苦悩の場所から、もう一度心を奮い立たせて賜杯を目指す。大相撲の九州場所が11月11日から福岡国際センターで始まる。大関・栃ノ心(春日野)は先場所、大関2場所目にしてカド番となり、さらに終盤戦に入っても勝ち越しが決められず、苦しみ抜いた。「とても辛い場所でした。だいぶ緊張しましたし、途中でもう落ちるんじゃないかなと、心にヒビがありました」と、当時の心境を吐露した。角界一の怪力の持ち主が追い詰められた秋場所をなんとかしのぎ切り、その怪力で白星をつかみ取る。

栃ノ心の2018年は、ジェットコースターのようなめまぐるしさ溢れる1年だった。初場所に14勝1敗の成績で初優勝。春場所を10勝5敗、さらに夏場所で13勝2敗の好成績を残し、文句なしの成績で大関に昇進した。大きな力士も吊り上げるその規格外のパワーに、一気に綱取りまであると口にした者も少なくなかった。ところが大関として初めて迎えた名古屋場所で足の指を痛めて途中休場。続く秋場所は大関2場所目にしてカド番という窮地に立たされた。
けがの影響もあってか三日目、五日目に黒星がつくと中日、九日目には連敗。白鵬、鶴竜といった横綱との対決を残した状態で5勝4敗ともがいていた。「連勝しなくて勝ったり負けたりしたから、もう本当にドキドキで。土俵に上がると息が上がったけど、最後まであきらめずに頑張ろうと思って」と、なんとか気力を振り絞り、十一日目には鶴竜を撃破。直後に連敗し7勝6敗で迎えた十四日目、阿炎に勝ってようやく勝ち越し、カド番脱出に成功した。
信じるものは稽古しかない。体重は170キロ前後を理想とし「太りたくもないし、痩せたくもない。食べ物であまり太り過ぎないように気を使っている」が、その肉体は稽古で作り出している。「稽古をやらないと自信がつかないので。番付も稽古(のおかげ)で上がってきましたから。お客さんが喜んでくれるように、力強い相撲を取りたいです」と、一番の持ち味を出し惜しみなく発揮するつもりだ。
先場所の鶴竜戦では、両上手から豪快に吊り上げて勝った一番で、館内から大歓声だけでなくどよめきも受けた。がっちり捕まえれば栃ノ心のもの。それが相撲界の“共通言語”にもなっている。今年最後の本場所で“栃ノ心クレーン”は何回見られるだろうか。
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