DDTが開催する11月25日の後楽園ホール大会は、9月から10月にかけて行なわれた「ドラマティック総選挙」の結果を受けてのマッチメイクとなる。
（竹下と伊藤はこの体格差。伊藤は記者会見にも試合用コスチュームで出席した。これが「正装」なのだ）
メインイベントはKO-D無差別級王者・佐々木大輔に総選挙個人部門1位の高梨将弘が挑むタイトルマッチ。その他にも、本戦には総選挙上位の選抜メンバーが出場する。
中でもとりわけインパクトが強いのが、竹下幸之介vs伊藤麻希のシングルマッチだ。
竹下はDDT新世代のエース。高校生でデビューを果たすと抜群の身体能力、プロレスセンスで結果を出し続け、昨年から今年にかけてはKO-D無差別級王座の最多防衛＆最長王座保持記録を樹立している。
一方、伊藤はアイドルグループ・LinQのメンバーからプロレス界へ。グループ卒業（本人曰くクビ）が決まると“クビドル”を名乗り、誰が相手でも物怖じしないハイテンションな闘いぶりと圧倒的コメント力で観客を笑わせ、泣かせ、勇気づけてきた。今年1月には主戦場の東京女子プロレス後楽園大会で男色ディーノとも名勝負を残している。総選挙では最終的に3位となったが、中間発表では1位をキープし続け、台風の目となった。
普通に考えれば“実力派vsキャラ先行”。異色中の異色カードなのだが、竹下自身はそう受け止めてはいない。記者会見で、こう語っているのだ。
「リングに上がったらプロレスラー。そこに男も女もおじいちゃんも子供も関係ない。まして伊藤麻希は同い年のライバル候補だと思ってます」
高校生でデビューした竹下だけに、同世代のレスラーは後輩。ライバルとして意識するのは他ジャンルのアスリートだった。しかし同じ95年生まれ、23歳の伊藤に関しては「自分なりのやり方でプロレス界を面白くしようとしている」と興味、あるいは共感を抱いたようだ。
とはいえあくまで「ライバル候補」であり「ライバル」かどうかは闘ってみないと分からないとも。またリング上で対戦相手に中指を立てる伊藤に「もっと大きなステージに行きたいなら、中指を立てる段階は終わってる。それでも立てるなら俺の前で立ててみろ、指をへし折って心もへし折る」と宣戦布告してみせた。
東京女子プロレスの1.4後楽園大会では山下実優が持つTOKYOプリンセス・オブ・プリンセス王座に挑戦することも決まっている伊藤。そのレベルの選手であれば、相手をdisるようなポーズはもう必要ないと竹下は言いたいのだろう。「スター性やカリスマ性はあるけど、惹きつけ方が若干アングラ的。もうその段階は終わってるんじゃないか」という言葉もあった。
伊藤が中指を立てるのは、本人によれば「もっと上に行く」というサインだという。さらに選手として「（自分は）竹下幸之介が持ってないものを全部持ってます」という堂々の宣言も。
ただ、竹下がこの上なくやりがいのある相手だということは素直に認めている。曰く「伊藤も同い年でライバル視してた部分がありました。総選挙3位に不足ない相手だし、佐々木大輔とやるよりよかった。竹下幸之介はこの先10年、DDTのベルトを長く持つ選手だと思うので。ただ胸を借りるつもりはないです。試合の勝敗、それ以外の部分でも勝ちにいきます」。総選挙の結果は伊藤3位、竹下13位。今大会に限って言えば、伊藤が“格上”でもあるのだ。
パワー、スピード、テクニックとあらゆる面で竹下が上なのは間違いない。そんな試合だからこそ伊藤は“伊藤らしさ”を武器にするしかないだろう。圧倒的な実力差をどう覆すかという意味では、1.4後楽園の山下戦にもつながるものがあるはずだ。
この試合で伊藤は何を得るのか。もしくは得るものなく潰されてしまうのか。そして竹下は伊藤に何を感じるのか。DDTならではのマッチメイクは、両選手の今後にも影響を与えることだろう。
文・橋本宗洋
