麻雀プロ歴22年、55歳にして2018年の麻雀界を引っ張ったのが、プロ麻雀リーグ「Mリーグ」セガサミーフェニックスの一員として活躍した、近藤誠一(最高位戦)だ。Mリーグでは魚谷侑未(連盟)、茅森早香(最高位戦)の女流2人とともに奮闘。その戦いぶりに、ファンからは「千両役者」、さらにはその顔立ちから俳優・梅沢富美男の持ち歌「夢芝居」といったコメントがネット上に飛び交うこともある。そんな近藤のトレードマークにもなっているのが、サウスポーであることだ。「麻雀の作りがもともと右利き用なので」と、右利きの人が何気なくやっていることでも、苦労があるのだという。この苦労を乗り越えるために自ら考え出したのが、左手首を返した状態が自然体となるようにする“自己矯正”だった。
近藤誠一麻雀時の手首の向き
麻雀のテレビ対局の歴史は、もう20年以上にもなる。フジテレビの「THEわれめDEポン」が始まったのが、1995年12月。その後、CS放送・MONDO TVでも1997年から「モンド麻雀プロリーグ」がスタートし、インターネット環境が時代とともに整うに連れて、対局のネット配信も増えた。「放送も、はしりの頃はカメラが対局者の左側にありましたからね。ツモってきたら(牌が見えないから)1回体を引いてくれと。1巡1巡やってたら、おかしくなっちゃいますよ(苦笑)そのうちカメラが右からついてくれるようになりましたけど、今でも光の問題は残っていますね。左側からの光が強いので、影になるんです」と、放送上の苦労を振り返った。
さらには放送に関係なく、麻雀そのものが左利きには不都合にできているという。「麻雀は捨て牌を河に左端から置いていくんですが、右利きの人は右から寄せるのでやりやすいんです」という。右からスライドするように牌を運べば、河にある牌と次の捨て牌がピタリとくっつく。「左利きだと向きが逆なので、一度手首を返してから捨てないといけないんですよ。この動作が結構厄介で…」。ツモる時はまだいいが、捨てる時には左手首を捻り、手の平を外側に向けなければいけない。「1回ならまだいいんですが、毎回やるとあんまりきれいに見えないし、捨て牌も汚くなるんですよね」と、複雑な動作は見栄えが悪いと感じた。
近藤誠一本来の手首の向き
考えた近藤が出した解決法は、実にシンプルではありながら、実践するには労を要する“自己矯正”だった。「人間の手って真っ直ぐ出すと、やや内側に開くのが楽なんですよね。これが開いているからやりにくいのであって、最初から返しておけばいいんじゃないかと。基本姿勢で左手を返しているんです」と笑って、両手を伸ばして見せた。右手は親指が上を向き、左手は下を向いている。左右が非対称だが、これが雀士・近藤にとっては自然体だ。「最初のころは自分で手首を(外側に)捻ったんですよ。電車に乗って暇だった時とか、ずっと捻ってましたね。最初はやりすぎて、ひじや手首が痛くなったりもしましたけど(苦笑)ちょっとずつ調整しながら、慣らしていきましたね」と、外向きになるくせを自力でつけていった。
実は箸やペンは右手を使う。「子どものころに矯正されまして。麻雀やスポーツは全部左ですね」。牌を握る、捨てるだけなら、右手でやろうと思えばできなくもない。ただ、やはり左手で牌を握る感覚は捨てられなかった。「学生時代に右手でやったこともあるんですけどね。右だと感覚が狂うんですよ。自分の中では『感覚の右脳』『理論の左脳』を信じていて、左手を使うと交差している右脳が活性化されると。今はとにかく感覚を最優先で打とうと思っているので、どうしても左で打ちたいんですよ」と、サウスポーへのこだわりは強い。トップレベルの麻雀理論を持った上で、人生で二度と同じものが来ないと言われる配牌から、感覚を頼りに最高形を目指す。「大きく打って大きく勝つ」がモットーの近藤には、その左手こそが不可欠だ。
2018年は、まさに麻雀界を代表する活躍を見せた近藤。まもなくやってくる新たな年も、その左手から次々とファンを驚かせる一打が放たれるはずだ。【小松正明】
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