1週間前、サッカーにおける世界的なスタープレーヤー、ロベルト・カルロスの参戦に沸いた日本フットサル。エキシビションマッチで“悪魔の左足”による強烈なFKを披露するなど4得点しただけでなく、平均年齢約20歳のFリーグ選抜のメンバーとして公式のリーグ戦でプレーして、自らの2得点でヴォスクオーレ仙台を2-1で破ったその姿に、会場で目撃したファンやAbemaTV、J SPORTSのライブ配信で視聴したユーザーは大いに盛り上がった。その意味で、Fリーグの試みは概ねポジティブな成果を生んだといえる。
しかし、検証しなければならないことはいくつかある。端的にいえば、ロベカルの参戦は成功だったのか。そして彼は日本フットサルに、何をもたらしたのか――。
Fリーグの未来は、この先の行動次第
そもそも、何をもって「成功」と考えるべきか。それは、今回の目的に立ち返る必要がある。Fリーグは8月17日の「重大発表」の記者会見の場でプロジェクトを公開した。その際のFリーグ最高執行責任者(COO)小倉純二氏の発言を要約すると以下のようになる。
「満員になっていないFリーグにもっと関心を持ってもらいたい。もう一つは、日本代表がアジア王者になるために若手を育成したいからこそ、(Fリーグ選抜にロベカルが入ることで)どんな効果があるか試してみたい。そういうことの結果として、フットサルのおもしろさをもっとわかってもらいたい」
つまり、一つは興行面での盛り上がり、もう一つは競技力の向上につなげたいということだ。
興行面の盛り上がりとしては、入場者数と視聴者数で一定の成果を示した。今回は全12チームが大阪の会場に集結して、3日間で各2試合の合計12試合を行う“共同開催”だったが、総入場者数は12783人。1試合平均は1065人であり、ロベカルが戦ったFリーグ選抜と仙台の試合は12試合中で最高の3015人を動員した。
東京・駒沢で6月にスタートした今シーズンの開幕節は12チームが2日間で1試合の合計6試合を行う“セントラル開催”だったが、総入場者数は4478人。1試合平均は746人だったことからも、数字上は大きく伸びたといえる。
同様に、AbemaTVの配信があった8日、9日の10試合の放送の視聴数を合計すると78万視聴を超え、コメント数も通常時の数倍の数字を残した。いずれも当初想定していたであろう目標値までは公表されていないが、「Fリーグにもっと関心を持ってもらいたい」という小倉COOの期待は、数字にも確実にあらわれたことは間違いないだろう。
一方の競技力の面ではどうか。これは「ロベカルから“息子たちへ”。レジェンドが伝えたかった2つのメッセージ」(https://times.abema.tv/news-article/4880792)でも記されているように、若手選手にいい影響があったことは確実だ。明確な数字で示されるものではないものの、この先のリーグや代表活動を定点観測しながら評価されるものだろう。
興行面と競技面の両方で成果を生んだことで「成功」を見た今回のプロジェクト。大切なのは、この結果を今後どのようにつなげていくのかということだ。新規獲得したファンや、関心を持ったお客さんをさらに呼び込んでいくこと。大きな経験を得た若手が躍動しつつ、トッププレーヤーの(あらゆる面での)能力を目の当たりにして刺激を受けたすべての選手たちがレベルアップしていくこと。今、業界内部から外部へと伝染しつつあるこのフットサル熱を、ムーブメントに変えていくこと――。
それこそが、日本フットサルがさらに発展していくために欠かせない。……というありがちな結論付けをしながら、ふと小倉COOの言葉を思い出した。
「日本フットサルに役立つようなことがあるならば、毎回トライすることを考えていく必要があります。たくさんお客さんが入らないと困りますが、そこを図りながらウエイト付けしていきます。日本代表が強くなる、クラブチームがアジアの中で戦える。日本のサッカーの中のフットサルの位置付けを浸透させたいと思っています。来年も企画としては、今回どういう形で収まるかを見ながら検討していきたいです」
つまり、ロベカルのフットサル参戦をムーブメントに変えるキーワードは「PDCAサイクル」ということだ。「Plan=計画」、「Do=実行」、「Check=評価」、「Action=改善」のうちの、今回が「P」と「D」とするならば、次に「C」と「A」があり、さらに継続してこのサイクルを回していくことこそ重要だろう。
今回、あえてネガティブな側面には触れなかった。ただし主催側には「ロベカルがきても認知が思うように伸びていない」、「集客は想定を大きく上回ることができなかった」、「何が足りなかったのか」といった様々な思いが駆け巡っていたはず。この結果を手放しで喜んでいる関係者は皆無に違いない。
ロベカルが日本フットサルにもたらしたものとは、これまで以上の危機感かもしれない。これは一つのきっかけにすぎない。Fリーグが変われるか変われないかは、関わる人すべてのこの先の行動次第だ――。
文・本田好伸(SAL編集部)
(C)AbemaTV