AbemaTVの格闘リアリティ番組「格闘代理戦争」に、1stシーズンから登場してきたのが山本“KID”徳郁さんだ。レジェンド格闘家が選手を育成、優勝選手には賞金とプロ契約が贈られるというこの番組は1stシーズンのK-1編から2ndシーズンのMMA編、そして最新の3rdシーズンでは女子MMA編がスタート。番組の演出であるマッコイ斉藤さんによると、番組にはKID選手のイズムが深く根付いているという。
「KIDさんは指導者としても本当に優れた人だったと思います。KIDさんのジム・KRAZY BEEの素晴らしいところは、KIDさんでも分からないことがあったら聞くというところ。それが新人でも関係ないんですよ。『格闘代理戦争』に出たスソンくんにしてもテコンドーで実績があるので“何かを持ってるんだから”と。周りに対して壁がないし、凄く研究熱心。教えるのも好きで、僕らがロケでジムに行った時にも柔軟運動を教えてくれたり、分け隔てがなかった」
もともとはレスリング出身のKIDさんだが、プロとしてはK-1にも出場、打撃を武器としていた。そのあたりも才能だけでなく、研究の賜物でもあるのだろう。
「他の選手もそうですけど、打撃のKRAZY BEEというこだわりがありましたね。俺たちは打撃で勝つんだという。だからMMAのジムですけど、テコンドー出身のスソンくんを『格闘代理戦争』のK-1編に出してくれたし、MMA編でも打撃系の辻本(拳也)くんを選んだんだと思います」
選手を育成する『格闘代理戦争』に対する熱意も並々ならぬものがあったという。マッコイさんによれば「推薦選手を選ぶトライアウトも最初から最後まで全部自分で確認して、選んでました。番組用にやっていたところはないんですよ」。
「トライアウトでは、KIDさんに怒られたことがありましたね。僕らは番組を作る上で、つい“テレビ的にはこっちの選手のほうが人気出るよね”なんて言っちゃうわけです。そしたらKIDさんが“いや、そういうんじゃないでしょ”って。それだと俺のトライアウトじゃないから。きっちりやりましょうよって。番組の中でスソンの必殺技を見せないでくれとも言われました。“最近のテレビの人って見せちゃうんですよ”って。でもそれだと作戦がバレることになる。それだけ真剣に取り組んでましたね」
KIDさんは番組スタッフに病気のことを知らせなかったそうだ。「病気のことは隠していたし、心配かけたくないという性格ですから。体調が悪かったと思うんですが、いつもニコニコしてました」とマッコイさん。
「KIDさんが大声を出して怒ってるのを見たことがない。それは選手も言ってますね。ただロケの時に、自分の子供たちが蟻を踏みつぶしているのを見た時は怖かった。“何やってんの。ダメだよ。命だよ”って。
人には言わなかったですが、虐待された犬を保護する活動にも関わってましたね。これは亡くなったから誉めるわけでもなんでもなくて、優しくて強いって本当にあの人のことですよ」
現在、「格闘代理戦争」は3rdシーズンが放送中。KIDさんの出演はかなわなかったが、その存在が忘れられることはないだろう。
「KIDさんはこの番組を夢があって最高の企画だって言ってくれてたので。1stシーズンで最初に手をあげて、選手を出してくれたのがKIDさん。3rdシーズンも出てくれると思ってました。僕らには『格闘代理戦争』はKIDさんから始まった番組という思いがある。これからも番組が続く限り、推薦選手のKID枠、KRAZY BEE枠は残していきたいと思ってます。何より僕らスタッフがこんなに悲しいんだからご遺族の方の悲しみは計り知れないと思います。心からKIDさんのご冥福をお祈りします。」