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 内部通報がきっかけとみられる日産自動車のカルロス・ゴーン容疑者とグレッグ・ケリー容疑者の逮捕。その背景に、日産とルノーの経営統合構想が関係しているのではという見方が浮上してきている。

 イギリスのフィナンシャル・タイムズ紙は20日、経営統合を進めようとするゴーン容疑者に対し、日産の経営が反対の姿勢を示していたと報じた。このことについて日産の西川廣人社長は19日の会見で「それは聞いてない」と否定。数か月で実行されるという見通しだったと言われていることについては無言を貫いた。また、志賀俊之取締役(産業革新機構会長)は「私がその取締役会等でその議論に参画したということではないが、おそらく執行部の中で議論されているのかなとは想像していた」とコメントしている。

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 日産とルノー、三菱のアライアンス関係について整理すると、まずフランス政府が15%のルノー株を保有。そのルノーが日産株を43.4%、日産が三菱自動車株を34%持っているという"上下関係"になっているが、業績の部分では"ねじれ"が存在する。販売台数と売上高でみた場合、ルノーの販売台数376万台、売上高約7兆7000億円に対し、日産は販売台数約581万台、売上高約12兆円と大きく上回っているのだ。こうした状況から、フランス政府がルノーと日産の一体化を求め、ゴーン氏は条件として2022年までルノーの会長兼CEOの任期延長を得たと言われている。

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 仏ル・モンド紙は「ゴーン氏は日産を救った立役者・神様のような存在。救われたはずの日産がゴーン氏を退陣に追い込む」、またリベラシオン紙は「日産は、アライアンスにおけるルノーの強い立場に対し苛立っている」「ゴーン氏失脚で微妙な立場に置かれるフランス政府」という見出しで報じており、国立科学研究所の経済学者、エリ・コーエン氏は「日産がフランスの立場を弱めようとしているという考えも排除できない」との見方を示している。

 さらにフランスのルメール財務大臣は「世界一の産業グループであるルノー・日産グループを永続させるためにあらゆる手を尽くす」と語った。さらに、ルメール氏はニュース番組に出演、司会者の「フランスではゴーン氏はきちんと税金を払っていたのか?」という質問に「詳細は税務上の機密のため明かせないが、問題は何もないと申し上げておく」とゴーン容疑者を擁護するともとれる発言をしている。

 元フィナンシャル・タイムズ東京特派員記者で、ジャーナリストのジョナサン・ソーブル氏は「フランスでもゴーン容疑者をめぐる意見は分かれている。フランス企業の代表として日本に行き、企業を救った実績ある経営者、というヒーローの部分と同時に、コストカッターとしても有名だ。フランスでは比較的労働組合が強く、人員削減や工場閉鎖は日本よりも難しいと言われている。世界的な経営トップの一人がここまで落ちてきたというギャップを強調し他方が、ストーリーとして面白いのでそういう風に書いている」とした上で、次のように話す。

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 「3社連合を何らかの形で変えていこうということについては日産に発表もしているし、世の中にも知られていたこと。もともとゴーン容疑者本人は、距離を置いたビジネスパートナーではなく、でも一つの会社になるのでもない、その中間のところが心地いいと言ってきた。しかし最近、それが物足りないというか、次のステージに入るのがふさわしいというようなコメントをしだした。今年に入ってからは本格的にアライアンスの再編について日産社内で検討しているとも言っていた。その選択肢の一つが完全な経営統合だ。ただ、収入などがイーブンだった10年前なら両サイドが納得できたかもしれないが、ねじれが生じている今、それがとても難しくなってきている。ゴーン容疑者とは色んなことで対立してきたフランス政府も、統合された場合に収入の大半を生み出している日産側が不利になることを懸念している。フランス政府としては、どうしても日産は近くに置いておきたいし、日産に逃げられたらルノーが困る。そのバランスをなんとか保たなければいけないのがゴーン容疑者の役割だった」。

 長年にわたって自動車業界の取材を行っているモビリティジャーナリストの佃義夫氏は、東京地検特捜部から任意の事情聴取を受けた志賀氏、西川氏について「二人とも日産の"救世主"だったゴーンさんのチルドレンであり、信頼した日産の日本人プロパー。志賀さんは国内営業も見ていたし、経営企画としてルノーとの交渉役になり、それが認められて10年くらいCOO(最高執行責任者)をやった。人柄も温厚だし、メディア対応もしっかりやる方。一方、西川さんは部品の系列破壊をした。当時「宝会」といって、複数の部品企業との強力な関係があった。西川さんはその系列を破壊した実行責任者。そこでゴーンさん信頼したが、ドライな切れ者で、あまり人心を掌握するタイプではない。ゴーンさんの独裁制の中で、弁護士出身のケリーさんと一緒に公私混同のような動きをした。社長が会長の役員報酬について本質的な部分を知らないはずがない。しかし、この何年かで、そういう透明性のない役員体制が一気に進んだ」と説明。

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 さらに「9月の日産の取締役会で、ゴーン会長は"資本構成の見直しを図るべく、みんなで話し合いを進めたい"という言い方をしている。もともとルノーはフランスの公団だったものが民営化された企業なので、今も政府がかなり関与している。産業振興、国内雇用のためにも、日産を吸収統合したいというのが本音だ。そこにゴーン容疑者が動き出したので、日産内部ではプロパーたちが危機感を持ったということはあると思う。日産の方が体力はあるが、資本関係で見ればルノーの連結子会社。ルノーの最近の業績は、売上を上納金のように吸い上げられている日産のおかげ。そういう非常に微妙な枠組みの中にあったことは確かだ。いずれにせよ、そこに三菱を加えた国際アライアンス連合がこれからも続くかというと微妙なところがあった」とコメントした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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