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 先月17日から始まったフランスのデモ。その勢いは死者も出しながら週を重ねるごとに増し、3度の大規模デモに延べ47万5000人が参加したとみられている。最大の特徴は特定の党派や集団によるものではなく、様々な立場の参加者が生活への不満と反マクロンで一致していることにある。また、参加者が着ている、工事現場などで用いられる黄色の安全ベストは"イエローベスト"としてシンボルになっている。

 「税金を払っているのにまともなサービスを受けられなくてうんざりしている」

 「政治家や富裕層だけが裕福になり、我々のことは見捨てる」

 「G20も大事だけど、まずは自分の国で何が起こっているのかを知る必要があると思う」

 そんな怒りの矛先が向けられているのが、地球温暖化対策のため、エコカー普及を推進するマクロン大統領による燃料税引き上げだった。来年1月から1リットルあたりガソリンが4円、軽油では8円の値上げとなる。政権支持率は就任時の去年5月には64%だったが、先月には25%まで落ち込んでいる。マクロン大統領はアルゼンチンで開かれていたG20で「パリで起こったことは法にのっとった怒りの表現とはまったく別のものだ。いかなる理由があっても治安当局が攻撃されてはならない。これらの暴力を働いた者たちは変革を望んでいない。いかなる改善も望まず、カオスを生み出そうとしている」とデモ隊を強く非難。

 しかし今月3日には社会保障改革に反対するデモも巻き起こった。これまでは個人が救急車の会社を選べたが、改正後は病院側が選ぶことになり、価格競争による生き残りを危惧する救急隊員たちが救急車に乗ってフランスの国会前に駆けつけた。こうした抗議デモの盛り上がりを受け、フランス政府は日本時間4日夜には引き上げを半年間、延期すると発表した。ただ、デモは今週土曜日にも呼びかけられており、2015年のパリ同時多発テロ以来となる非常事態宣言の発令も取り沙汰されている。

 今、フランスで何が起きているのか。4日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、パリ大学客員研究員の経験もあり、一昨年にはフランスの最高勲章であるレジオンドヌール勲章コマンドゥールを受章している舛添要一・前東京都知事に話を聞いた。

■舛添氏「フランス国民全体が頑張って変わらなければいけない」

 舛添氏はフランス人の国民性について、冗談交じりに次のように説明する。「私が留学していた頃は、コカ・コーラなんて飲まないし "英語なんて喋ってんのか、お前"という感じだったが、今はシャンゼリゼ通りの店舗でも、店員は英語ができないと食っていけない。また、ラテン系なので、生活を楽しむ。"あいつらはビールとソーセージで10分で済ませる"と隣のドイツをバカにして、ワインを飲み、フランス料理を食べながら2時間でも3時間でも議論する。そこにパスカルとかデカルトとか、論理構造を持ってくるから議論は強いし、面倒くさい(笑)。でも、そうやって飯を食うのに時間を使うから、気がついたらパリを占領され、戦争に負けていた。バラバラで、自分の生活さえ良ければいいというところがあるので、フランス人と仕事をする時には辛抱強くないと大変だ。国土が広い農業大国なので、食うのに困らないということもある。しかし国際的に見た時、やはりフランスの国際競争は落ちている。ドイツだったらもっと簡単にやれるのに、タクシーを呼ぶにしても言い訳ばっかりして、すぐに応えてくれない。なぜこんなにダメなのかと思う。そういうところを改革しようというのはいいことだと思うし、フランス国民全体が頑張って変わらなければいけないと思う」。

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 一方、フランスは厳しい学歴社会、格差社会でもある。

 「バカロレアという資格を取得すれば大学には誰でも入れるが、グランゼコールと呼ばれる高等教育機関に入るため、幼稚園から予備校がある。その中でもマクロン大統領は超エリートで、日本で言えば名門校から東大法学部、財務省、一流銀行、そして大臣という経歴。もちろんこういう人は1割もいないが、とにかくお金持ちで豊かな生活をしている。反対に、9割以上は日々の生活が楽しければよく、ひと月のバカンスのために残りの11か月働き、一生懸命お金を貯めている。だから一日でも早く年金生活に入りたいし、負担が増えるのは嫌。ただ、若者の4、5人に1人が失業者という状況があり。それがものすごい不満になっている。だから自分の生活に入り込んでこなければ誰が大統領でも構わないが、一旦ガソリン値上げとか、年金引き下げという話になるとデモをする。日本では給与から天引きだからあまり気づかないが、フランスは自分で計算するから負担額がよく分かる。それなのに給料は上がらないし、ガソリンまで上がってどうなるの、という不満がある。それが積もり積もってここまできた。1円上がるだけでギャアギャア言うのに、4円も5円も上がるとなったので、一気に火がついた」。

■日本人留学生「エリート層と国民の対立が強まっている」

 そんなグランゼコールの一つ、パリ政治学院の学生にも話を聞いた。

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 日本への留学経験もあるクララ・ブランさん(24)は「デモは月に1、2回はあるので特別なことがではないが、暴力はやめてほしい。フランスはとても自由な国で、何か賛成できないことがあった時に声を出せるのはいいことだと思うが、暴力ではメッセージがちゃんと伝わらないと思う。パリにくる観光客やシャンゼリゼ通りのお店の人がかわいそうだ」と困惑気味だ。

 また、東京大学法学部から留学中の寺尾昌人さん(20)は現地の様子について「暴動から一夜明けた月曜日からパリ市内は日常に戻っているという感じがしている。ただ、デモの行われていたシャンゼリゼ付近に行くと、いまだにデモに参加した、窓に抗議の文字が殴り書きされた救急車がいて、サイレンを鳴らしていたり、映像では伝わりにくいところでは焦臭く、ちょっと異様な感じも残っていた。それでもフランスでデモは日常茶飯事なので、今回も怖いという感覚はまったくない。自分たちの思いを形にして政府に訴えられるという意味でデモはいいと思う。ただ、今回のように暴徒化してしまうと、それはまた違った話になる。国民の7、8割はデモに賛成しているが、暴徒化に多くが反対しているので、フランス全体としては"ちょっとやり過ぎだ"という感覚だと思う」と話す。

 その上で「マクロン大統領に対しては、政策への反感だけでなく、傲慢だとか、国民の生活を知らないといった意見が大半を占めていて、感情の部分で対立してしまっていると感じる。パリ政治学院では4月にマクロン大統領の教育改革に反対する学生によって封鎖されるということもあったし、今回も反対派に共感を示している部分はあるが、エリート層は多くのフランス国民とは違う考えを持っている。日本人学生としては、アメリカ大統領選挙でのヒラリーとトランプのような対立がより強くなっていると感じる」との見方を示した。

■「フランスは今こそ改革を」

 フランス経済は国主導の部分が大きく、国営やエールフランス航空のように政府が株を保有している企業も多い。そこでマクロン政権は、「大きな政府」から「小さな政府」への改革を目指し、企業活動の規制緩和と行財政改革を進めてきた。法人税減税や解雇する際に企業が支払う罰金に上限を設けるなど労働者を解雇しやすくして、労働市場の流動性を高めようとているほか、社会保障費の国民負担の増額も進めている。

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 舛添氏は「大きな会社のほとんどは筆頭株主がフランス政府だ。多くの一は"欧米"ということでヨーロッパとアメリカを一緒に考えているが、特にフランスはアメリカよりも中国に近いイメージだ。だから私は"フランスは社会主義国だ"と言ってきた。ただ、マクロンが矛盾しているのは、ルノーの株主では居続けていたいというところ。国営企業だったルノーの経営が優秀なので、国営で何が悪いの?という感じもある。また、大きな政府で、人の首を切れない。首を切りやすくなる改革をすると、ぬるま湯に浸かっていた人は嫌がる。過剰に人を雇っていれば企業の国際競争力が落ちるが、ものすごく労働組合が強いので人件費がかかるし、公務員も多すぎる。例えば日本では小泉内閣の時に構造改革と叫び、郵政民営化をしたが、マクロン大統領はあれをやろうとしている。そのためには痛みを伴うが、それでも今こそ改革しないといけないし、自分でも同じことをするだろう」と話した。

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 さらに今回のデモの背景には、人が集まる場所で破壊行為を行う若者集団「カッスール(壊し屋)」と存在が指摘されている。SNSを媒介して若者を扇動しているといい、今年のハロウィンでも「黒い服を着ろ。全ての犯罪は許される。目についたものを燃やせ。例えば車、ゴミ…」というメッセージがSNS上で拡散された。「英語で言えばデストロイヤーという意味だ。ポピュリストが言う反移民で運動するのは右寄り、労働組合の運動は左寄り。今回は右とか左とか関係なく、とにかく貧しい人たちが怒っている。普段はトップと話せばいいが、SNSなので誰が責任者か分からず、政府も話す相手がおらず困っている。だけど凱旋門に落書きはいかんよ、ナポレオンが怒るよ(笑)」と指摘していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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