一般社団法人ペットフード協会が1年前に発表したデータによれば、ペットとして飼われている犬・猫の頭数は、いずれも約900万頭に上っているという。一方、その影で問題になっているのが、保護された動物たちの殺処分の問題だ。今、ジャーナリストの堀潤氏が関心を寄せているのが、そうしたペットをめぐる問題だという。
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動物を飼うということについて、僕自身は責任を負えないと思っている人間なので、そもそも売り買いされてしまっている事自体が嫌なんです。4年前には、動物と人間がよりよい環境で共存できる社会を目指そうというキャンペーン「H-E-L-P」にも参加しました。
夜の繁華街でショーケースに子犬や子猫が並んでいるじゃないですか。海外の場合、街中では売っちゃダメとか、6か月未満は売買が禁止なので譲渡しかないとか、1歳未満で6回以上出産させないとか、さまざまな規制がかけられています。日本でも近年、動物愛護法が改正されましたが、基本的には自治体に任せられていますし、やはり規制が緩いといえるのではないでしょうか。
例えば猫の去勢・不妊手術も、1匹あたり3万円くらいかかるので、何匹もいたらかなりの負担になります。それで手がつけられなくなって捨てられて、保健所などに引き取られ、そして殺処分になっていく。
今、東京都も含め、あちこちの自治体が"殺処分ゼロ"を謳っていますが、いいことばかりではないんです。殺処分を防ぐため自治体が飼い主募集のイベントを実施することもありますが、ぞんざいに扱われた猫や野良猫は病気に罹って弱っていることも多いんです。そういう子たちは貰い手もいない。だから殺処分ゼロを達成するための一番の方法が、"引き取らないこと"になってしまうんです。つまり、数値目標を達成することが先行するあまり、保護することに対してシビアになってしまい、中間支援団体にどんどん引き渡していく。その支援団体の方はリソースが限られていくので、扱いがおろそかになっていく…という、ひずみが生まれていると思います。
そんな中で僕が注目して取材を続けているのが、「TNR日本動物福祉病院」の取り組みです。
代表の結昭子さんは、もともと福島第一原発事故で警戒区域になった地域に取り残された動物たちを助け出す活動に参加したのがきっかけで、殺処分の問題に開眼した方です。人間がもたらした環境の変化によって犠牲になる命が出ている現状を少しでも変えたいと考え、さきほど話したような構造を断ち切るための活動を始めました。
それが、有志の獣医さんたちに集まってもらい、治療をゼロ円で受けられる小さなクリニックの立ち上げでした。保護された動物たちを早い段階で引き取り、病気を治し、引き取ってもらえるようにした上で呼びかけるという一連のスキームを提唱しています。
さらに"この飼い主は本当にちゃんと飼ってくれるだろうか"と、引き受け手の選別も行っています。不安を抱いている人には飼い方の指導もし、見守り続ける。まるで特別養子縁組の支援団体のようですが、人間と同じ生命だと考えれば、当たり前のことですよね。
ただ、これくらいしっかりした体制を実現させていくにはかなりのお金が必要です。血液検査や検便、そのための機器の購入。獣医さんたちが動物病院の収益をそちらに充てたり、結さんがクラウドファンディングで寄付を募ったりしていますが、なかなかうまくいっていない。ペット愛好家の方たちも、買うときには高いお金を払うけれど、なかなか他の動物たちのことになると…。
簡単に手に入るくらい動物たちが供給されている、つまりビジネスになっているという問題。本来、動物を飼うのに、お金を介在させる必要は無いはずです。でも、血統が…と吟味するでしょう?そして支援施設で動物虐待の話が出てきたとしても、単にその運営者が悪い、劣悪な団体は潰してしまえ、と批判するだけになっている問題。それでは残された犬たち、猫たちはどうなるでしょうか?やはり多くの人に、"命を扱っている"ということを改めて考え直してほしいと思っています。
■プロフィール
1977年生まれ。ジャーナリスト・キャスター。NPO法人「8bitNews」代表。立教大学卒業後の2001年、アナウンサーとしてNHK入局。岡山放送局、東京アナウンス室を経て2013 年4月、フリーに。現在、AbemaTV『AbemaPrime』などにレギュラー出演中
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