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 16日、石油元売り大手の出光興産と昭和シェル石油が会見を開き、来年4月の経営統合に伴う新体制を発表した。新会社の社長に就任予定の木藤俊一・出光興産社長は「来年4月にロケットスタートが切れると確信している」と力強く語った。

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 日本の石炭産業が衰退することを予見し、石油に活路を見出した出光佐三氏によって1911年に創業された出光興産の歴史は、百田尚樹氏の『海賊とよばれた男』のモデルにもなった。1953年、イランへ向けて日章丸二世を極秘裏に出航させ、英国の石油会社との裁判に発展、産油国との直接取引の先駆けを成すに至った「日章丸事件」は特に有名だ。

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 出光佐三氏が遺した「人間尊重」「大家族主義」「独立自治」「黄金の奴隷たるなかれ」「生産者より消費者へ」

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からなる「5つの主義方針」は今も生きているといい、石油通信社の森元裕二編集局長は「出光佐三氏は社員の中でも神様のような存在。色々なものに逆らいながら業界を引っ張っていった人物。代も変わり社長も変わったが、会社にはこのイズムが残っている感じがある」と話す。

■長期化した経営統合交渉の裏に村上世彰氏も

 そんな出光興産と昭和シェル石油の統合話が浮上したのは2014年のこと。しかし会見で木藤社長が「創業家の反対に対して、一定の理解を得ながら統合新社となった。創業家の中でいろいろな議論がなされる中で経営の今の方針に一定の理解を頂いたというのははっきり申し上げられる」と述べたように、企業風土やブランド維持を理由にした創業家や特約店からの反対に遭い、実現までの道のりは簡単ではなく、合意にこぎつけたのは去年のことだった。

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 長引く交渉の中でキーマンとなったのが、村上ファンドとして有名になった村上世彰氏だった。慶応大学大学院の岸博幸教授氏は「村上氏は経済合理性を重んじて行動していたが、彼の力をもってしても4年もかかった。国内もグローバルも状況はどんどん変わる中、創業家の説得に時間を食ってもったいなかったと思う。木藤社長はロケットスタートと言っていたが、4年もかかってロケットスタートと言われてもリアリティがあまりない」と指摘する。

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 また、森元氏は「JXTGエネルギーという巨大元売りが誕生し、反対と言っているどころではないという状況になったということもある。出光興産の中にも、"このままでは潰れてしまうので何とかしてくれ"という人は多かった」と振り返った。

■「石油そのものの需要が無くなることはない」

 かつての銀行再編のように、経営統合などが長く続いている石油業界。かつて15社あった石油企業は来年で「コスモ石油」「JXTGエネルギー」そして、今回の統合による新会社の3大企業が中心となる。

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 岸氏は「基本的には石油需要が落ちてきたことへの対応だ。石油ショックがあり、省エネブームがあり、さらに経済低迷で需要自体が伸びなくなった。エネルギー効率が良くなれば消費も減るので、経営統合することによって固定費を減らし、合理化するのが目的だ」と説明する。

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 また、ガソリンスタンドの推移を見てみると、1998年には56,444件だったのが、2008年には42,090件、そして2017年には30,747年にまで減っている(経済産業省調べ)。

 森元氏は「若者の車離れやハイブリッド車の燃費がどんどん良くなっていったりしているという背景もある。かつてはガソリンはあと何年で枯渇する、などと言われていたが、技術が進展して、シェールガスやシェールオイルを採る技術が誕生、需要が減る中、供給が過剰になってきている部分もある」と話す。

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 その上で両氏は、石油そのものの需要が無くなることはないと指摘する。

 岸氏は「電気というと石油やガソリンが要らなくなるというが、それは全然違う。電気自動車のエネルギーである電気を作るには石油を使うし、新興国ではかなり石油を使うはず。ガソリンの使用量は減るが、石油自体の使用量が減ることはないだろう。エネルギーの構造は徐々にしか変わらない」、森元氏も「灯油で生活している方も多いので、供給は必ず残る。ガソリンスタンドも2万か所くらいまでは減る可能性があると言われているが、それ以上減るのは、車が全部電気自動車に変わった場合だろう」と説明した。

■"すぐには物にならない"と言われる研究も継続してきた出光

 今回の統合の背景には、エネルギー構造の変化に加え、"海賊"のDNAを受け継ぐ出光が抱く野望があるようだ。それが「EV(=電気自動車向けの電池に関わる開発)」だ。現在のリチウムイオン電池は電解質に液体が使われているが、充電時間の長さ・発火の危険性などが弱点だった。そこで出光は現在使用されている液体の電解質の弱点を克服し、安全性・耐久力が高く、高エネルギー、高度化・高出力が可能になると言われている「電池用固体電解質」の開発にチャレンジ。今年7月にはリチウム電池材料室を新設し実用化を目指している。一方、昭和シェル石油は太陽光の開発に長年取り組んできた。

 会見で木藤社長は「昭和シェルさんの強みをしっかり我々とコラボレーションして最大の強みである国内、そして再生可能エネルギー、さらに成長分野、海外展開を両社の優秀な社員の力で仕上げていく」とアピールしている。

 森元氏は「次世代の技術だと言われているが、今までの物とは違うので、世の中が変わるかもしれない。出光興産の特徴で、有機ELのように、"すぐには物にならない"と言われる研究をずっとやってきたところがあり、この"諦めない"というのは社是にも通じる。二酸化炭素の排出を抑えるために牛のゲップを抑える薬を作っていたりもする。元売り各社は新規事業をどんどんやっていっているが、なかなか進んでいない。ただ、太陽光などを2社は持っているので、それが4月以降どのように絡んでいくかが注目だ」と話す。

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 岸氏は「本当にどこまでできるのか」としながらも、「太陽光を活かすためにも、蓄電池の開発が非常に重要。太陽光は太陽が出ている間、風力は風が吹いている間しか発電できない。それを常に使えるようにするには、蓄電池の容量がかなり大きくならないとまずい」とし、新社の研究開発に期待も込めた。

 2010年の新日本石油と新日鉱ホールディングス以来とも言える今回の大型統合。新たな一歩を踏み出した両社は、これからも歴史に名を刻むことができるのだろうか。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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