21日午前、保釈される可能性があるとみられていたゴーン容疑者再逮捕のニュースが飛び込んできた。
前日には東京地裁が検察側によるゴーン容疑者とケリー被告の勾留延長の請求を却下、さらに同日夜にはこれを不服とする東京地検の準抗告も棄却されていた。理由について東京地裁は再逮捕された事件とすでに起訴されている同じ容疑の事件について、事業年度が連続する一連の事案」であるためいう見解を明らかにしている。
そんな中での再逮捕を、海外メディアも驚きと共に報じている。アメリカのブルームバーグも「勾留中に再逮捕」のタイトルと共に「保釈の流れから大どんでん返し」、フランスのAFP通信は「検察がゴーン容疑者の早期保釈の期待を打ち砕いた」と報じた。また、ウォール・ストリート・ジャーナルのピーター・ランダース東京支局長は「再逮捕という概念はアメリカの司法に…州によって違うが再逮捕という概念はあまりないので、説明するのに苦労する」とコメントしている。
ルノーの本社があるパリの市民からは「法律の専門家ではないけどショックを感じている」「フランスでは(勾留は)4、5日なのに。それが日本の法律ならそれを守るべき」「日本の司法システムはフランスと比べてより多くの証拠が必要なのかもしれないね」との声も聞かれた。
■「常識ではありえない」
まず、東京地裁による却下の判断について元検察官の落合洋司弁護士は「私もこの世界で30年くらいやっているが聞いたことがない。勾留延長が却下されるのは全国で年間に百数十件くらい。それも覚醒剤など普通の事件がほとんどで、特捜部の事件というのは異例中の異例。常識ではありえない。保釈されて外に出てしまうと口裏合わせをされたりする可能性があるので、できるだけ身柄を中に入れておくために再逮捕する。けしからんという批判もあるとは思うが、捜査する側としては法令の中でやっている。裁判所としても、今まではラフというか、特捜部の事件なので延長は当然だという面があったと思う。ところが今回は相当厳密に考えている。おそらく諸外国からの正当な批判に対してはきちんと耳を傾けないといけない、という良い意味での影響があった可能性は高い」と話す。
「それぞれの国ごとに歴史や国民の考えに基づいて刑事司法制度があるので、他国と違っているからいけないとは言えない。ただ、特に欧米では人権の保障や弁護人による防御などのグローバルスタンダードができつつある中、日本がそこから外れている面があるのは事実だ。そういう意味では今回の事件で注目され、批判が浴びせられている。それには謙虚に耳を傾けないといけないと思う。今後もこういうことが続くと、捜査スケジュールが自分たちの思い描くようにはいかなくなる。当たり前のことだが、そこを特捜部は危惧していると思う」。
■「本来、身柄の拘束は例外のはず」
成城大学法学部の町村泰貴教授も「再逮捕を繰り返し、起訴前の取り調べを続けるのが日本の検察のいつものやり口。その意味では今回の再逮捕にはあまり驚きはない。ただ、勾留延長請求が認められなかったということにびっくりした。昨年の統計では99.8%が延長を認められており、却下されるケースは本当にごくわずか。裁判官が良心に目覚めるなにかがあったんだろう(笑)」と話す。
「本来、日本の法律でも身柄の拘束というのは例外のはずだ。つまり逮捕にしても、勾留にしても、それなりの容疑があり、逃げるかもしれない、罪証隠滅するかもしれない場合にのみ必要だからやること。特に勾留の延長というのはもっと例外のはずだ。だから今回はその建前の通りになったと言えるかもしれないし、今までずるずる認めてきたことの方がおかしかったとも言える。"日本の刑事司法は中世並みだ"と外国から批判され、"日本の制度はそうではない"、というのは反論になっていない気がする」。
町村教授によると、今回の事件をめぐってはフランス国内での関心も非常に高いという。「フランス政府としてはルノーと日産の関係の方が重要なので、ゴーンさん個人にはそれほど関心はないかもしれないが、それでもフランス大使は面会に行った。フランス人はそういうところにはうるさく、世界中でフランス人を保護しようという動きをしてきた。"未開の国で捕まったフランスの人を助けにいかないといけないという意識があるのだろう」。
■特別背任で有罪なら実刑の可能性も
ゴーン容疑者再逮捕の容疑は「特別背任」。2008年10月、私的な金融商品への投資で生じた損失約18億5000万円を日産に肩代わりさせる契約をさせ、さらに2012年頃までに、この損失を再びゴーン容疑者に戻す際に尽力した人物に日産の子会社から約1470万ドルを振り込ませ、日産に損害を与えた疑いだ。東京地検特捜部は午後1時頃から港区にあるゴーン容疑者の自宅での家宅捜索も行った。
検察の思惑について落合弁護士は「検察としては21日に勾留延長をもらい、28日の官庁の御用納めに併せて虚偽記載容疑の3年分を追起訴し、年明けに特別背任で再逮捕するという流れを予定していたんだろうと思う。ところが勾留延長を東京地裁に却下されてしまい、このままではゴーンさんが保釈になる流れだったので、前倒しで再逮捕したのだろう。昨日の今日で用意できるものではないので、もともと特捜部としては有価証券報告書の虚偽記載だけで終わるつもりはなく、特別背任とか業務上横領についても目指していたのだろう。ゴーン容疑者が最初に逮捕されたとき、日産の西川社長が記者会見で"公私混同"とか"経費の不正使用"があったと発言していたし、そうした情報も提供されていたはずだ。ただ、最近の報道や私のところに入ってくる情報では、立件はなかなか難しいのではないかという話だった。もちろん捜査の情報はなかなか表にでてこないので、分からないのが当然だが、一報を聞いて驚いた」との見方を示した。
また、特別背任容疑については「背任罪は刑法に規定のある犯罪で、他人の事務を処理するものであれば成り立つ。最近では森友学園問題で国有地を不当に安く売ることで学園に利益を与え、国に損害を与えたのではないかというのが背任罪にあたる。一方、特別背任罪は会社法に規定がある、会社の重役による犯罪で、刑法の背任罪よりも罪が重くなっている。ただ、成立の要件自体は同様で、自分や第三者の利益を図ったり、会社に財産上の損害を与えるために任務に背く行為をした場合に成立する。10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金で、その両方が科される場合もある。悪質性の程度や被害額、被害弁償などで執行猶予がつくこともあるが、もしゴーンさんが有罪になった場合、被害額が十数億円と巨額なので、仮に全部被害弁償をしたとしても実刑の可能性がかなり高いと思う」と説明していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

















