モータースポーツにおける世界最速最強のレーサーが日本にいる。今年から日産自動車の社外取締役も務める現役レーサー・井原慶子だ。世界で唯一、女性として国際A級ライセンスを取得し、日本でも有名なル・マン24時間レースを含む全8戦のWEC(世界耐久選手権)でも、世界で初めて女性として表彰台にも立ち、総合優勝も果たした。「頭も身体もフル回転で使うのがモータースポーツの魅力」と語る井原は、知人のつながりでモータースポーツ同様に、男性と対等な条件で戦う将棋の女流棋士とも接点がある。「せっかく男女一緒に戦える競技ですし、将棋を指す女性はかっこいいと思うので、活躍してほしいと思いますね」と、エールを送った。ほとんどが男性というモータースポーツ界に女性1人で飛び込み、どんな思いで活躍するまでに至ったのか。

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 高校時代にスキーのモーグル選手として活躍し、大学時代にはモデル業を開始。そんな井原がモータースポーツに出会ったのは、レースクイーンとしてサーキットに入った時だった。

 井原 生まれて初めてモータースポーツを見て、すごいスピードと爆音だったんですよ。そこで働いている人たちみんなが、命をかけていて。「私もレーサーになりたい!」って思って、目指したんですよ。

 当時、普通自動車免許も持っていなかった女子大生が、いきなりレーサーを志すというから驚きだ。

 井原 私の方が速く走れると思ったんですよ(笑)車のことに無知だったからこそ、そう思えたんでしょう。レースの世界は男性社会ですし、体力的なハンディももちろん大ききですが、それだけじゃなくて社会風潮的になかなか女性が認められなかったのが、一番難しかったですね。

 レーサーデビューしたのは1999年。当時、女性のプロレーサーは海外に数人いた程度で、日本には1人もいなかった。男女別ではなく、男女一緒に戦うレースの世界。チームとしても、あえて女性を起用するには相当のメリットがなくてはいけない。「女性レーサー」という前例がない中で必死にもがき、結果を出すことで信頼を勝ち取った。

 井原 WEC世界耐久選手権は、F1、WRC世界ラリー選手権と並んで、世界のトップカテゴリです。それぞれ競技形態は違うんですが、WECで女性としては世界で初めて表彰台に上れました。日本では結果を出しても揶揄されることが多かったんですが、世界では結果を出せば素直に認めてくださる方が多かったですね。海外のチームに入ると、価値観が全く異なる人と一緒に仕事をしなくてはいけないんですが、そういった人たちと分かり合えて、コミュニケーションを取って結果を出せた時の楽しさ、うれしさが一番の原動力です。

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 モーター“スポーツ”というだけに、走行中の重力(G)に耐えながら正確なドライビングテクニックが求められるが、それ以上に使うのが頭だ。走行中、ピットクルーたちと常に無線で交信し、車の状況を逐一報告、その後の開発への手がかりを探す。時速300キロを超すこともある中で、解析をしながらエンジニアに分かりやすく正確に伝える。「無心」とは正反対の位置にいる。

 井原 車を運転している時は、Gがかかってマラソンランナーの心拍数よりも多いんですよ。それに車の開発のことも考えながら走る。2時間走ったら4キロぐらい痩せますね。人間の能力を全て使うのがモータースポーツの一番のおもしろさです。頭も身体もフル回転ですから。

 知人を介して、同じく男性と戦う将棋の女流棋士と会ったことがある井原からすれば、座った状態で頭をフル回転させるところに、モータースポーツと将棋との共通点を感じている。

 井原 頭のフル回転というのは、一番消耗するんですよ。将棋もレースも座っていて、頭だけだろうというように見えますが、人間としての能力を非常に使わないといけない。男性と対等に戦えるというのも、人間としての能力で勝負できるということなので、すごくおもしろいですよね。

 将棋の世界では女流No.1の里見香奈女流四冠が今期から「女流枠」で男性棋戦に復帰し、6勝6敗(11月29日現在)と健闘している。だが「女流」ではなく、男女の区別がない「プロ棋士」と呼ばれるために必要な奨励会三段から四段への昇段は叶わなかった。この点については、やはりプロとして活躍することが、女性の活躍には必要だと考えている。

 井原 やはりプロがいないと、そういう職業があると思わないだろうし、男性しかいないと、女性もそこまで目指さない。せっかく男女が一緒に戦える競技ですから、女性の方が活躍してほしいと思いますね。女性のプロ棋士が出てくれば(年齢の)早い時期から「ああいう風になりたい」と、小中学生から本気でプロを目指す女性が出てくると思います。

 今年5月、自らプロデュースする女性のみのレース「L1シリーズ」が日本でスタートした。また、3年前からはFIA(国際自動車連盟)とJAF(日本自動車連盟)が提唱する「Women in Motorsport」で、後進の育成にも力を注いでいる。4期生まで誕生しているがレーサー、エンジニアを志望した人は18歳から68歳まで、実に1000人以上にもなる。

 井原 50歳の方はレースデビューしましたし、40歳から始めた方が、今では日本のトップカテゴリでレースをしています。1期生が世界デビューするのも間近ですよ。正直、女性を育ているというのは、死ぬほど大変です(苦笑)日本はジェンダーギャップ指数(男女格差を示す数値)が先進国では最も低いですから。能力的には、日本人の女性はすごく高いんですが、どうしても社会システム的に男性が働いて、女性が家でという風潮があったがために、女性を本気で育てる人もいなかったと思います。

 結婚、出産というライフイベントもあり、女性に機会を与え続ける人がなかなかいない状況では、女性にも責任感が生まれず、成長もしない。となれば、やはり男性を育てる方向に進んでいく。井原が取り組んでいるのは、この風潮を変えて、女性をより活躍させることだ。その願いはモータースポーツであっても、将棋であっても同じだ。

 井原 「人生100年時代」ですし、女性が輝ける時代にもなってきています。将棋を指す女性の方はかっこいいですから、もっと活躍してほしいと思いますね。

 12月2日からスタートする超早指し棋戦「女流AbemaTVトーナメント」では、トップの女流棋士8人が、持ち時間7分、一手指すごとに7秒加算という、限られた時間の中で極限の集中力を発揮する戦いが繰り広げられる。井原が期待する女性の活躍が、ここでも見られるはずだ。

◆女流AbemaTVトーナメント 持ち時間各7分、1手指すごとに7秒が加算される、チェスでも用いられる「フィッシャールール」を採用した女流棋士による超早指し棋戦。推薦枠の女流棋士、予選を勝ち抜いた女流棋士、計8人がトーナメント形式で戦い、1回の対戦は三番勝負。優勝者は、第1回大会で藤井聡太七段が優勝した持ち時間各5分、1手指すごとに5秒加算の「AbemaTVトーナメント」に、女流枠として出場権を得る。

(C)AbemaTV


▶11/30(金)9:50~ 第67期 王座戦一次予選 増田裕司六段 対 里見香奈女流四冠

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▶12/2(日)20:00~ 女流AbemaTVトーナメント決勝1回戦 里見香奈女流四冠 対 香川愛生女流三段

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▶12/4(火)8:30~ 第31期 竜王戦 七番勝負 第五局 1日目 羽生善治竜王 対 広瀬章人八段

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▶12/5(水)8:30~ 第31期 竜王戦 七番勝負 第五局 2日目 羽生善治竜王 対 広瀬章人八段

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