大きな「世代交代」の流れが押し寄せた2018年の将棋界。デビュー以来、快進撃を続ける藤井聡太七段(16)が最年少でタイトルを獲得するのか。また、27年ぶりに“無冠”になった羽生善治九段(48)が復活するのか。さらには、かつて羽生九段が“七冠独占”を果たしたように、8つあるタイトルを1人で複数持つ棋士が増えるのか。激動が予想される2019年の将棋界を占った。
■藤井聡太七段、最年少タイトルの可能性
昨年2月に全棋士参加の「朝日杯将棋オープン戦」で、最年少の一般棋戦優勝記録を樹立した藤井七段。既に若手棋戦では出場資格から飛び出し、また他の棋戦でも実績から二次予選、さらには本戦からの出場も増えたことで、対局数自体はデビュー年度となった2017年度より、2018年度の方が減少した。それでも、勝率は最高勝率賞に輝いた2017年度(.836)よりも、2018年度(.842)が上回っている。
朝日杯では羽生九段のほか、後に竜王となった広瀬章人竜王(31)、佐藤天彦名人(30)を下して優勝。ファンの間で用いられる、対戦相手との成績による現在の実力を示す「レーティング」ではトップ5、さらにはトップ3にランクしているケースもある。これだけ見れば、屋敷伸之九段(45)が持つ最年少タイトル挑戦記録(17歳10カ月)、さらには挑戦だけでなくタイトル獲得(18歳6カ月)記録の更新にも、十分に現実味がある。
ただし、勢いのある20代半ばのタイトルホルダー、経験者には、力の差を見せつけられる時もある。昨年、初めてタイトルを獲得した斎藤慎太郎王座(25)、過去に王位のタイトル歴がある菅井達也七段(26)には、公式戦でいずれも0勝2敗。16歳という年齢を考えても、若手の中では抜けた存在であるのは間違いないが、タイトル獲得となると、斎藤王座や菅井七段のような相手に勝って、タイトル挑戦にたどり着かなければいけないだけに、この1年でどこまで勝ち上がりながら成長できるかが、ポイントとなりそうだ。
■羽生善治九段、復活のタイトル100期なるか
12月の竜王戦七番勝負で、フルセットの末に失冠し、27年ぶりに“無冠”となった羽生九段。年度別での勝率は、プロ入り後初めて6割を切った2016年度から3年連続で、5割台となっており、若手の台頭に苦戦している。それでも順位戦A級では佐藤名人へ2期連続での挑戦を目指し、豊島将之二冠(28)、広瀬竜王と激しく争うなど、トップクラスで戦う力を持っている。タイトル通算99期で、100期の大偉業達成に最も近いのは順位戦A級を勝ち抜き、名人に挑戦、奪取することだ。
その他のタイトル戦では昨年、挑戦者決定戦で敗れた王位戦は、予選ではなく挑戦者決定リーグ戦からスタートするだけに、挑戦権獲得には比較的近いと思われる。その他の棋戦は、負けたら終わりのトーナメントを勝ち抜く必要があるため、羽生九段にとって挑戦権獲得も容易ではない。日本中が大注目する、タイトル100期をかけた番勝負を、早く実現させたいところだ。
■現在は複数冠ただ1人 将棋界をリードするのは
現在、8つあるタイトルのうち、複数持つのは豊島二冠(王位・棋聖)だけ。12月に竜王のタイトルを獲得した広瀬竜王は、棋王戦で渡辺明棋王(34)への挑戦が決まっている。豊島二冠と広瀬竜王は、順位戦A級で佐藤名人への挑戦権を激しく争っており、奪取となれば三冠、あるいは2人目の二冠が誕生することになる。また、渡辺棋王は王将戦で久保利明王将(43)に挑戦するため、ここでも二冠誕生の可能性がある。2017年には一時、8つのタイトルを8人が1つずつ持ち合ったことから群雄割拠の時代に突入とも言われたが、数人が複数を持つ時代に流れていくのか、引き続き競り合いが続くのか、将棋界の流れが見える1年にもなりそうだ。
■昨年は女流棋士が大健闘
女流棋界最強と言われ、6つ(新設で今年から7つ)あるタイトルのうち4つを持つ里見香奈女流四冠(26)をはじめ、女流棋士が「女流枠」で男性棋戦に参加し、勝利することが多かったのが、2018年の特徴でもあった。渡部愛女流王位(25)、伊藤沙恵女流二段(25)といった里見女流四冠と同年代の女流棋士が、男性棋士顔負けの将棋を見せていることで、女性ファンの拡大や、女流棋士を志す人が増えるなど、将棋界に大きく貢献している。今年は史上初となる、女流棋士による予選通過といった快挙が見られるか。
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