10月7日、ラスベガス・T-Mobileアリーナで開催される『UFC229』。コナー・マクレガーがハビブ・ヌルマゴメドフ戦で復帰戦をおこなう。2017年8月26日に開催された5階級王者、フロイド・メイウェザーとの世紀のボクシングマッチから約1年1ヶ月、総合格闘技の試合からは1年11ヶ月、ぼほ2年というブランクからの復帰に不安視する声も少なくない。
メイウェザー戦後のマクレガーの復帰はかなり困難なものと予想されていた。生まれてきた子供や妻とのプライベートを優先したいという本人の意向ももちろん大きいが、世紀の大プロジェクトを終え、この試合で得た莫大なファイトマネーと、彼が主戦場としてた総合格闘技で得るギャランティーとの大きな剥離から、さらに扱い難い選手というイメージがついてしまっていた。今回の対戦相手、ヌルマゴメドフの名前も当初から挙がってはいたが、当時としてはさほど世間が重要視するカードとは到底思えなかったのも事実だ。
しかしながらマクレガーの復帰に向けてのストーリーは「ノートリアス(悪名)」の名をのままに破天荒なものだった。今年4月のNY・バークレイズ・センター大会に仲間たちと乱入、ヌルマゴメドフら選手たちの乗るバスを襲撃。当初多くの人たちがプロレスさながらのアングルと誤解したかもしれないが、バスに向け台車を投げつけ試合を控えていたレイ・ボーグとマイケル・キエーザの2選手に怪我を負わせ、その後自ら出頭し警察に拘束された。
この事件、結局懲罰刑は逃れ、数日間の奉仕活動で決着したが、皮肉にもこの犯罪行為により、ヌルマゴメドフvsマクレガーというカードが世間の注目一気に集める契機となったのは紛れもない事実だ。7月末にアメリカ・ブルックリンの裁判所で司法取引に応じ、8月5日に『UFC229』のカード発表、着々と試合に向けた用意も行ってきたことが明るみになった。さすがに犯罪行為に走ったことは許されることではないが、全て確信犯だったという疑惑は拭いきれない。なぜなら過去の試合を前にトラッシュトークや、悶着からストーリーを作り上げ最後はリングで決着という流れと全く一緒。もはやヌルマゴメドフvsマクレガーは、総合格闘技界で最も今見るべきカードに昇格している。「お見事」というかその狡猾さに認めたくないものの、認めざろう得ない複雑な心境である。
しかしながら、今回マクレガーにとって勝手が違うのは、ヌルマゴメドフが彼のキャリアにおいて史上最強。下馬評では、場合によっては歯が立たない相手になりそうだという辛口の見方もあることだ。26連勝10年間無敗、マクレガーが不在の間にUFC世界ライト級を戴冠した王者との直接対決。
元のさやといえるライト級タイトルをもう一度手にし、再び総合格闘技の世界での主役になりたいマクレガー。27連勝で不動の王者としての名を世界に轟かせたいヌルマゴメドフ、ここ数年有料放送のセールス低下などコンテンツ不足に悩むUFC側と3者3様の思惑が交差する『UFC229』。総合格闘技の景色を大きく変える重要な1戦になることは間違いない。
写真:AP/アフロ