■「オカッパリ」とは――?
バスフィッシングの魅力は、何と言ってもそのアグレッシブさ。日本古来の釣りとは異なり、一カ所にじっとしているのではなく、自分から魚が居そうな場所を探して何度もルアー(疑似餌)をキャスト。本物の小魚や障害物に隠れるエビのように操り、ブラックバスを“騙して食いつかせる”アメリカ発祥のスポーツフィッシングだ。日本の釣りを“静”とするなら、こちらは間違いなく“動”の釣り。獰猛かつ果敢にルアーにアタックしてくるブラックバスも、最後までジャンプを繰り返して抵抗を続ける。まさにファイトという言葉がふさわしい魚。ドキドキするやり取りを楽しませてくれる好敵手なのだ。そんなバスフィッシングの魅力を十二分に堪能させてくれて、誰でも気軽に楽しめるのが、「オカッパリ」と呼ばれる岸釣りスタイルなのだ。
■ポイント1
オカッパリ・スタイルのバスフィッシングはいつでも気軽に行ける“宝探しゲーム”
何気なく地図を広げて、近所にある河川や湖や池に初めて行ってみる。バスが潜んでいそうな場所を見定めて、まずバス達がそのフィールドでなにをエサにしているのか、“たぶん、この池のメインベイトはザリガニだな”という具合に想像を巡らせる。ザリガニをイミテートしたルアーをラインに結び、狙い定めた障害物目掛けて慎重にキャスト。イメージ通りの場所にキャストが決まった次の瞬間、竿先にゴツゴツっという明確なアタリが! 慌てず確実にフッキングさせた次の瞬間、強烈な引きでロッドが大きくしなり、水面を割って豪快にジャンプするビッグバス! 遠征したり、有名な湖でボートを借りたりしなくても、実は身近な場所に思いがけない大物が潜んでいる。そんな場所を探し、見つけ出す。それもオカッパリの魅力のひとつ。まさに誰も知らない秘密の“宝探し”ゲーム!
◆オカッパリを安全に楽しむために必要なグッズ、ウエア
■手軽さと機能性、安全性を考慮した装備
いつでもどこでも気軽に楽しめる。オカッパリ最大の利点を生かすためには、相応の装備も必要になる。その基本となる考え方は、自由自在に動けること。手にはタックル、そしてそのタックルに対応するルアーやシンカーなどの小物を入れたバッグを、手持ちではなく、身に着けられるバッグに入れて歩いてバスを探しだす。安全のためにも片手は空けておくのが望ましい。また、草むらなどを歩き回る“やぶ漕ぎ”で怪我をしないように、肌の露出を避けるロングシャツにロンパンを着ておこう。足元はスニーカーでも構わないが、ぬかるんだ場所を歩くこともあるので、防水機能のあるシューズが理想的だ。陽射しを避ける帽子はもちろん、目を守りつつも水中を見やすくする偏光グラスなどもできれば準備しておきたい。
■ポイント2
ルアーやワームをコレクションする歓びはお気に入りのおもちゃが詰まった宝箱
■道具
道具をコレクションする歓びもまた、バスフィッシングの世界を広げる大きなファクターになる。ブラックバスという魚は完全なる肉食魚で、季節や環境などによっていろんなものをエサとしている。そのとき、その季節にバスが食べているものは何か? 小魚なのかザリガニなのか、それともミミズなのかカエルなのか……。そのメインベイトとなるエサに合わせてルアーやワームを選んで釣るために、エサの数だけそれらが必要になってくるというわけだ。面倒に思えるかもしれないが、それを一つひとつ揃えていって、タックルボックスというお洒落な収納箱に並べていくときのワクワク感は、まるでおもちゃ箱にお気に入りのおもちゃをいっぱい詰め込んだ子供の頃の気持ちと似ている。年月と経験を重ねるたびに、タックルボックを眺め、肴にしながら、何杯も酒が呑めてしまう程に。
◆主な人気ルアー
■エサではない魅力的なエサ
バスを誘うルアーの花形といえば、硬質プラスチック素材によるハードルアーが挙げられる。その最大の特長はバスが実際に口にするエサとは大きくかけ離れていること。だからこそルアーを操作して口を使わせ、バスを手にしたことに満足感を得ることができる。そんなハードルアーには多種多様なバリエーションが存在するが、バスを誘えるレンジ(層)で大きくふたつに分類することができる。ひとつは水面でバスを誘うタイプ。そしてもうひとつは水面下で誘うタイプだ。
■水面で誘うタイプ
水面で誘うルアーはトップウォーターと呼ばれ、水面に浮いた昆虫や弱った小魚をイミテートする。バスが水面を割り水飛沫を上げてルアーに食いつく様は迫力満点で一度味わうと病み付きになり、トッパーと呼ばれるトップウォーターオンリーで挑む釣り人も多い。主なトップウォーターの種類としては、水面をスピーディに左右に動くペンシルベイト、短距離移動で水しぶきを飛ばすポッパー、プロペラを回転させるスウィッシャー、ほぼ動かずにその場で弱々しく水を叩く虫ルアー、大型の羽で水をかき混ぜて威嚇系バイトを誘うハネモノなど。
■水面下で誘うタイプ
水面下で誘うルアーは、リップにより泳ぐレンジが決まっているクランクベイト、遠くまで飛ばして広範囲から誘うバイブレーション、シングルフックで根がかり回避能力の高いスピナーベイト、小魚をイミテートしたミノーやシャッドなど、形状によってさらに多岐に分類される。いずれのルアーもリールを巻くことで独自の波動やサウンドを発生させてバスを誘うことから、“巻き物”とも呼ばれている。
◆主な人気ワーム
■小魚にも甲殻類にも化ける変幻自在のルアー
ハードルアーに対する軟質プラスチック素材のルアーがワームだ。ワームはその柔らかさから実際のエサのように滑らかに動くのが特長で、バスが実際に口にした時にも違和感なく深いバイトを得ることができる。ワームは単体で使うことはほぼなく、フックやシンカー、ジグヘッドやラバージグなどと組み合わせることにより、様々なシチュエーションで使うことが可能になる。その組み合わせを“リグ”と呼ぶが、ワームのタイプごとに最適なリグが存在する。
■シンプルなストレートワーム
何の凹凸もない棒のような形状をしたストレートワームも、先端にネイルシンカーを埋め、マス針を先端寄りにセットすればネコリグとなり、ジグヘッドを中央部にセットすることでジグヘッドワッキーにもなる。いずれもクニャクニャと折れ曲がる複雑で柔らかい動きが、ハードルアーには出せない絶妙な波動を生みバスを誘う。
■甲殻類をイメージするクローワーム
エビやザリガニなどをイミテートしたクローワームはまさにエサをイメージしたワームで、ピリピリと震える触覚や手足、大きなハサミなどが複雑に絡み合い動くことでバスからエサとして認識される。テキサスシンカーとオフセットフックによるテキサスリグ、あるいはラバージグやスモールラバージグと組み合わせることで、ハードルアーでは攻略しにくい底(ボトム)にいるバスを誘うこともできる。
■小魚をイメージするシャッドテールワーム
テールの先端が扇のようになっているシャッドテールワームは、ジグヘッドやフットボールジグ、あるいはオフセットフックのみをセットしたノーシンカーリグなど、水中を泳がせることで小魚をイミテートする。点で誘うことが多いワームのなかでは異色で、バイブレーションなどの巻き物のように広範囲からバスを誘うことが、より手軽にできるので人気となっている。それと同時に、小型のシャッドテールワームをダウンショットリグで使えば、移動させずにシェイクで誘うワームの典型、点での食わせ的な使い方もできる。
◆人気タックルボックスとその使い方ハウツー
■ルアーを収納する小型のボックス
オカッパリではルアーをタックルボックスに小分けにして収納し、ウエストバッグなどに入れて持ち運びをするのが基本だ。ルアーを入れるボックスは、内側が仕切りによって区分けされているタイプと区分けのないタイプがある。量が入るのは区分けされているタイプだが、雑然と入れるだけなので整理整頓しにくく、必要なルアーを瞬時に取り出すことができないこともある。仕切りによって区分けされているボックスは、量は入らないが、ルアーのサイズやカラーなどで整理することができる。また、区分けを自由に作れるタイプのボックスも存在する。ひとつ注意したいのは、ハードルアーとワームを一緒にして入れないこと。素材が溶けて使えなくなることもあるからだ。ハードルアーボックス、ワームボックスと分けるのが一般的だが、ひとつのボックスにまとめたい場合は、きちんと区切って分けて収納すること。
■小物を収納するボックス
ワームには不可欠のリグを作るためのシンカーやフックなどの小物を収納する専用ボックスも存在する。シンカーでは重さ、フックでは大きさの把握が重要になるので、ごちゃごちゃにならないように小分けできるタイプが便利だ。シンカーはそれ自体に重さが記されているので袋から出してまとめても問題はないが、フックにはサイズが記されていない。そんな時にはフックを市販の袋ごと収納できるケースもあるので活用しよう。
■ポイント3
必要最低限の道具を手に機動力を活かしたラン&ガンでパラダイス探し
■道具2
ラン&ガンとは、一カ所に留まって粘る釣り方ではなく、機動力を活かして次々に場所を移動しながら、釣れる場所を探し回ること。オカッパリ・スタイルの場合、釣りができる場所がボートと違って限られてくるので、高反応を示すバスを自分の足で探す方が効率がいい。そのため、持って行ける道具は必要最低限のものに抑える必要がある。基本的には、軽いルアーを遠くに飛ばせるスピニング・タックルと、重いルアーを正確にキャスト出来るベイト・タックルの2本。それにルアー数個とペンチや針や重りなどの小道具を収納したショルダーバッグやウエストバッグ。最後に安全のためのライフジャケットを用意すれば、パラダイス探しの準備は万端だ。
◆お勧めバッグ
タックルボックスを収納して持ち歩くバッグもそれぞれの釣り人のスタイルを象徴するこだわりのアイテムだが、やはりオカッパリでは機動力を生かすためにも種類を吟味したい。収納力は抜群だが、持ち運びには不向きな大型のタックルボックスや手持ち用のバッグなどは、家や車での保管用にするべきだろう。
■容量の多い肩掛けバッグ
メッセンジャーバッグなどに代表される肩掛けタイプのバッグは、比較的多くのタックルボックスやワームを袋ごと収納でき、上着やレインウエアなども持ち運ぶことができる。ただし、仕切りのないボックス同様、ざっくりした収納になるので、ボックスなどでしっかりと分類しておかないと必要なアイテムを取り出せないこともある。また、収納力に比例して重さが増すので動きにくいこともあるので、入れ過ぎには注意しよう。
■使いやすさに優れたボディバッグ
オカッパリでは最もポピュラーなのが、ウエストバッグに代表される、タイトに身に着けられるタイプだ。収納力こそ高くはないが、細かく分類されたスペースが特長で、特定のメーカーのタックルボックスに対応していたり、ペンチやハサミなどの小物をセットできるD環やカラビナが付属していることもある。各タックルメーカーだけではなく、アウトドアメーカーのコロンビアからもオカッパリ用のウエストバッグがリリースされており、ワンショルダーバッグなど、タウンユースでの流行を取り入れたアイテムもリリースされている。
◆シチュエーション別 お勧めの組み合わせ(ロッド、ルアー、ワーム、その他)
■初めての場所でのタックルセレクト
大規模なフィールドや初めて訪れるフィールドでは、バスの付き場の目印となるボトムの沈み物や、フィーディングスポット(エサの捕食場)が分からないので、短時間で広く探れるルアー(サーチベイト)を選ぶ必要がある。そんな時は少ないキャストでバスを遠くから呼ぶことができるハードルアー系の巻き物をチョイスしよう。遠投性能に優れたバイブレーションには、6フィート8インチ前後のミディアムパワー(一般的には68Mと表記される)のベイトロッドが最適。ボトムの沈み物などを考慮してラインはフロロカーボンの14ポンド以上がお勧めだ。
■通い慣れた場所でのタックルセレクト
小規模なフィールドや、“ココにバスが居る!”、もしくは“ココでこういう種類のベイトを捕食している”というピンスポットが分かるフィールドでは、なるべく口を使わせやすいルアーをチョイスすることが1匹への近道となる。そんな釣りに適しているのは、“フィネス”や“ライトリグ”と呼ばれるワームを使った釣りだ。ライトクラスで6フィート3インチ前後のスピニングロッド(63Lと表記される)で操作できるウエイトのリグ、例えばダウンショットやネコリグをピンスポットに入れてネチネチと動かして誘ってみよう。ラインは障害物の有無にもよるが、フロロカーボンの5ポンド前後が一般的だ。
■ポイント4
世界中のアングラーを魅了するバスフィッシング その原点となるのが「オカッパリ」
■まとめ
世界中に多くのファンを持つバスフィッシング。アメリカではバスフィッシングの大会がスポーツ専門チャンネルのゴールデンタイムで放送されたり、その優勝賞金も一千万円以上という、まさにメジャースポーツのひとつとして親しまれている。そんな大会に出場している有名なバスプロたちも、原点は友達と通った近所の池でのオカッパリ。時速100キロで湖面を疾走するバスボートに乗って釣るボートフィッシングも、近所の野池に自転車で通うオカッパリも、やる事は同じバスフィッシング。使う道具も釣れるバスも同じ。オカッパリ・スタイルはバスフィッシングの魅力を出来るだけシンプル、それでいてぎゅぎゅっと濃縮した釣り方なのだ。時間やコストや労力に縛られることなく、自由気ままにバスフィッシングが楽しめるオカッパリ・スタイル。’80年代に大ブームとなったバスフィッシングが再熱しつつある今、手軽に楽しめるこのオカッパリ・スタイルに注目が集まっている。
◆フィールドまとめ
■バスのいるフィールドとは――?
オカッパリで楽しめるフィールドの要素として絶対的に挙げられるのが、バスがいることはもちろんだが、足場が良く、周囲の迷惑にならずに釣りができる場所があること。車通りの多い道路や橋の上からの釣りは控えよう。また、どんなフィールドも釣り以外の本来の用途があるので、マナーは絶対に厳守。駐車場所やゴミ捨て、早朝の騒音などは言語道断だ。遊漁券が設定されている場合にはなるべく事前に購入するなど、釣りをさせてもらっているという気持ちを忘れないようにしよう。
■オカッパリフィールドを代表する野池
全国各地に存在する野池(ため池)は、規模も種類も様々だが、大きく分けると山の中に作られた小型のリザーバーのような山間池と、平地や街中にある水深の浅い皿池に二分される。山間池はまさに小型のリザーバーで、水深もある程度深くボトムの凹凸もあり、インレットやアウトレットなど、水の動きもあることが多い。対して皿池は全体的に水深が浅く、ボトムの変化に乏しい上に、水の動きもほとんどない。前者は回遊型、後者はストラクチャー依存型と、バスの特長も異なっている。
■季節の動きが重要になる河川
河川も野池同様、全国に存在するオカッパリフィールドだ。しかし野池との大きな違いはその規模で、上流から下流まで数十キロに及ぶこともあり、そのすべてにバスが居る可能性がある。そんな河川でバスを釣るキーワードは、流れの強さ。流れの強い上流、弱い下流と、その中間の中流とエリアを分けて考えよう。水温の高い夏には涼しい流れを求めて上流に集まり、水温が低下する冬には安定する下流へと移動するのが川バスの基本的な動きだ。途中に堰などがあれば、そこが最上流エリアとなる。各エリア内でも重視すべきはやはり流れで、エサとなるベイトが流れの強い場所に集まるタイプ(主に細身の魚)か、弱い場所に集まるタイプ(体高のある魚or甲殻類)かと推測することで居場所を絞り込むことができる。
■その他のフィールド
河川を堰き止めて作られたリザーバー(人造湖)は、切り立った崖が多く、夏の減水時期のバックウォーターなど、オカッパリで楽しむには特定のシーズンと場所に限られることが多い。人造湖に対する天然湖として代表的なのが、関東屈指のオカッパリフィールドの霞ヶ浦水系。マッディシャローと呼ばれるように、全体的に水深が浅く、濁った水質をしているのが特長で、濁りによってバスの視覚が効きにくいので、強く水を動かすルアーが効果的となる。その真逆のクリアな水質を持つ天然湖が、山上湖とも呼ばれるフィールドで、富士五湖の河口湖や山中湖、琵琶湖の北湖などがその代表とされる。攻略にはマッディとは逆で、視覚に訴えるリアルなフォルムのルアーや、繊細な動きのルアーが効果的とされている。
◆移動時の必携品やアイテム(ロッドホルダー、ロッドハンガーその他)
■車は大きなタックルボックス
オカッパリでは車を大型のタックルボックスとして捉え、そこからフィールドに応じたルアーやタックルをチョイスして持ち出して楽しむのが一般的だ。そこで重要になるのが、いかにシステマチックに車内にタックルを保管するか。「あのタックルは・・・家に置いてきた!」では出会えるバスにも出会えなくなる。リールやルアーをセットしたまま車に積める車載用のロッドホルダーは、カー用品ショップで扱っているのでチェックしてみよう。ルアーなどは、市販の引き出し式の衣装ケースを使えば、ボックスを積み重ねるだけよりもスペースを有効に活用でき、車内もスッキリするのでお勧めだ。また、雨の日などの泥汚れは、ゴムやプラスチック製のフロアマットや防水のシートカバーで防ぐことができる。
(C)AbemaTV