9月17日、鈴木軍のタイチが後藤洋央紀を破りNEVER無差別級選手権の第20代王者に輝いた。意外にも新日本プロレス参戦から12年、リングネームを一新してから9年、ジュニア時代も含めてもタイチの新日本のシングルタイトルは初戴冠だ。

試合ではかつて師匠ともいえる川田利明を彷彿とさせるファイトスタイルと、フィニッシュのタイチ式ラストライドからブラックメフィストへの流れまで、タイチのこれまでのレスラーとしての歩みが詰め込まれ、今後のヘビー級でのポテンシャルを感じさせる内容でもあった。

今回のタイトル奪取には伏線がある。今年3月にヘビー級に転向、内藤哲也との抗争、「NEW JAPAN CUP2018」など存在感をみせるも、今年のG1クライマックス出場メンバーから落選。その怒りを新日本上層部にぶつけ、自らの選ばなかったことを「世紀の大誤審」と批判、後藤のNEVER挑戦への動機も「一番簡単そうだから」と同時に「ベルトさえ持っていれば間違いなくG1には選ばれる」と、タイトルそのものよりも、この夏の恨みを晴らすためにベルト奪還だったことが言葉の節々から感じられる。

今回の後藤からのタイトル奪取も、金丸義信、エル・デスペラード、飯塚高史と鈴木軍メンバーの介入の混乱の中の勝利という点で賛否はあるだろう。しかし、今回の対戦でのタイチの勝利に、川田利明の付き人として全日本からフリーランスで様々な団体を渡り歩いた外様の苦労人と、同年代ながら新日本プロレスの生え抜きとして比較的優遇されたエリート的なプロレス人生を歩んできた後藤という対象的な対立軸で、勝利を歓迎する声も少なくないのだ。

NEVER王者となったタイチは、早速足蹴にしたベルト自体には全く興味は無いようだが、一番の目標である来年のG1まではかなり時間があるということもあり、タイトルを最低でも10ヶ月は保持し続けるために防衛ロードを歩まなければならない。そこでどのように来年の夏までベルトを保持し続けるかに注目が集まる。

ひとつはタイトルを獲る前に口にしていた「防衛戦は全員ジュニアとやる」という案。一見すると卑怯に感じるがNEVERは「無差別級」タイトルであり、本来階級を越え挑戦されて然るべきなのだ。

ジュニアとの防衛戦というのが極論であれば、次なるターゲットのヒントはこのベルトの成り立ちにあるかもしれない。前哨戦の千葉・東金アリーナのバックステージでタイチは次のように語っている。

「そもそもあいつ、NEVERもなんも関係ないだろ。NEVER、内藤がしつこくいうNEVER、価値が下がったNEVER何で言うか調べてみらたよ、あのNEVER、クソみてえなベルト、あいつが考えたらしいじゃんかよ(笑)。提案者、内藤らしいじゃねぇかよ。そうなんだろ? しかもよ、あのベルト作ってあいつのワガママで「NEVER作って、若手で盛り上げようぜ」って作ったベルト、初代決定トーナメントをテメェが欠場してんじゃねぇか、この野郎。出てねぇじゃねぇか。それでベルトの価値がどうだとか、無責任じゃねぇか」

インターコンチネンタルのタイトルでさえ見向きもしなかった内藤哲也が、改めてNEVERへと食指を伸ばすとは到底考え難いが、2012年に若手育成のために設立されたNEVERの初代王者トーナメントには、高橋広夢(ヒロム)、YOSHI-HASHI、田口隆祐、石井智宏、BUSHI、高橋裕二郎、KUSHIDAなどが参加していた。偶然だが、ヘビーとジュニアという階級を超えた挑戦者を募るという唯一無二のタイトルの立ち位置を再定義するとともに、タイチの指摘どおりに提唱者の内藤哲也が、過去の精算のために乗り出すというシナリオも十分に考えられるのではないだろうか。

「価値がないクソ王者ばかり」と戴冠後もNEVERへの愛着は微塵もないように振る舞う“傍若無人な聖帝”なタイチだが、不遇な扱いを受けてきたNEVERのタイトルに新たな価値をもたらすのでは?という期待もある。そしてその鍵となるのは、タイトル誕生に関わったキーパーソンと、思いもよらぬこの新王者なのではないだろうか。

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