を踏まえ、次のように提案した。「個人的な意見だが、三島くらいを目指してもいいんじゃないかと思う。今、ロシアは孤立している。クリミアを併合したことで、欧米からの経済制裁を受けている。それでもロシアは絶対にクリミアを手放すことはないはずだし、ロシア人の学者には"北方領土よりもクリミアの方が100倍大事だ"という人もいる。そこで、例えばクリミアと北方領土の"三角トレード"という考え方もあり得るだろう。つまり、経済危機になっているウクライナに対し日本が経済支援をする。ロシアは合法的にクリミアを占拠する。そして、その代償として日本に北方領土を返す、ということだ。日ロの会談は、中ロの接近を防ぐという国際関係上の狙いもある。プーチン大統領は来年の6月に大阪に来る。手ぶらではおそらく来られないと思うので、対話は続けた方がいい」。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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