15日、保釈請求が再び却下された元日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告。
14日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、カジノで100億円以上を溶かし、特別背任の罪で東京拘置所に勾留された経験を持つ大王製紙前会長の井川意高氏に、特別背任容疑の取り調べの実態について話を聞いた。
ゴーン被告は18.5億円もの自身の評価損を日産に付け替えたとされる問題と、サウジアラビアのハリド・ジュファリ氏へ1470万ドルにあたる不正支出を日産の子会社から行なったという問題の2つの特別背任罪に問われている。
井川氏は「特別背任」の取り調べのポイントについて「自己の利益と会社への損害の立証」「金の流れを1円単位まで明確化」だと話す。
「特別背任というのは"図利加害"といって、自己または他人の利益を図るために会社に損害を与えたという罪。自白も含め、証拠を固めないといけないが、どこまでが自己の利益のためだったのか、という判断が難しく、グレーゾーンが非常に多い。私の場合はギャンブルだったので、そこはわかりやすかったが(笑)。また、どれだけの被害を与えたのか、1円単位まではっきりさせる必要がある。そうした点で、検察の主張が弱いという気がする。起訴に持っていくにはかなり無理をしないといけなかったと思う。あくまでニュースを聞いての判断だが、少なくとも18.5億円の付け替えで日産には実損は与えられていないので図利加害が成立しないと思う」。
さらに井川氏は「"罪の意識"があったかどうかについて、私の場合は顧問弁護士から"30日くらいで出られるが、初っ端に認めてしまうのは癪なので、2週間くらいは突っ張れ"と言われた。10日目に、とうとう検事さんが"いい加減にしてくださいよ!そんなことないでしょう!"と、声を荒げたので、弁護士に相談して、言うことにした。検事さんがそういう声を出したのはこれが最初で最後。検事さんは誘導したことにしないため、"Aじゃないでしょ、Bでしょ?"という言い方じゃなくて、"一晩寝て、思い出しました?あのときのこと"というような言い方をする。だから私も"ゆうべ考えたら、罪の意識ありました。思い出しましたと"。そうしたら"やっと思い出してくれましたか"とにっこり笑った(笑)」。
ニューヨーク州弁護士の山口真由氏も「お金が渡っている方にも聴取して、すべての客観証拠を綺麗に固めないと難しいが、ゴーン被告側が"損害を与える意図はなかった"と主張して、それが客観的に裏付けられてしまえば、検察としてはかなり苦しいことになる」と指摘した。
■日本の検察が抱える問題点
そんな日本の検察のあり方をめぐっては、国内外から様々な非難の声が上がっている。その一つが、いわゆる"人質司法"の問題だ。
「私の場合はギャンブル用に7社からお金を借りていたが、同じ事件なのに5社と2社に分けられた。これは勾留延長のために予備としてわざと2社の分を残しておいて、20日目に再逮捕するという狙いがあった。全体としてみると同じ事件であって、関わっている人いない人を分けていったらキリがないそれなのに、わざと分けて勾留期間を伸ばすテクニック。特捜の昔からのお家芸で、"人質司法"の一つの現れだ。その間にできるだけ攻め立てて自白をさせる。GHQが新憲法を作るまで、日本では自白が"証拠の王様"。江戸時代からの日本の司法の伝統で、それがいまだに残っているということだ」(井川氏)。
また、井川氏は捜査関係者からの情報に基づく報道についても苦言を呈する。「私の経験から言って、新聞に書かれていることの50%くらいは事実じゃなかったし、週刊誌に書かれていたことは90%が事実じゃなかった。検察官が記者に情報を流すこと自体、違法行為だと思う。ウソはついていないかもしれないが、自分たちがやっていることは正しいんだと世論に訴えるために、都合の良いところだけを切り貼りして流す。それを報道するのは仕方のないことだが、新聞も意識をしてほしい」。
こうした問題について、元新聞記者でノンフィクションライターの石戸諭氏は「否認事件の方が勾留日数が長くなるということから、本当はやっていないのに、"やった"といった方が得をするという状況になってしまっている。ここも見直さなくてはいけない。また、検察官は一番口が堅く、取材するのがすごく大変。その代わり、一度インナーサークルに入り込んでしまえば、その中での非公式で個人的なやりとりの中で取材ができるようになる。結果、検察側に有利な情報が流れる。ここが怖いところだ。起訴する段階までいっても、表向きは"まだ捜査中なのでコメントを差し控える"ということが言える。しかし、このやり方には限界がきていると思う。アンオフィシャルに捜査するなら、オフィシャルに説明するべき。テレビの取材等もいまだにNG。国際的に批判されても仕方がない」と指摘した。
山口氏も「勾留が長い人質司法は日本特有だと思う。東芝の虚偽記載事件が刑事事件にならなかったのに、ゴーン氏は事件になったのは、日本では検察官の裁量が大きく、裁判所と同じような役割を果たしてしまっているから。一方、アメリカは有罪か無罪か陪審員が決定するので、時々"トンデモ判決"が出されてしまう。その点、日本は検察官が克明に調書を取るので、"精密司法"だとも言われている」と説明。「特捜の世論誘導は昔からあるが、今回が特殊なのは、世論が付いていっていないこと。刑事は刑事、民事は民事、そして人間としての責任は別なんじゃないのと、みんなが判断できるようになってきている」との考えを示した。
■事件について「非常に違和感」
「日産が倒産するしかなくなっていたところにルノーの出資があって、そこからゴーンさんが利益出るところまで立て直した。私も赤から黒にひっくり返したという経験があるが、そうなると経営者には"会社にこれだけ貢献したんだから、これくらいいいだろう"という驕りが生まれてしまう。"ポジションが人を作る"という言葉があるが、悪い方の意味もあると思う。だから歴史のある商社なんかの社長の人気が2期4年などと決まっているのは、昔の財閥の知恵なのかなと思う」と話す井川氏。
その上でゴーン騒動について「非常に違和感を持っている。日産内のクーデターのような関係があった場合、それに特捜が手を貸すような形になってしまって本当に良かったのか。私の時は事前に何度か任意の取り調べがあったので、ある程度、話を聞いて固めてから正式逮捕だった。ゴーン氏の場合は羽田空港でいきなり逮捕。そのあたりも反撃を許さない日産の意向を含んだクーデターの匂いがする。特捜の中では、"大きな事件を手がける"ということが快感、自己満足になっている。今回も"世界のゴーンを手が"けた"ということで、うまくいけば鼻高々だ、という動機は否めないと思う」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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