ファンであれば、将棋が盛んであると知られているのが愛知県。あの天才棋士・藤井聡太七段や、現在唯一の複数冠を持つ豊島将之二冠は、いずれも同県出身で、普及の目安となる日本将棋連盟の支部数も、東京に次いで2番目に多く、指導員数は全国No.1だ。室田伊緒女流二段も、そんな環境で育った1人だ。「将棋を子どもたちに広めるには、ここが一番いいかなと思います」と語り、現在は出身地である春日井市の広報大使も務めている。自分が将棋で活躍することが“将棋どころ”であることを、強く感じているようだ。
室田女流二段が将棋を始めたのは小学5年生。プロになる者としては「ちょっと遅めですかね」。初心者大会に出てみたところ、結果は2勝2敗。「すごくおもしろくて。私も出来るんじゃないかと、勘違いで始めました」とやや自虐的に笑いながら、将棋少女になった思い出を語った。後に師匠となる杉本昌隆七段と出会ったのも、春日井市だった。杉本七段は「春日井市の将棋対局で、よく審判をしていたんですよ。その時に指導対局を受けにきた女の子が室田さんでした。非常に物静かで、色白でかわいらしい女の子という印象でしたね」と目を細めた。
室田女流二段は、当初からきらめく才能を発揮した、というわけではない。杉本七段からすれば「あまり強くなかった気はするんですけど」という印象だった。ただ、指導対局で10人ほどを相手にしていると、残るのは室田女流二段。「(六枚落ちで)最後は根負けして、こちらが負けることが多かったですね。根性がある子でした」と、戦う者として不可欠な諦めない心の持ち主だった。物静かに落ち着き払った様子は、対局以外でも発揮された。師匠と2人でNHKの将棋講座に登場した際、2人で緊張しながら出演した。ある時、ミスが起きてしまったが、室田女流二段はまるで変わらず進行。師匠から「すごい堂々しているなと。表に全く出さなかったです」と、その胆力に驚いた。
今回参加する女流AbemaTVトーナメントは、限られた時間の中で、いかに冷静でいられるかが勝負の分かれ目になってくる。パニックになって詰みを逃す男性棋士も出るような環境下では、どんな場面でも慌てない室田女流二段の精神力は非常に大きな武器になる。残り3分でも、残り3秒でも、きっと同じ顔をしながら涼やかに駒を進めることだろう。
◆女流AbemaTVトーナメント 持ち時間各7分、1手指すごとに7秒が加算される、チェスでも用いられる「フィッシャールール」を採用した女流棋士による超早指し棋戦。推薦枠の女流棋士、予選を勝ち抜いた女流棋士、計8人がトーナメント形式で戦い、1回の対戦は三番勝負。優勝者は、第1回大会で藤井聡太七段が優勝した持ち時間各5分、1手指すごとに5秒加算の「AbemaTVトーナメント」に、女流枠として出場権を得る。
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