きょう投開票が行われる自民党総裁選。石破茂元幹事長は「社会保障の改革と消費税率引き上げはあくまでセットなのであって、10%まで上げる」、安倍晋三総理も「今まで8割を借金返しに使っていたものを半分子どもたちの世代に、教育の無償化あるいは幼児教育の無償化等に振り向けていく」と述べ、ともに消費税率引き上げ来年10月に予定通り行うとしている。
財務省が発表している増税の主な理由は、財政再建と社会保障財源の確保だ。国と地方の債務残高は予算ベースで今年度1107兆円と、20年前の約２倍、社会保障給付費も121兆円と20年前の約３倍に上っている。同省の試算によれば、消費税率を10%に引き上げることで税収が約５兆円増えるので、これを国の借金返済と幼児教育無償化などの社会保障に充てようという考えだ。こうした政策の背景には超高齢化社会の進行が考えられるが、街で話を聞くと「賛成するわけない」（91・女性）、「10%というのはきつい。年々、年金も減っているから」（75・女性）と、あまり評判は良くないようだ。
そこで18日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、増税・賛成派を呼んで議論した。
■共働きの３人家族で負担増は月々150円程度!?
30代の現役世代への影響はどうなっているのだろうか。川崎市に住む、電機メーカー勤務の平坂仁志さん（38）一家で試算してみた。妻・奈保さん（36）、娘・杏奈ちゃん（４）の３人家族で、奈保さんも食品メーカーに勤める共働き世帯だ。消費税がかかる支出は食費、光熱費、幼稚園代など、月に約28万円。そのうちの2万2400円分が消費税で、税率が10%になれば出費が5600円増える計算だ。
ただ、増税賛成派でもある第一生命経済研究所主席エコノミストの熊野英生氏は「実はそこまで負担は増えない」と指摘する。家計の負担を減らすため、酒類を除く食品のほとんど、そして新聞が軽減税率対象となっており、増税後も8%に据え置かれるからだ。また、飲食店での食事は増税の対象だが、テイクアウトなら惣菜扱いとして8%のまま。平坂さん家族の場合、実際に増税対象となる支出は18万円分。月々の負担増は約3600円となった。これを聞いた仁志さんは「１日に150円くらいなので、ペットボトル１本分。節約ができそうなレベルだ」と話していた。
それでも軽減税率の対象外となる商店主たちは危機感を募らせる。「8%になった時には売上がグンと下がった。今度もどうなるかは目に見えている。また経営がきつくなるだろうなって」（「伊勢信酒店」の沼田正史さん）。また、たい焼き店の「水天宮たいあん」の平野来夢さんは「子どもが100円玉と50円玉を握りしめて買いに来る。値段が上がることで悲しむ顔を見たくない。たい焼きは庶民の味なのに、そうじゃなくなっちゃうのは、やっぱり嫌だなと」と複雑な表情を浮かべていた。
■増税反対派・上念司氏「何で余計なことをするのか」
増税に反対の立場を取る経済評論家の上念司氏は、財務省が示す２つの理由について、次のように反論する。
「１つ目の財政危機は嘘だ。確かに地方と国を合わせると1200兆円の借金があるが、一方で国の資産は1100兆円ある。つまり実際は100兆円くらいの借金しかない。しかも国の資産はほとんどが金融資産で、１番大きいのは日銀が持っている500兆円以上の日本国債。これは返さなくていい借金だ。なぜか財務省はこのことを言わない。"国の資産とは何だ、売れるのか"とすぐに言う人もいるが、それはド素人。トヨタで言えばプリウスの工場も資産だが、これが即座に売れるかと言えばそうではない。しかし、この設備でこれくらいプリウスを作ればこれくらいの売上が出ると考えて価値を判断し、株を買うではないか。国の収入=GDPも500兆円ある。本当は誰も財政危機だとは思っていない証拠に、10年以下の国債の金利は0%台だ」。
また、社会保障費の増大についても、「経済成長が財源になる。つまり、豊かになって物をいっぱい買えば税収が増える。儲かった企業は所得税を納め、社員に給料をいっぱい払えば所得税も増える。でも税率が上がる買い控えが始まり、企業は儲からず、給料を払わない。するとさらに物が売れないという悪循環に陥る。そうやって景気が悪くれば、税収は増えない。1997年に増税をした時も税収が４兆円以上減った。2014年の増税の時も、やはり消費が14兆円分減った。平坂さんは"150円くらい大したことない"と思ったかもしれないが、計算上のことと人々の心理は違う。今回やれば景気は２年くらい落ち込む可能性がある」と指摘、「アベノミクスの調子が良くなれば税収も増えるし、社会保障も何とかなる。何で余計なことをするのか」と訴えた。
これに対し、熊野氏は「ここ数年で物価が上昇していて、食品で言えば10年で14%も値上がりしている。その負担を横において、消費税率だけを悪者にするのはちょっと納得がいかない」と指摘した。上念氏は「日銀が目標にしている物価上昇率は約2%だが、そのくらい物価が上がると健全な経済になると言われている。しかしまだ0.3%しか上がっておらず、むしろ不十分だ。それを無理やり税金で上げようとすれば悪影響が出る。消費を伴わない物価上昇は問題だ」と答えた。
■増税賛成派・熊野英生氏「不安解消のためにやるべき」
一方、熊野氏は「日本の財政が不安でしょうがない。中小企業で成功して儲かった30代の友人がシンガポールに移住してしまった。財政が悪化すれば徴税されてしまうのではないか、その前に資産を保全しようという考えからだった。税収が増えているから良いという話もあるが、リーマンショックのような金融不安があれば、あっという間に減ってしまう。そこで所得税や法人税ではなく、落ち込みにくい消費税で社会保障費を賄い、バランスを取ろうということだ。しかし、消費税というのは景気の良い時に少しずつしか上げられない。すでに安倍さんは２度も先送りした。今考えれば、2016年５月は一番景気が良かったのに、伊勢志摩サミットで"リーマンショックがもう一度やってくる"といって先送りした。この判断は大失敗だったと思う」と指摘。
「税率を上げたら景気が腰折れするのではないかという話もあるが、0.8%ぐらい賃上げすれば、この負担は乗りきれる。企業収益が強いので、賃上げをサポートすれば大丈夫だ。今こそ消費税を上げるチャンスだ。消費税を上げないことでの不安から金持ちがどんどん円を売ってドルを買えば、円が暴落する。トルコやアルゼンチンのように、歯止めのかからない円安で輸入物価が上がり、高齢者が泣きをみることになる。それは避けないといけない。日本の経済が耐えられる範囲でちょっとずつ借金を返済し、不安を解消していくのが、今やるべきことだと思う。将来不安を軽減し、将来期待を前向きにするためには消費税を上げ、財源をしっかりすること。財源のない社会保障の拡充は不安だ」。
これに上念氏は「将来が不安だから目先の税金を上げるというが、みんな税金を上げられるのが不安だ。その結果、貯金に回してしまう可能性がある」と反論していた。
総裁選を巡る議論でもあまり注目されていない消費増税の問題。どのような選択肢を選び取るのか、それぞれ立ち止まって考えてみる必要がありそうだ。（AbemaTV／『AbemaPrime』より）
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