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 今国会の最大の争点となる外国人労働者の受け入れ拡大の問題。ジャーナリストの堀潤氏は、一方的な枠の拡大だけでは、その家族や日本人にとっても大きな影響を及ぼす可能性があると警鐘を鳴らす。

 今回の所信表明演説でも外国人労働者受け入れ拡大のための入国管理法の改正に言及しています。しかし総理が言うように人口1億人を維持することを考えるのであれば、海外から来られたみなさんに長く住んでもらい、地域社会に溶け込んでいってもらえるような未来像を設計しなければならないと思います。

 技能実習生について新しい在留資格の話も出てきていますが、結局はいずれ帰っていただくことを前提にして設計しているということです。日本にいる間に家族ができ、子どもたちも日本語を覚えた、という人もいるでしょう

 僕はここ数年、東京・福生にある「YSCグローバルスクール」の情報発信のお手伝いをしてきました。その間、東南アジア、南米、中東…と、子どもたちの母国の数は倍近くも増えたと聞いています。そんな海外ルーツの子どもたちが満足に日本語の教育を受けられず、学校で孤立してしまっているケースがあるのです。

 今、日本語のわからない児童・生徒の数は公立学校にどのくらいいると思いますか?6月に文科省が発表した最新の調査結果では、実に4万3千人、10年前と比べると1.6倍という数字です。そのうち、学校で何ら支援が受けられていない状態の子どもは1万人に上るそうです。学校に行っても日本語がわからず孤立している子どもたちがそんなにいること。需要に対して現場が追いついていないため、NPOや自治体などがなんとか奮闘していること。そんな状況があることを知っておいてほしいと思います。

 あるいは最近聞いたケースでは、インドネシアでは"日本では外国人労働者の待遇があまり良くない"という情報が出回り、仲介業者が農村部まで行って集めている状況だといいます。

 この点からも働き方や住みやすい環境を整備しないと、あっという間に人手不足が見込まれている中国などに持っていかれてしまいます。

 最近よく耳にするようになった「SDGs」(=持続可能な開発目標)という言葉。日本でも少しずつ浸透しはじめていていますが、これは何もグローバル企業だけの話ではなく、地場の企業の現場でも徹底しなければならないはずです。最近、海外の弁護士事務所が日本での展開を強めると聞いて取材に行きました。人権問題に関する取り組みが、国際弁護士にとってこれからビジネスチャンスになるからということでした。そうした問題を扱える人材も、日本にはまだ多くはありません。

 一方、外国人労働者の受け入れ拡大で、日本の中での"揺り戻し"も懸念されます。

 外国人が来ると治安が悪くなる、という主張をする人もいますが、優秀で技能があって、柔軟に地域に定着してくれる人々の割合は増えていくはずです。そうなってくると、むしろ治安を悪化させるのは、経済的・教育的に取り残されたその国の人々なのではないでしょうか。こうした問題は、トランプ政権が生まれたアメリカでも同様だと思います。

 僕が司会を務める『モーニングクロス』でも議論したのですが、イギリスでは今、チャヴ(Chav)と呼ばれる白人貧困層の若者の問題が顕在化しています。かつてサッチャー政権が打ち出した合理化・民営化が進み、いわゆる新自由主義的な、自己責任で生き抜く競争社会に転換していった。その結果、経済的には強くなった一方、格差は固定され、貧しい階層が拡大した。その中から、排外的で、素行の悪い若者が出現してしまった。

 そういうことが欧米に遅れて、日本でも起きてくる可能性は十分にあります。番組に寄せられたコメントには、"もう既に出てきている"とか、"俺のことだ"という自嘲的な書き込みもありました。これは非常にシビアな問題です。

 象徴的な話があります。アジアで作品を作ろうとしたある映画監督が、現地の人に気を遣って、現地スタッフのみで撮影をしようとしたところ、"むしろ日本からスタッフを連れてきてください、その方が安く上がるから"と言われたそうです。つまり、そのくらいアジアのクリエイターたちの質も賃金も上がっているということなんです。私達日本人はそういうことにもなかなか気づかずにいるのではないでしょうか。

 日本にはすでに120万人の外国人労働者がいますが、放置されているその家族たちの対策と同時に、教育分野の拡充、若者に背負わせている社会保障の改革など、今ある問題に焦点を当て、早く処方箋を出すべきです。現政権の10代の支持層にとって、本当に明るい未来がやってくると言えるのか。とても難しい局面に来ています。(10月25日、談)

■プロフィール

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(ほり・じゅん)1977年生まれ。ジャーナリスト・キャスター。NPO法人「8bitNews」代表。立教大学卒業後の2001年、アナウンサーとしてNHK入局。岡山放送局、東京アナウンス室を経て2013 年4月、フリーに。現在、AbemaTV『AbemaPrime』などにレギュラー出演中。

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