「悪魔の左足が炸裂!」
「Fリーグ最年長得点記録を更新する2発で勝利に貢献!」
フットサル界はこの1週間、いやもう少し前からDUARIG Fリーグ2018/2019 ディビジョン1で6年ぶりに現役復帰した元ブラジル代表の話題で持ち切りだった。ロベルト・カルロスは8日のエキシビションマッチと9日の公式戦の2試合でプレー。Fリーグ選抜の一員としてヴォスクオーレ仙台を迎えたリーグ戦では、圧巻の2ゴールで2-1の勝利を呼び込んだ。世界一を経験した男の“真髄”を世に知らしめたのだ。
わずか1試合でFリーグの歴史に深く名を刻んだロベカルは、我々に何をもたらしたのか――。
この議論は多角的にとらえる必要があるが、今回、ここで最初に触れておきたいのは、一緒に戦った選手たちのこと。年齢差が実に20歳を超す若手選手たちは何を学び得たのか。
「勝者のメンタリティ」とは己を信じ続ける強さ
その一つは「勝者のメンタリティ」だ。ロベカルは来日してから何度もそこを強調してきたが、それはいわゆるリップサービスではなかった。彼の偉大な経験で培ってきた“ホンモノ”のメンタリティを、一つひとつの行動で示していたのだ。
仙台戦の前にロベカルは「今日の試合に勝つためにできることを全部やろう。怖がったら絶対ダメだ」という言葉で選手を鼓舞したという。しかし、いくらモチベーションを上げても、試合でミスは必ず起きる。1点リードで迎えた前半終了間際、北野聖夜が相手の前線の選手をフリーにしてしまうミスで、痛恨の同点弾を決められてしまった。するとロベカルは北野にこう伝える。
「気にしなくていい。このままやり続けていれば絶対にチャンスが来るから」
ロベカル自身も、ピッチに最初に登場したときには、何でもないパスをトラップし損ねるイージーミスをしてしまった。それについてキャプテンの三笠貴史は、「たぶん、あのミスに関して(本人は)何とも思っていないと思う」と振り返る。当初、ロベカルは明らかに不安そうにしていたし、ミスもおかした。しかし自分の弱点を隠すことなく、自分が今このチームにできることに徹していく中で、不安を拭い去り、最終的には短いプレー時間で最高のパフォーマンスを発揮してみせたのだ。
前半16分、齋藤日向のロングパスを胸トラップして、詰め寄ってくる相手GKの動きを冷静に見極めて、その股を抜くシュートを決めた。そして後半31分、カウンターで自ら中央を持ち上がると、迫るDFをあざ笑うかのようなアウトサイドのパスで左に出して、これを受けた北野がDFを引き付けて折り返す。そのボールはコントロールの難しい高さの浮き球となったが、これを右足で合わせて決勝点を演出した。
やり続けていれば絶対にチャンスがくる――。ロベカルがFリーグ選抜に伝えた「勝者のメンタリティ」とは、己を信じ続ける強さだった。
もう一つは「スーパースターの振る舞い」だ。ロベカルはピッチの外でも偉大だった。彼がベンチに座っていたのは、試合時間40分のうちのおよそ33分半。つまり、ほとんどの時間をピッチの外で過ごしていた。
その間に彼は、ベンチに腰を掛けるのではなく、ウォーミングアップゾーンでいつでも出られるように体を動かしながら声を出し、チームメートを鼓舞し続けた。それは試合では当たり前の光景だが、1試合のためにポンと入った選手が、しかも世界のスーパースターが、チームのためにそこまで勝利にこだわれるだろうか。
勝者のメンティリティとともに、彼の何気ない立ち振る舞いも示唆に富んでいた。
「勝つために自分はどうすればいいか。どんな起用をするかは監督にすべて任せる。勝つためなら何でもする」
ロベカルは試合前も試合中も、そういって全権を高橋優介監督に委ねたのだという。その言葉通り、前半のタイムアウトやハーフタイムのロッカールームでも、真剣に指示を聞いていた。「もっと自分を使ってくれということもないし、決して自分が主体にならない」と、高橋監督は驚いたというが、あくまでも一人の選手として、リスペクトを持って監督にも、チームメートにも接する姿は、まさに一流の証だろう。
Fリーグ選抜で戦ったわずかな時間、彼は“スーパースターのロベカル”ではなく“一人のFリーグ選抜の選手”だった。いや、勝利にどこまでも執着して、監督や仲間など、周囲へのリスペクトを常に忘れることのない姿こそが“真のスーパースター”だったのかもしれない。
Fリーグ選抜の選手がまるで父親のような年齢の偉大な選手から学んだ二つのこと。それはきっと、彼らにとっては一生、心に刻まれる財産となるに違いない。
しかし、大切なのは経験することではない。この経験をどう生かしていくのか、だ。
Fリーグ選抜の選手たちがピッチで「ロベカル・イズム」を発揮し始めたときに初めて、ロベルト・カルロスが来日した価値の一つが証明される――。
文・舞野隼大(SAL編集部)
(C)AbemaTV
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