戦国時代の武将・毛利元就が、息子たちの結束を促すために伝えたという「三矢の訓(おしえ)」は有名な逸話だろう。この教訓は現代社会のあらゆる場面で耳にする。スポーツもその一つだ。サッカーでは、バルセロナやレアル・マドリードなど強力な3トップの布陣に対してよく“三本の矢”の表現が使われてきた。
そんな例えはフットサルにもある。最強クラブ・名古屋オーシャンズの助っ人選手たちのことだ。
100パーセントの確率でゴールを決める3人
ペピータ、ヴァルチーニョ、ルイジーニョの3人のブラジル人は、Fリーグの過去11シーズン中、9連覇を含む10回の優勝を誇る“無敵”のチームをさらに強くしてしまう「最強の三矢」だ。彼らはチームメートが「本当にいいやつら」と口をそろえる優れたキャラクターの持ち主だが、相手からすれば“本当に嫌なやつら”だろう。三者三様のスペシャルなスキルを、彼らが持ち合わせているからだ。
昨シーズンの開幕前に加入したペピータは、リーグ前哨戦のカップ戦で全治約半年の重傷を負って離脱。手術とリハビリを経て復帰したが、サテライトチームでの調整を続けていた。そして満を持してトップチームで迎えた今シーズンは、前線のターゲットとして機能。ポジションはゴール前で勝負するピヴォだが、サイドなど中盤でチャンスメイクするアラの役割も担う彼は、日本人も頭が下がる献身性で貢献している。
インパクトのあるプレースタイルではないものの、左利きを生かしたフィニッシュから15試合で12得点をマーク。味方にとって「いてほしいところにいる」ことが、ペピータの最大の武器だろう。
ヴァルチーニョは逆に、インパクト十分のゴールゲッターだ。前線に張り出す姿はまるで重戦車のようであり、絶妙な駆け引きでゴール前でフリーになって、ボールを受けたらあっという間にゴールを奪ってしまう。15試合で14得点はチームトップの数字だ。世界的にも重宝される左利きではなく右利きの選手だが、その右足の威力を理解している相手でさえものともしないのは、彼の技術が秀でているからに違いない。
ルイジーニョもまた前線で勝負できる攻撃者だが、3人の中ではもっともオールラウンダーだ。的確な状況判断と出足の鋭い守備でボールを奪い、ストライドの長いドリブル突破から自分自身でシュートを突き刺してしまう一連のカウンターは驚異的。トップスピードから最後にループシュートを決める芸当も見せるテクニシャンであり、走・攻・守のすべてをハイレベルで兼ね備えたパーフェクトな選手なのだ。
そんな強力なタレントの持ち主たちはしかし実際のところ、三本の矢ではない。
Fリーグの規定上、ベンチ入り可能な外国人選手は3人で、同時にピッチでプレーできるのは2人まで。だからペドロ・コスタ監督は、ヴァルチーニョとルイジーニョの2人、ペピータの単体という組み分けをメインにして戦ってきた。3人が一緒にピッチに立つことはできないのだ。しかし彼らは、結果を残してきた。
今シーズン15試合で挙げたゴールは37。チーム総得点の半分に迫るほどの数字だ。ただそれ以上にすごいのは、3人のうち“誰も決めていない試合”がゼロだということ。しかも、1人だけが決めた試合は4試合で、それ以外の11試合はすべて3人中2人以上が決めている。毎試合「100パーセント」で誰かが決めているのだ。
単なる三本ではなく、一本でも折れない矢が三本――。
この“折れない矢”のすごさは、ぜひその目で確かめてほしい。1人の強さ、2人のコンビの強さ、そして同時には出られなくても、助っ人が“3人もいる”という強さ。群雄割拠のまさに戦国時代のようなFリーグで、名古屋が天下を取ってさらに上を目指していけるのは、彼らの力によるところが大きいだろう。
戦国武将も恐れおののく現代フットサル版“三本の矢”を、見逃すな。
文・本田好伸(SAL編集部)
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