2018年のロシアW杯のコロンビア戦で大迫勇也がゴールを決めると、インターネット上はあるフレーズで埋め尽くされた。
「大迫、半端ないって!」
10年前に行われた第87回全国高校サッカー選手権。鹿児島城西高校のエースとして異次元のプレーを連発した大迫に対し、マッチアップした相手選手が試合後のロッカーで発したのが最初だ。顔をくしゃくしゃにしながら、独特のアクセントで発せられた言葉は、強烈なインパクトとともに大迫の代名詞となった。
6クラブによる争奪戦の末に鹿島アントラーズに入団した大迫は、プロ入り後も順調に成長を遂げる。2013年には日本代表に初選出され、翌年のブラジルW杯のメンバーにも名を連ねた。大会終了後にはドイツ・ブンデスリーガの1.FCケルンへの移籍を果たした。
大迫が名実ともに日本のエースになったのは昨年6月のロシアW杯だろう。コロンビアとの初戦では立ち上がりに先制する最高のスタートを切りながら、後半に失点して追いつかれてしまう。
コロンビア人サポーターで黄色に染まったスタンドは、地鳴りのようなどよめきに包まれる。前半に退場者を出し、10人になっていた南米の強豪は息を吹き返しつつあった。日本にとって嫌なムードを変えたのは、大迫だった。
本田圭佑のコーナーキックを、打点の高いヘディングで合わせたのだ。日本に貴重な勝ち点3をもたらした、このゴールをきっかけに日本では「大迫、半端ないって」が再燃。2018年の流行語大賞にノミネートされるほどのブームになった。
森保ジャパンになって初の公式戦となったアジアカップ。初戦で当たるトルクメニスタン完全な格下だ。しかし、W杯から大幅に選手が入れ替わった日本は、うまく試合の流れに乗れずミスを連発。36分には、守備の隙を突かれて先制点を決められてしまう。
焦りが生まれてもおかしくない中、ピンチを救ったのはやはり大迫だった。56分、原口元気のパスを受けると冷静に相手をかわしてシュートを流し込む。振り出しに戻す。60分には、長友佑都からのパスをゴール前で詰めて2点目。大迫の2発でチームは勝ち越した。
「初戦で点が欲しい時に決められたのは個人としてもよかったです」
普段はクールな大迫だが、初戦を乗り切って安堵の表情を浮かべた。
大迫が“半端ない”と言われる理由はゴールを決められるからだけではない。むしろ、真骨頂は最前線でボールを「おさめる」能力にある。
11人の中で最も相手ゴールに近い位置、CF(センターフォワード)でプレーする大迫は、常に相手から厳しくマークされる。ボールを持てば背後からタックルを受け、複数の選手に囲まれることも珍しくない。それでも、大迫がボールを失うことはほとんどない。
アルベルト・ザッケローニ監督、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督、西野朗監督、森保一監督。日本代表を率いる各監督が、CFの一番手として常に大迫を選ぶのは、「ボールをおさめる能力が半端ないから」なのだ。
1月13日に行われるグループリーグ第2戦の相手はアジアカップの常連国であるオマーン。第1戦で日本を勝利に導いた大迫は、怪我の影響で欠場する可能性もある。大迫不在となれば、日本にとって大ダメージ。ピッチに出ても出なくても、日本のファンは大迫の存在の大きさを感じるのは間違いないだろう。
文・北健一郎(SAL編集部)
写真・ロイター/アフロ