第19節のペスカドーラ町田とフウガドールすみだで、試合を決めたのは意外な選手だった。両者序盤から集中した入りを見せ0-0の状況が続く中、後半7分に均衡が破れる。GKピレス・イゴールが蹴ったロングパスを、168cmの小柄な選手がバックヘッドで合わせてゴールに流し込む。
Fリーグで3年目を迎える宮崎貴史の決勝弾で、町田は連勝を4に伸ばした。
この日はメインキャストを演じた宮崎だが、森岡薫、室田祐希、クレパウジ・ヴィニシウスといった強烈な個性を持った選手が多数いる町田の中では脇役的存在だ。公式サイトに載っているニックネームは「ロナウジーニョ」。だが、元ブラジル代表のファンタジスタのようにトリッキーなテクニックで勝負するタイプでもない。
そんな宮崎がオールスター軍団の中でメンバーに食い込み、コンスタントに出場時間を延ばしているのはなぜなのだろうか。
素材の旨味を引き出す最高の出汁(ダシ)
「派手なゴールを決めた、止めたといったスコアに直結するところではないかもしれませんが、その1つ前、2つ前で彼のような選手が貢献してくれている。ああいう味方を助けられる選手がいるからこそチームはうまく回るし、周りの選手がより輝けるんです」
岡山孝介監督は宮崎をそのように評価する。
「浜松戦のバナナ(※ヴィニシウス)の先制点などは典型的なシーンですね。ピヴォ(=サッカーでいうFW)の位置で相手を背負ったバナナを宮崎が右から追い越すことで一瞬ディフェンスを釣って、そのお陰でバナナは反転して得意の左足でシュートを打つことができました。バナナにボールが入る前から次の展開を予測して動き出しているからこそ、相手選手よりも早くあのポジションに入っていけるんです。ああいう見えない貢献を、練習から毎回サボらずにやり切ってくれています」
町田のお家芸ともいえるクワトロ(フィールドの4人が連動して動き崩す戦術)のパス回しでも宮崎のサポートは生きる。とりわけ、味方が後ろでボールを持った際の、自陣第2PK付近の小さなスペースに顔を出してパスを引き出す動きは秀逸だ。少しでもタイミングがずれれば致命的なボールロストになりかねないが、常に敵・味方両方の所作をよく観察しながらベストなタイミングでパスを引き出し、相手のプレスをかいくぐっていく。
「みんなパス回しの形やシステムばかりを見るんですけど、実際には回しの中でのちょっとした駆け引きや丁寧さが大事だったりもするんですよ。フットサルはスペースがないのでその辺りは本当にシビアで、細かい部分が少しでも雑になるとリズムが崩れてしまいます。(森岡)薫の豪快なシュートはもちろんすごいけど、宮崎のような周りを助けられる選手もいるからこそチームは機能するんです」(岡山監督)
町田の育成組織であるペスカドーラ町田アスピランチには、運動量とスピードを兼ね備えた将来有望な若手がひしめいている。26歳になる宮崎がただの走り屋にすぎないのであれば、今ほど多くの試合には出場できてはいないだろう。いつ、どこに、どう動くべきか――。頭の回転が早く、瞬時の判断で味方をフォローできる宮崎のような選手はいるようでいない。
その役割はまさに潤滑油そのもの。料理に例えるなら、森岡やヴィニシウスはメイン食材になる肉や魚、宮崎はその旨味を引き出す出汁(ダシ)といったところだろうか。オールスター軍団のフットサルを格上げする隠し味・宮崎貴史に注目してほしい。
文・福田悠(SAL編集部)
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