女子プロレスの再メジャー化を目指すアイスリボンが、12月2日の千葉Blue Field大会で電流爆破デスマッチを行なう。団体として初の試みだ。試合は世羅りさが保持する団体外のベルト「爆女王」のタイトルマッチとなる。
（世羅にとっては2度目の防衛戦。しかし試合の意味合いはこれまでとは大きく違う）
世羅は過去にもデスマッチを行ない、爆破マッチも戴冠時、初防衛戦と2度経験しているが、自主興行や他団体でのこと。しかも今回の挑戦者はアイスリボンのシングル王者にして取締役選手代表の藤本つかさだ。
記者会見での世羅曰く、藤本は「デスマッチをやりたいと言った時に一番反対して、一番賛成してくれた人」。アイスリボンでのデスマッチで対戦することについては「こんなに幸せなことはないし、この闘いの意味を分かってもらえたら」と語った。そして「（デスマッチをやりながら）世羅りさの地位を確立してきた、その今の自分を爆女王としてぶつけたい。藤本つかさをドカンとやってやります」。
アイスリボンのスローガンは「プロレスでハッピー」。通常の興行とは別に出張イベント「おでかけプロレス」や山手線車両内での試合などで世間に広く女子プロレスをアピールしてきた。10代の所属選手もいる。それだけにデスマッチとはイメージ的に食い合わせが悪い。世羅の対戦要求に応えてのことではあるが、団体トップの藤本が挑むのだから賛否両論はあって当然だ。
藤本によれば、アイスリボン入りを希望していた女性が、世羅のデスマッチ挑戦というタイミングでプロレスが怖くなり、離れてしまったことがあるという。しかし、現在の練習生・すずは世羅がデスマッチに挑む姿に惹かれたこともあって入団したと藤本に訴え、それが「藤本つかさはデスマッチをやっちゃいけない」という本人の気持ちを変えさせた。
「アイスリボンは今年で13年目。新しい選手がどんどん入ってきて、それぞれ考えも違う。デスマッチが好きな選手もいれば、おでかけプロレスが好きだっていう選手も。私は、選手がやりたいと思うことを叶えてあげたい」（藤本）
初めての経験だから、やってみないと分からないことばかりだ。勝ったとしても、それからどうするかは未定。爆破マッチは最初で最後という気持ちもあるが、やってみたら爆破マッチの快感に目覚めて防衛ロードを選ぶかもしれない。言えるのは、相当な覚悟を持って爆破マッチのリングに上がるということだ。
アイスリボン（とその選手）がデスマッチをやっていいのか。世羅がデスマッチ志望を口にしてからずっと問われ続けてきた。そんな中で彼女は「やる」ほうを選び、「デスマッチは私の人生とともにあると言えるくらいになった」。そうしてアイスリボンの象徴とも言える藤本戦にこぎつけたのだ。その“闘い”を、藤本も間近で見てきた。
「世羅のこのベルトに対する思い、覚悟を身に沁みて感じます。私も覚悟を持って挑戦しなきゃいけない」と言ったのは藤本。世羅は「なぜアイスリボンのリングでやることを2人が決意したのか。私の覚悟、藤本つかさの覚悟を食わず嫌いなしで見てほしい」と訴えた。
決して不安がないわけではない。けれど2人は、今のアイスリボンに“爆破マッチでも揺るがないだけの懐の深さがある”と信じているのではないか。
「この試合で得るものも失うものもあると思います。その先にどんな景色が見られるのか楽しみです。いなくなってしまうファンもいるかもしれないし、初めて来てくれる人もいるかもしれない。全部ひっくるめて最後、爆破でハッピーと叫びたいです」
（11月22日の会見、コメント中に藤本が涙を見せる場面も）
強い思いが涙になって溢れ出る場面もあった藤本。世羅も対戦相手でありながら、根底にある思いは同じだ。
「爆破でハッピー、いいじゃないですか。私もハッピーに終わらせたいです。ハッピーの精神は（キャリア）7年分ありますから」
現在のプロレス界において、優れたデスマッチは決して後味の悪いものではない。“凄惨”“衝撃”とは違う感情を観客に刻み込むことができれば、アイスリボンが爆破マッチの一般的イメージを変えることだって可能だろう。この試合は世羅りさvs藤本つかさというだけでなく、“爆破マッチvsアイスリボン”として見ることもできる。
文・橋本宗洋
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