8日午前、カルロス・ゴーン容疑者の勾留理由を開示するための公判が開かれた。「勾留理由の開示」とは、通常の裁判と同じように公開された法廷の場で、裁判官が検察による勾留を認めた理由を明らかにする手続きのこと。しかし、この手続きが請求されるのは全体のわずか1%未満となっている。
一般的に、勾留理由を裁判官が明らかにするといっても「証拠隠滅の恐れがある」などの抽象的な理由が示されるだけで、容疑者にとってはあまりメリットがない。さらに、容疑者は逃亡防止のため手錠と腰縄をつけた姿を法廷に晒すことになる。「犯罪者」というネガティブなイメージが強調される恐れがあるため、実際に勾留理由の開示を請求する人は少ない。
では、なぜゴーン容疑者側は勾留理由の開示を求めたのか。実は勾留理由の開示の際、容疑者に10分という時間制限はあるものの意見陳述の機会が与えられる。ゴーン容疑者は裁判が始まる前に法廷という公の場で、自信の言葉で「無罪」を主張することに大きな意味があると考えた可能性がある。また、接見禁止処分によって家族などとの面会はできないが、公開の法廷であれば、会話はできないものの家族や友人などに姿を見せることができる。
グレーのスーツにノーネクタイ、足元は靴下とスリッパで現れたというゴーン容疑者。前を見据え、はっきりした口調で「公判廷で発言の機会をくれて感謝しています。私が捜査機関からかけられている容疑が、いわれのないものであることを明らかにしたい。最初に話しておきたいのですが、私は日産に対し心からの親愛と感謝の気持ちを持っている。日産のために全力を尽くして、公明正大かつ合法的に所属部署から必要な承認を得たうえで進めてきた。この企業が最も優れ、尊敬される地位を回復させるために進めてきた。裁判長、私は無実です。誠実に行動している。不正を追求されることもなかった。いわれのない容疑で不当に勾留されている」と話したという。
ゴーン容疑者の主張に元東京地検検事の郷原信郎弁護士は「時間に制限がある中で、『不当な容疑で拘束されている』『何らやましいことはない』と自身の口で語り、その印象をもって具体的な弁護人の意見陳述を聞いてもらいたいと。全体的なことを最初に強調したのでは」との見方を示す。
ゴーン容疑者が私的な損失約18億5000万円を日産に肩代わりさせる契約をしたとされる特別背任容疑について、弁護士側は差損金の支払いはゴーン容疑者の資産管理会社が負担すると約束したとし、「この契約によって18億5000万円を含む義務を負わせた事実はない」と主張した。この点については「評価損を日産に移したことは確かでも、損失はゴーン容疑者側が負担することを最初から約束していた。だから損失を与えるつもりもないし、損失も与えていないということ」だとした。
さらに郷原弁護士は、公判に手錠と腰縄姿で現れたことはメリットになる可能性があると指摘。「一般的にはデメリットだが、こんなことを日本ではまだやっているのかと。手錠と腰縄は逃亡防止のためのものだが、ゴーン容疑者が東京地裁から逃走する意味がない。合理的に考えると必要がないことを日本の司法は行っている、前近代的な、遅れた司法だということを印象づける意味では、プラスに働くかもしれない」と述べた。
11日に勾留期限を迎えるゴーン容疑者。今後の動きについては「起訴されるのが常識的な予測だが、今回の容疑はあまりに嫌疑が薄く、サウジアラビアに送金したことが本当に特別背任にあたるのかと疑問視する声は大きい。起訴できない可能性も全くなくはないが、起訴したとしても裁判所が保釈を認める可能性は相当程度あるのではないか」との見方を示した。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)