彼らは“絶対的守護神”としてピッチ最後方に君臨し、幾度となくチームのピンチを救ってきた。その絶大な信頼度から、基本的にはケガをしない限りはシーズンを通して全試合に出続ける。
しかし最近ではカップ戦との“分業制”や、ジャンルイジ・ブッフォンが加入した今シーズンのパリSGのようにGKを併用する例外も現れ、クラブによっては第2GKという概念がなくなりつつある。実はFリーグにはそんな“最先端”を3年ほど前から取り入れているクラブがある。名古屋オーシャンズだ。
2016/2017シーズンにエスポラーダ北海道から日本代表GK関口優志が名古屋に移籍すると、クラブの生え抜きで同じく代表クラスの篠田龍馬と2人のGKが切磋琢磨し、“2人の守護神”として1つのゴールを守っている。“ニコイチのゴレイロ”とも呼ばれる彼らは、互いに何を考えピッチに立ち、1つのクラブで、同じ時を過ごしているのか。
代表クラスのGKの“競い合うだけではない”関係
Fリーグに君臨する絶対王者・名古屋オーシャンズは現在リーグ戦26試合を終えていまだ無敗。得点数はリーグトップの134得点。さらに失点数はリーグ最少の43で、1試合の平均失点数は1.7。F1リーグに所属する名古屋を除いた全11クラブの平均失点数は3.0と、数字を見比べれば名古屋の失点数がいかに少ないかがわかる。
「(名古屋はFリーグで唯一のプロクラブなので)優勝しなければいけないチームですから常に全力で戦い、全力で攻撃するので、ボールを保持する時間も長くなります。そうすると失点も少なくなりますよね。僕らは何もしていないわけではないですが、要所を抑えて、大きなピンチをしっかり止めることで最少失点につながっているのかなと思います」(関口)
「守備をサボりがち」といわれるブラジル人選手たちは闘将ペドロ・コスタ監督が植え付けた「フォア・ザ・チーム」の精神で守備への切り替えも素早く貢献度が高い。そのため関口が言うように攻めている時間が長いこともリーグで一番失点数が少ない理由の1つだ。
そしてもう1つの大きな要因は、篠田と関口の“2人の正GK”の存在だ。もしシュートを放たれ、大きなピンチを迎えてもそこには国内トップクラスのGKが立ちはだかるため、名古屋のゴールネットを揺らすことは容易ではないのだ。
リーグの年間ベストファイブ候補や日本代表に選ばれるそんな2人のハイレベルな競争が互いを高め合いながら、今なおその実力を伸ばし続けている。
しかし当たり前の話だが、GKのポジションは一枠しかない。控えに回ったどちらかは試合中、悔しい気持ちであふれているのではないだろうか。
「『試合に出たい!』という気持はシノくんも同じだと思いますけど、ベンチではその気持ちを噛み殺して、『チームが勝つために』を意識しています。自分が感じたことをアドバイスしたり、チームの戦術を伝えたりして、協力できるように。『出ていないから何もしない』ではなくて、そういう部分でチームに少しでも貢献することを心掛けています」(関口)
「ベンチでそういうことができない選手は、試合に出てもいいプレーができないと思っています。その姿勢はピッチで絶対に出てしまうだろうと」(篠田)
試合中の2人に注目するとわかるが、控えになってしまったどちらかはピッチに立っているかのように声を張り、プレーが途切れた際には2人で話し合っているシーンがよく見受けられる。篠田と関口、それぞれがハイレベルなGKであり、試合中はもう1人のハイレベルなGKがサポートする。
お互いが「こうしてほしい」と思うことをお互いにすることで単なる「ライバル」という枠を超えた関係を築き上げた。そんな姿勢から、気付けば“2人の守護神”や“ニコイチのゴレイロ”と呼ばれるようになったのだ。
「競い合う環境を与えられて、お互いに成長してきました。(優志は)ライバルではありますが、そんなにお互いを意識しているわけではないんですけどね。もちろん競い合いますけど、意識しすぎずに、自分が良くなるように刺激をもらいながらやっています。試合に出るか出ないか、代表に選ばれるかどうかも僕らではなくて外の人が決めること。自分たちが試合でできること、変えていけることに取り組んでいます」(篠田)
自分が試合に出るための蹴落とす対象ではなく、お互いが負けないように刺激をもらいながら目の前のことを淡々とこなす。試合に出られなくても悔しさは胸の内にしまい込み、チームが勝つために徹する。それも、巡り巡って自分に還ってくるから――。
名古屋はシーズン終盤を迎えてもいまだ無敗。最多得点、最小失点も記録して「絶対王者」として首位を独走中。そのワケは“2人の守護神”がいるからに違いない。
文・舞野隼大(SAL編集部)
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