今、日本のフットボール界を2人の“ジョー”が席巻している――。1人はJリーグ・名古屋グランパスで得点ランクトップタイの元ブラジル代表FWジョー。もう1人がこの夏、フランスリーグの得点王、MVP、ベスト5の称号を引っさげてFリーグの立川・府中アスレティックFCにやってきたジョーだ。
1試合2得点のハイアベレージでフランスリーグを席巻
ジョーの経歴を見ると、スペイン、ブラジルといったフットサルの強豪国でプレーし、ロシアやイランといった近年力をつけてきている国のリーグでも戦ってきた。そして2016-17シーズンに加入したフランスリーグでその才能が開花する。新加入ながらに21試合で46ゴールと爆発的な得点力を見せ、チームのリーグ優勝こそ達成できなかったものの「MVP」、「ベスト5」、「得点王」の個人3冠に輝いた。
迎えた8月18日の第9節・シュライカー大阪戦でFリーグデビューを果たしたジョーだが、ゴールどころかシュートは前半の2本だけに終わる。続く第10節のFリーグ選抜戦でも前半に放ったシュートの1本に終わるなど、期待されたパフォーマンスには程遠い出来となった。
しかし、迎えた第12節の湘南ベルマーレ戦でFリーグ初ゴールを含む2ゴールを奪うと、第13節の大阪戦では先制ゴールを挙げ、第14節のエスポラーダ北海道戦は決勝ゴールを奪い、3戦連発。徐々に結果を残し始め、バサジィ大分戦、アグレミーナ浜松戦ではノーゴールに終わるも、多くのチャンスを作り出すなどチームへの好影響が出てきている。
実際にジョーとマッチアップした浜松の萩原洪拓は「どちらかと言えば、パワーやスピードで勝負する選手ではなくて、ボールを受けるタイミングやマークの外し方など細かな部分にこだわっている選手」と、ストライカーとしてではなく、チャンスメイカーとしてプレーする器用な選手との印象を口にした。
確かに立川・府中はジョーが加入したことで目に見える決定的なチャンスが増えた。フィクソとゴレイロの間を動き回るようにしてマークを外してギャップでボールを受けたかと思えば、自陣まで降りてワンツーを仕掛けるなど、フリーを作り出す動きがうまい。
さらにボールを受けてからのシュートパターンは流石外国人選手といったところで、バイシクルシュートやボレーなど目に見えるわかりやすいものから、キックフェイントで作り出した一瞬の隙で小さなモーションからシュートを撃ち抜くなど様々なバリエーションを持っている。結果として、ジョーが初ゴールを奪った大阪戦以降、立川・府中は5連勝を飾った。
しかし、だ。「MVP」であり、「ベスト5」であり、「得点王」の選手にゴールを期待するのは当然のこと。フランスリーグを席巻してきたジョーだからこそ、誰もが彼のゴールを望んでいるはず。ジョーも自身の役割を理解した上で、大事なことは「慣れ」だという。
「みなさんの期待に応えたいと思っています。ただ、そのためにはまだまだ慣れなければいけないことが多いです。日本のこと、チームのこと。フランスでは自分が中心のチームでしたが、今は違います。チームに合わせる中で力を発揮する。そのためにも慣れが必要です」
この「慣れ」については、谷本俊介監督も「ようやくプレシーズンを終えた段階。日本のフットサルへの慣れが必要だと思っています。時を過ごせばもっと良くなると思っていますし、それを僕らも模索している段階です」とまだまだ本来の出来からは程遠いとの印象を明かしている。それでも「彼は得点力がある選手。チャンスを作るところまではいけている」と、徐々に手応えを感じているようだ。
思えば、現役ブラジル代表ストライカーとして期待された名古屋のジョーも、最初の数カ月はJリーグへの適応に苦しんだ。しかし、夏以降は一気に調子を上げて得点を量産している。
「僕自身が今の結果に満足していません。みなさんの期待に応えられるように、日々頑張っていきます」(立川・府中 ジョー)。チャンスメイカーではなく、ストライカーとして。本物のジョーがまもなく目覚める。
文・川嶋正隆(SAL編集部)
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