韓国最高裁による徴用工問題の判決について、これまで沈黙を貫いてきた文在寅大統領が、10日の年頭会見でついに口を開いた。
文大統領は「判決については、日本も韓国も世界の全ての文明先進国も同じだが、三権分立によって司法部の判決に対し、政府は介入できない。政府は司法部の判決に対して尊重すべきであり、日本も同じだ」との認識を示し、「韓日基本協定を締結したものの、それで全てが解決したわけではないとされる問題がいまだ続いている。これは韓国政府が作り出した問題ではない。過去の不幸だったあの長い歴史のせいで作られている問題だ」「日本政府はもっと謙虚な立場をとるべきだと思っている。韓国政府はその問題はその問題として、別途両国が知恵を絞って解決して、それによって未来志向の関係が損なわれないようにしようと話してきた。ところがこの問題を日本の政治家やリーダーたちがたびたび政治争点化して問題を議論し、拡散させるのは賢明な態度ではないと思っている」と述べた。
日本政府関係者は会見を受け、「(日韓合意を破り)国際条約に違反している国に謙虚さを求められる筋合いはない。(日本側としては)相手にしなければいい。韓国というより、あの政権が問題だ」と、文大統領を厳しく批判している。
日本中が注目していた文大統領の年頭会見だったが、徴用工問題についての言及はその最後、日本の記者による質問が出たことによるものだった。
拓殖大学大学院特任教授の武貞秀士氏は「どこの国にも三権分立があるではないか、司法の判断である判決に政治が介入するのか、というのが文大統領の一貫した立場。その韓国の理屈を際立たせるために、会見では触れようとはしなかったし、日本の記者から質問が出たので答えたということ。また、日本政府が9日に日韓請求権協定第3条に基づいた協議をしたいと申し入れているし、司法の問題に政治の分野に結びつけたのは日本の方だ、という論理を前面に出したということだ」と説明する。
「文大統領としては、協定とは別の不法行為であって、侵略戦争に加担した企業は雇っていた労働者の心の痛みを補償すべきだという論理だ。また、昨年10月末の最高裁の判決も、植民地支配とか侵略戦争は不法行為だと。不法行為に伴うものについては、1965年の日韓請求権協定の範囲外だから日本企業は支払うべきだという論理だ。この判決の中心を担った、日本に批判的な思想を持つ裁判官を最高裁にもってきて、条件作りをしたのは他でもない文大統領だ。司法の立場を尊重しなさい、司法に政治は介入しないというが、司法と政治があうんの呼吸で連携プレーしながら日本を追い込んだというのがシナリオだ。一方、請求権協定では"完全に最終的に解決した"と双方が一致して文書にしたもので、日本から受け取った5億ドルの分配については韓国政府が行うということなので、協定に従えば日本の論理が正しい。韓国の1000名あまり元徴用工が韓国政府を訴えているのも、5億ドルのうち3億ドルは個人の請求権に対して給付すべきだった、という論理によるものだ。もし韓国政府の論理が正しいとなれば、軍人となって戦った朝鮮半島の人々に対しても同じようにお金を支払いなさいということになるし、それは際限なく広がって、最終的には数百兆円くらいの支払いが日本にまわってくることにもなる」。
韓国外務省は文大統領の会見に関連して「日本側からの両国協議要請については綿密に検討する予定だ」としている。日本側の今後の動きとしては、(1)二国間協議で解決(2)仲裁委員会を設置(3)国際司法裁判所へ提訴(4)対抗措置を検討、といったことが考えられる。
武貞氏は「(1)は会見で文大統領が否定したようなものだし、仲裁委員会も韓国側が応じなかったら成立しない。ハーグの国際司法裁判所も韓国側が日本側の提訴を受け入れなかったら成立しない。今はひたすら韓国側が二国間協議に応じてくれるのかを待つ。そして仲裁委員会、国際司法裁判所に提訴した時に受けて立ってくれるかどうかということを、一縷の望みに期待して待つこと以外、日本には方法がない。そこで(4)まで考えた動きが日本の首脳部から出ているところだ」と話す。
「日本はいち早く国際社会に復帰するために、侵略者だったという見方に正面から反論せず、東京裁判でもひたすら"はい"と言い続けた。その後も専守防衛、非核三原則、武器輸出三原則、シビリアンコントロールなど、外交・防衛政策でも譲歩し過ぎたし、大盤振る舞いのODAを中国はじめ世界にばら撒いた。そのように自分を縛りあげる論理を世界に訴えてきたので、プラスアルファの補償等についても心を開くに違いないという見方が今日まで残ってしまった。19世紀以降の、東アジアにおける日本の政策は全部悪だったという議論も、1965年の日韓の基本条約、請求権協定の際に韓国が譲らなかった点だ。一方、日本としては朝鮮半島の近代化に協力し、インフラ整備も持ち出しでやったと主張したので、収拾がつかなくなった。そこで請求権を双方に放棄し、日本が経済支援という名目で合計5億ドルの支援を行うことにして、これで完全かつ最終的に決着した、と封じ込めた。それでもこの問題は今も続いている」。
在日コリアン3世の郭辰雄・コリアNGOセンター代表理事は「文大統領も苦しい立場にいると思う。そもそも大統領になった経緯が非常に特殊で、前任の朴槿恵大統領が市民からの退陣要求の中で裁判所から罷免された。そして朴政権の顔色を見ながら運営していた人たちを排除して、自立して運営できるようにした。日本に対してなにかを強行するための人事だったということでは必ずしもない」と指摘。「韓国には協議に乗って欲しいと思っている。3年間は提訴の猶予期間を設けているので出てくる可能性はある」と話した。
さらに「僕はおじいちゃんとおばあちゃんが植民地時代に日本にやってきたので、抽象的な歴史の話ではないというのが実感としてある。それでも日韓が対立しているのは本当に胸が痛い。"韓国ってこういう国だよね。反日だよね。在日コリアンもそうなの?"みたいな話も出ているのでしんどい。確かに、日本を敵にして内を固めるということも昔はあった。しかし今は韓国からの観光客が年間700万人もいる。政治の動きと一般の市民の見方、考え方は必ずしも一致しているわけではない。やはり新しい時代の中で日韓関係をもっとよくしていく必要があるんじゃないか、お互いがもっと交流していこうと思っている人がどんどん増えているのも事実。自分たちの言い分、主張を一方に押し付けるのではなくて、お互いがそれを開陳しながらどこかで折り合いをつけていくための知恵を出し合う関係を作っていってほしい」と訴えていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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