
28日、巨大IT企業の規制のあり方を検討する政府の有識者会議が開催され、"GAFA"と呼ばれる4大企業のうち、グーグルとアップルの幹部が出席、一方フェイスブックとアマゾンは欠席したと報じられている。巨大IT企業に対して個人データ保護など、様々な問題が内外で指摘されている。ジャーナリストの堀潤氏は、この行方をどう見ているのか、話を聞いた。
*
堀:まもなく2019年がスタートしますが、来年はこれまでにSFが突きつけた近未来の様々な課題が現実化する1年になるのではないかと思います。2019年は『ブレードランナー』の舞台であり、『AKIRA』も、2020年東京オリンピック開催を控えた2019年の東京が舞台ですね。"近未来なんて来てないじゃん"と思うかもしれませんが、知らない間にもうその中にいるんです。
春には消費税が上がります。その負担軽減策として、キャッシュレス決済の優遇措置の話が出てきていますね。僕もスマホの決済ばかりなので、財布の中には現金が入っていません。領収書もデータ化できますし、手作業の経費精算もなくなっていくのでしょうね。一度使い始めると、この便利さからは抜け出せませんし、一気に普及するでしょう。
しかし裏を返せば、キャッシュレス社会というのは、誰が、いつ、何を、どこで買っているのか、そうした日々の生活に関わるファクトが今以上にデータとして蓄積されていく社会ということでもあります。それを元に、さらに適切な相手、場所、タイミングで広告を見せる事ができるようになりますし、もっと言えば人間関係や普段のお金の動きからその人の評価=信用情報が組み立てられる時代がやってくるということです。面白いなあと思いますが、怖いとも思います。
ネットやキャッシュレス決済を使わなければ、そういう情報が伝わることも漏洩することもないわけですから、皮肉なことに桜田大臣はセキュリティ的には最強かもしれません。ただ、そんな"オフライン"の領域も無くなっていくと思います。
今年は『2001年宇宙の旅』の公開からちょうど50年ということで、再上映もされました。宇宙船に搭載されていた「HAL 9000」というコンピューターは、まさに人工知能を搭載していて、自らの危機を感じ、人間である宇宙飛行士を排除しようとするわけですけれど、そういう現代的な問題が非常に的確に捉えられていることに改めて驚かされます。そこですごく示唆的なシーンが、「HAL 9000」が宇宙飛行士の口の動きを見て、彼らの考えを察知する場面が描かれます。そして、宇宙飛行士たちはそのことに気づいていない。
スマホだって、持ち主がどこに行って、何を検索したかを知っている。それは人に言っていない、知られていない欲望を知っているということでもあります。もはや自分以上に自分のことを知っているわけですよね。「Amazon GO」のような無人店舗での行動もそうかもしれません。IoTが進めば、椅子に座っているだけで健康情報が勝手に伝達されるような世界がやってくるでしょう僕は日々の食生活の管理をしてくれるアプリを使っていますが、そうしたデータを元に成長していくAIが、ありとあらゆる場所に入ってくることになります。
先に述べた『ブレードランナー』では、自分のことを人間だと思っていたアンドロイドが色々な権利を求める様子が描かれますが、そろそろ「OK Google」と音声アシスタントに呼びかけて「は?」と口ごたえされる時のことを想像してトレーニングを始めたほうがいいかもしれません。
もう一つ、少し前にGoogle Glassで"ウェラアブル"が話題になりましたが、「身体拡張」もポイントです。11月13日、乙武洋匡さんが義足を付けて"仁王立ち"する写真を公開しました。僕はあの姿を見て、来るべき時代を象徴ものだと思いました。
つまり、あらゆる部分をサポートするテクノロジーが登場することで "障害"という考え方もなくなるかもしれないということです。例えば目が見えないということも、"文系人間で数学が苦手"ということも、全く同じ土俵に立って考えられるようになる可能性があります。
障害だけではありません。『AbemaPrime』でも紹介されていましたが、より重い物を持てるようにするため、機械の腕と交換する人、より速く走れるように、機械の足と交換する人。一般の人でも身体とテクノロジーを接続させて機能拡張をするということが現実になっていくと思います。
どちらかと言えば僕はそれをすごく楽しみにしている方で、早く頭にコネクタを指してみたいと思っています(笑)。例えばニュースを伝えるときにデータベースから情報を引き出すことができるようになれば、物事を覚えることが不要になるな、などと想像します。速報を受けて、即座に"あの時のあの記事にはこう書いてありましたよね"とか。テクノロジーのそういうサポートが受けられるようになれば、インタビュー取材だって、もっと深いものになると思いますよ。
そんな風に近未来の入り口に立っている一方で、テクノロジーの進化に対しての法整備はもちろん、僕たちの倫理観の準備もできていません。また、データとAI、技術を握っているのが一部の企業のものだとなれば、話は変わってきます。機会の均等は与えられなくなる可能性があるのです。
お金を持っている人はAIや身体拡張を用いてより様々なことができるようになり、そうでない人は使われるばかりになるという、SF的な分断が現れると思います。『機動戦士ガンダム』みたいな。そうなれば、おそらくほとんどの人は支配される側、奪われる側になると思うんです。
だからこそ一つの企業に偏在するようなデータの問題が議論されているわけですし、日本でも来年以降、データの扱いを巡る問題に本格的に取り組んでいかざるを得なくなるでしょう。ただし、そのメインプレイヤーはGoogleであり、Appleであり、Facebookであり、Amazonである。いわゆる"GAFA"ですね。そのバックはアメリカ政府もいます。あるいはテンセントなのかアリババなのか。こちらのバックには中国政府がいます。日本人としてはアメリカのインフラなのか中国のインフラなのかという選択を迫られているということでもあります。
(ほり・じゅん)1977年生まれ。ジャーナリスト・キャスター。NPO法人「8bitNews」代表。立教大学卒業後の2001年、アナウンサーとしてNHK入局。岡山放送局、東京アナウンス室を経て2013 年4月、フリーに。現在、AbemaTV『AbemaPrime』などにレギュラー出演中。







