12月2日、千葉ブルーフィールドにて、女子プロレス団体アイスリボン初の電流爆破デスマッチが行なわれた。

(フィニッシュとなった計3度目の爆破バット攻撃。「花火の火薬の中にいるようでした」(藤本))
これは「超花火プロレス」の爆女王タイトルを持つ世羅りさが、対戦相手として藤本つかさを指名したことで実現したもの。藤本はアイスリボンのエースにして取締役選手代表、ICE×∞王者である。
世羅は3年半前にデスマッチ参戦を志願。しかしアイスリボンは「プロレスでハッピー!」をスローガンに、老若男女に受け入れられるプロレスで人気を博してきた団体だ。デスマッチの残酷さやドロドロとした遺恨はふさわしくないのではないかと感じるファンも少なくなかった。

(世羅は開始早々、有刺鉄線竹刀で攻め込んでいく。そこに遠慮はまったくなかった)
それでも世羅は自主興行などでデスマッチに挑み、爆女王にもなった。そのことにプライドがあるからこそ、ホームリングであるアイスリボンで、かつてデスマッチに「誰よりも反対して、誰よりも賛成してくれた」藤本と爆破マッチで対戦したかったのである。
藤本には「自分がデスマッチをやるべきではない」という思いもあった。エースでありチャンピオンであり会社の取締役。団体の“顔”だから慎重にならざるをえない。そんな藤本を翻意させたのは、デスマッチに挑む世羅を見てアイスリボンに入団してきたという練習生・すずの存在だった。
デスマッチをやることでアイスリボンから離れていくファンもいるかもしれない。ただ、目を向けてくれるようになる人だっているかもしれない。何より、選手がやりたいことを禁じるような団体ではありたくない。藤本には藤本の決意と覚悟があった。

(藤本もインフィニティ、卍固めなど大技を惜しみなく繰り出す。過去に何度も対戦しているだけに、爆破マッチとはいえ探り合いの必要はなかったか)
この日の興行はオールスタンディング形式。そのこともあってか、やはりいつもとは雰囲気が違った。そんな中で世羅も藤本も、リングに上がった時点で腹を括っていた。序盤から、攻防にまったく容赦がないのだ。
世羅が有刺鉄線を巻きつけた竹刀で思い切り殴る。「これが私のやってきたことです」。そんな思いだったという。藤本も大技ラッシュ。爆破バットもためらいなく振り回した。この試合一発目の爆破で、世羅は腕に裂傷を負い、髪の毛が燃えることに。「爆破攻撃をするか、しないか」で迷うそぶりがゼロだったあたりも、レスラーとしての藤本の凄味だろう。
とはいえ、デスマッチでの思い切りのよさなら世羅に一日の長がある。お返しの爆破バット攻撃を見舞うと、通常ルールでのフィニッシャーであるダイビング・ダブルニードロップを投下。それでも試合は決まらず、最後は爆破バットを倒れた藤本の背中にフルスイングで振り下ろした。
場内に火薬の匂いが漂う中での3カウント。壮絶な決着だったが、試合後の2人は笑顔で肩を組んだ。エンディングでは選手たちが客席を回ってファンと握手する、いつも通りの光景。そして立会人の工藤めぐみさんも交えて「プロレスでハッピー!」ならぬ「爆破でハッピー! アイスリボン!」で大会を締めた。最後のセリフはアレンジされていたが、たとえ爆破マッチの後でも普段と変わらないエンディングにもっていったのがアイスリボンの力だろう。いい意味で“いつもの、笑顔のアイスリボン”で終わらせたのだ。
藤本つかさをトップとするアイスリボンが、爆破マッチという強烈な刺激を“受け切った”ともいうべき試合であり、大会だった。この団体にはそれだけの度量があったし、そもそも現代デスマッチは残虐性ばかりが売りではない。
「これからアイスリボンはどんどん変わっていくと思います。これをきっかけに新しいものが生まれていくはず」と試合後の世羅は語っている。また「藤本つかさがいなければここまでできなかった。なんでこんなワガママな自分を受け入れてくれるのか。いい人すぎて恐ろしいですよ。懐が深い」とも。一方の藤本は「今日が人生の節目になりました。私は私の、世羅は世羅の、選手それぞれ自分の角度でアイスリボンを広めていく。それが新しい形なのかなって」。
自身のデスマッチはこれで最後、しかし他の選手がやりたいというのであれば、それを否定するつもりはないようだ。「選手のやりたいことを叶えるのがアイスリボン」だと藤本は考えている。世羅は「ワガママを言っても叶えてくれる団体がアイスリボン。だからみんな発言してほしい」と言う。
「ダメージはあるけどケガはないよ」とリング上から観客に伝えた藤本。バックステージに戻ると取材陣にコメントができるほどに回復したのだから、考えてみれば凄い話である。以前から発揮されてきた体力と打たれ強さは、爆破マッチで敗れてなお光った。

(タイトルマッチの立会人を務めた工藤めぐみEP(エクスプロージョン・プリンセス)も入って「爆破でハッピー!」。アイスリボンならではのエンディングとなった)
そういう藤本でなければ、世羅も対戦要求していなかったということか。あらゆる意味でアイスリボンらしい闘いだったし、アイスリボン初の電流爆破デスマッチは世羅vs藤本でなければいけなかったのだ。
文・橋本宗洋
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